早速
第十一章始動!
「涼、今日は学校あるの?」
「まあ、期末テスト終わっても何回かはあるさ。でも後二回だけだからちゃんと待っててな」
涼と柚が恋人になってから一週間が経ち、辺りの空気は冬の割に酷く暑かった。
おはようからおやすみまでの流れは普段と変わらないが、今までにない習慣がいくつか追加されている。
その一がこのいってらっしゃいのお見送りだ。
柚は涼が出掛ける時必ず玄関まで見送りにやってくる。てくてくとやってくる様はペットの仔犬を彷彿とさせ、涼の頬も必ず緩む。この彼女にこの彼氏ありだ。
「お昼ご飯は家に帰ったら一緒に食べような。朝ごはんはテーブルの上に乗っているから」
「うん、わかった」
涼は学校用のローファーを履くと腰を落として柚の頭をそっと撫でた。
柚も満面の笑みで受け入れ破顔する。まさにご主人様に撫でられる仔犬だ。
涼は柚の姿を見て優しく微笑み学校へと向かった。
もう二学期の期末テストも終わったのだから早く冬休みにしてくれ、と望む声があちこちから聞こえる中涼は教室に入る。
もちろん、涼の通う高校は全国でも名門の私立高校なので、冬休みに遊ぶ予定が飛び飛びになってしまうという愚痴ではなく、塾にこもって自習したいという勉強したい叫び声ばかりだ。
最近キャンプに行ったばかりの涼は罪悪感に駆られるが、そんなことを言っている連中は大抵成績が中以下の急に勉強を始めた奴らばかりなので、日頃からやればよかったんだと内心呟いて気分を晴らす。
「おはよう」
「おはよう」
「なんだか久しぶりな感じがするな」
「一週間ぶりだからな、そんな風にも感じるさ。……涼、この一週間の間に何かあったか?」
隣の席に座る涼の高校一の親友、榊真は涼の顔を見て訝しげな表情をする。
涼にはたった一つ真にそう指摘される心当たりがある。
言うまでもなく柚との交際だ。
以前文化祭で葵と一緒に回っている時、涼たちは真とバッティングした。その時は涼は誰とも付き合っていないと話している。
また、常日頃から誰かと付き合うつもりは無いと公言しており、今や何故だかクラス中の共通認識だ。
悪いことはしていないし、柚と付き合っていることにあと目は無い。
しかし、全てを悟っているような涼の認める天才に面と向かって言われるとなんだか後ろめたい気持ちになる。
ドキッと心臓が強く脈打ったが、柚と恋人になったことは隠し通すと決めた。いくら親友と言えど話せないことはある。
「最近僕のやっている塾に問題が発生してね。どうしようか立ち上げをサポートしてくれた保護者にも相談して考えていたんだけど、ようやく答えを出せたんだ。そのおかげで今は気分が晴れている。知らず知らずのうちに顔に出たのかもしれない」
動揺を表に出さず、必死に演技をしてやり過ごしてみた。悩んでいたことも解決策に自信を持てるようになったのも事実なのでとても自然に映るだろう。
木下塾に関してはノータッチで会社経営については素人の真は「それは大変な問題だったな。良い方法が見つかって良かったよ。どんな問題があったのか聞いてもいいか?」と涼の言葉を真に受ける。
涼は内心ほっとしながら真に詳しく木下塾の問題を説明した。
一週間ぶりに会う親友に会って早々変化に気付かれるとは涼も予想外。
そんなに顔や雰囲気に出るものなのかと疑問に思うが、これに関しては普段通りにしていると思っている涼には心当たりがない。
先生に冬休みの課題を説明されている間ずっと涼は自身のどこが変わったのか考え続けた。
結局答えが出ることなく帰りのホームルームが終わり、涼はブツブツと呟きながら帰路につく。
柚と昼ごはんを食べる約束をしているので買い出しはせず直接帰宅した。
「ただいま」
「……おかえり」
これも柚と恋人同士になってから生まれた習慣だ。体がとても小さいので玄関までかなりの時間を要するが、必ず柚は出迎えをしていた。涼も柚が来てくれるまでじっと靴を脱がずに待っている。
「すごく早いのね。何しに学校に行ってたの?」
「冬休みの課題を各授業から出された。他には冬休みに学校で受けられる特別授業の案内や成績が悪かった生徒の補習案内とかかな。僕も行きたくないんだけどね」
「私も涼にはずっと家にいて欲しかったわ」
「そうだね、柚と一緒にいる方が何百倍も楽しかったと思うよ。でも後は終業式に行くだけだから、これからはずっと一緒だね」
「うん!」
周りにお茶を濁す相手がいないからか、涼たちの桃色の会話は永遠と続く。
最初は恥ずかしさもあったのに、いつの間にかこんな会話が当然となり、お互いを慈しむ想いは青天井に膨らんでいった。
いつもの毒の入ったからかい合いですら今やむせるほど甘々しい。
鋭い者が涼に違和感を覚えても不思議ではなかった。
これまた長くなりそうな章が始まります。
一応二章先までこうしようという構想(言葉だけ立派ですがイメージのみです笑)があるのでまだまだ続きますよ。