ネット記事のススメ
「冴、冬休みあの人とはどうするつもりなの?」
「あの人って……ッ!? な、何よ急に!」
「だって最近うまくいってそう見にえるけど、なんだかパンチが弱い気がするんだよねぇ」
「パンチ?」
「そう、パンチ。打撃力。魅惑の魔力」
「物理攻撃なのか精神攻撃なのかわからないよ」
「そんなことは今はどうでもいいの! このまま今の立場に甘んじていると誰かに涼さんをかっさらわれちゃうわよ」
涼の初めてのまともな後輩、佐伯冴の親友福良白が発破をかけてくる。冴とて白と同じ焦燥を味わっているが、一向に解決策が思いつかない。
まともに誰かを好きになったことのない冴にとって、涼は初恋の相手だ。
普通ならばもう何年も前に済ませてこの葛藤とうまく付き合う方法を模索しているところだが、冴は葛藤に飲み込まれ指針を失った。
「そうれはそうなんだけど……でも、どうすればいいかわからないの。あんまりグイグイいけないし、いけたところで引かれちゃったら立ち直れないわ」
「いつもの冴とは思えないほどネガティブ思考に陥ってるねぇ。まぁ気持ちは理解できるけどさ、冬休みにはイベントが盛り沢山だよ! クリスマスに初詣……それくらいか。でも、年で最も盛り上がる月に変わりなし! ここで攻めてもううじうじ悩む佐伯冴とはお別れしよ!」
「私だってできればそうしたいけど……ねえ、白。何か具体的なアドバイスはない?」
「無理! 私人に教えられるような恋物語を体験したことがないの」
「知ってる。どうせ何かの雑誌やネット記事で読んだんでしょ。その百戦錬磨のライターさんはどんなアドバイスを書いていたの?」
「ううんとね……ちょっと待って……「クリスマス デート 誘い方」……まずその一、好きな人を誘うタイミングを図る。「もうすぐクリスマスだね」、なんて言ってクリスマスの話題を振ったり、SNSで街の写真を送り「わー、もうイルミネーションでいい感じ。クリスマスだからかな? 〇〇くんはどう過ごす予定なの?」みたいなかんじで話題を振ってみるなどが手です。親密でもう付き合う手前くらいと感じているならば直接勇気を出して誘うのもいいでしょう。要約するとこんなかんじ。他にもその五くらいまであるから記事読んでみなよ。リンク送るね」
白は記事が思ったよりも長く、読んでいて自分の心が抉られていった。仕方なく途中で読み切るのを諦め、冴にリンクを飛ばすことにした。
私にも素敵な相手ができないものかな、なんて柄にもなく考えてしまった白は冴にサイトのリンクを送った後「女子校 彼氏 作り方」なんてワードで検索をかけてみた。
冴は白から教えてもらった記事を読むのに夢中で白も懸命に別の記事を読んでいることに気が付かない。
ちなみに、白が読んでいた記事にはおすすめの出会い方が載っていた。前提条件に、女子校に通うと理想が高くなって王子様のような相手を思い浮かんでしまいますが、そんな人は現実にはいません。そんな釘を打つ文言があったが白は(涼さんってやっぱり例外のタイプだよねぇ)なんて思った。
(その一、文化祭で知り合う……んー、無理だったし、うちじゃ無理かなぁ。その二、バイト先で彼氏を作る……んー、ありっちゃありだけど私バイトしてないし働きたくないんだよねぇ。その三、塾で彼氏を作る……なんかそんな不純な目的で通っちゃ落ちるでしょ、今の彼氏より将来の学歴! その四、通学中の出会いで作る……確かに電車で来ているし何人か翔央や他の高校の男子生徒の顔は覚えているけど、私から誘うなんて無理無理。こう見えて私シャイなんだからねッ! その五、友人に紹介してもらう……冴に期待するのもなぁ、それに他に仲良い友達って中等部上がりばかりだから期待できないし……あッ!! いいこと思いついた!)
「どうしたの白、何か意地の悪い顔しているけど」
「ううん、なんでもないよぉ。ちょっとおもしろいこと思いついちゃって」
「私にとってはおもしろくないことなんだけど。それで今まで何回からかわれたことか。悪さする前に早く白状しなさい!」
「なんだか先生みたいだね。涼さんの塾の講師をやっているおかげかな?」
「茶化さないで、いいから教えてよ。もったいぶられると心臓に悪いんだから」
「んー、一つ確認なんだけどいい?」
こういうふうにパッと切り出さないときはたいてい良くないことが起きると冴は経験からわかっている。まるでイタズラをした子どもが必死に言い訳を考えているみたいに話が長引くのだ。
「なに?」
それでもめんどくさがって後回しにするのが一番の悪手なので冴は白の話術に引っかかることにする。
「涼さんの誘い方は定まった?」
「ううん、全く。この記事参考になったけど私にはハードルが高いわ。なんかもっと入門編みたいな記事知らない?」
「これもう中学英単語帳なみにイージーな記事だと思ったんだけどなぁ。これ以下は自力で頑張るって言わないよ」
「ううっ……そっかぁ。みんなすごいなぁ。私こんなにも涼さんを誘うのに緊張するとは思わなかった。まだ会ってすらいないのに身体が震えるの」
「ほんとウブだねぇ冴は(私もその気持わかるけど……)。そうだろうと思って、私が冴に天の恵みを授けたいと思います! 早めのクリスマスプレゼントだと思ってくれてもいいよ!」
「悪魔の囁きとか血の盟約とかじゃないよね」
冴は目を細めて白を睨みつける。彼女にとって今最も信頼できない相手が目の前にいる親友だ。
白は冴の疑惑の視線に怯えるどころか嬉しそうに微笑んで返す。
「じゃあ私の今年最高の妙案を発表致します! それは、涼さんに合コンを開いてもらう……です!」