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妖精の住処  作者: 速水零
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【if】魔法使いの恋人

涼視点となっております。

「おはようございます、涼さん」


「おはよう、冴。今日もまた一段と可愛らしいね。好きな人にでも会いに行くのかな?」


「えへへっ。もう好きな人に会っています。涼さんこそそんなにオシャレなんかしちゃって、好きな人に見せるためですか?」


「いーや、僕は母さんが贈ってきた服を来ただけだよ」


「もう、そこは嘘でも冴のためだよとか言う場面ですよ! まったく、涼さんは相変わらずですね。もっと私を喜ばせるセリフを考えてください」


 僕は文化祭でのデートに始め、一緒に木下塾を運営していくうちに惹かれ合い、ついには交際することになった。


 もう誰とも付き合わないぞと思っていた僕だが、可愛らしい後輩の前ではそんな決意など紙屑のように吹き飛ばされた。


 初めて人を本気で好きになったと思う。


 今まで冴はただの可愛い後輩でしか無かったのに不思議なものだ。母さんの影響が大きいことは否定できないが、それだけ冴が僕に踏み込んでくれた結果なのだろう。


 あんなにまでしてくれないと恋心に目覚めないとは、僕の遺伝子は相当強固な壁に覆われているのかもしれない。間違いなくあの人のせいだな。


「それじゃあ行こうか」


「はいっ!」


 僕と冴が付き合ってこれが初めてのデートになる。


 いつもファミレスや木下塾で一緒になるが、プライベートで会うのはこれで三回目だ。少し緊張しているのか、冴の様子がおかしい。


 よく観察してみると手がプルプル動いている。


 冴の性格からして手を繋ぎたいけど自分からはいけないってところか。


 焦らして意地悪するのも面白いが、付き合って初デートだしちょっと優しくなろう。


 僕は冴の寂しそうにしている右手を握りしめ、ビクッと驚いた顔にしたり顔をして見せた。意地悪が入ったが気にしない。以前姫に見せたような王子さまスマイル(イメージ)を見せればよかったかな? まあ、無理だ。


 冴は一瞬むくれ面をしたが、僕の手を軽く握り締め頬を緩めた。


「横浜って何度も家族とか友達と来たことありますけど、涼さんと来るとまた違った景色に見えるから驚きです。何か魔法を使っています?」


「どうだろうね。僕が使える魔法は惚れ込ませる魔法だけだからなぁ。横浜が僕に惚れたからじゃない? ほら、あそこのおうちが僕に惹かれて紅くなってる」


「あれは元から赤いですよ。むしろいじめっ子な涼さんを嫌がって土黄色になってます」


 僕が赤レンガ倉庫を指さして話すと、冴は呆れたような声で返してきた。


 付き合い始めても冴の評価はいじめっ子らしい。言い方が可愛いので放置しているが、いつかその事でからかってやろう。


「赤レンガ倉庫って一応歴史のある建物でよな。なんかいて当然って感じで君臨してて中はただのお店だから観光のために作ったようにしか見えない」


「横浜市民からしたらそうでしょうね。この辺りに来ると必ずってほど見ますし、他の建物はみんな真新しいですから」


 僕はバイクで横浜を走る時、赤レンガ倉庫の近くにある駐輪場に停める。走っている途中も拝めるし、あまり特別感がない。でも、ベイブリッジやランドマークタワーよりも横浜に来たって感じがする。


 僕らは赤レンガ倉庫の外観だけ見て楽しみ、象の鼻パークへとやってきた。ここに何かある訳じゃないが、横浜の港と言ったらこの辺りだ。大さん橋ホールもあり、その先は山下公園がある。


 デートスポットに詳しくない僕でさえこの辺りは名所だと知っている。一人でのんびり歩くのも楽しいだろうが、恋人とゆったり景色を楽しみながら散策する方が百倍楽しい。


 冬休みなので平日にやってきたが、辺りには僕らと同じようにカップルで溢れている。夜に来ると彼らの距離はほぼゼロで影が融合しているが、昼間は随分と落ち着いている。


「こういう都心の海って汚いって言われますけど、私は綺麗でとても好きです」


「僕もそうだな。沖縄とかハワイの海もすごいけど、こうやってビル郡をバックに楽しめる所も心地良い」


「ですね。涼さんは海外とかよく行くんですか?」


「いいや、小学二年生までは時々言ってたけど、今はもうさっぱり。一人で行きたいなって思ってはいたけど、先にバイク買ったからまたお金貯めないと」


「では塾長!」


「ん? どうしたんだい?」


 冴が手をピンと挙げ初めて僕を塾長なんて呼び出したが、面白そうなので偉ぶってみる。


「春休み海外へ慰安旅行に行くというのはどうでしょうか!」


「おおっ、それはいいアイデアだね佐伯くん。その案は可決! 旅費は全て当塾の経費としよう。税理士がイエスというかはわからないがな」


「ありがとうございます! 楽しみにしていますからね!」


 冴は満面の笑みを浮かべ僕に微笑んだ。


 心臓が激しく脈打ち、顔が火照っていく。


 横浜の美しい海も綺麗な街並みも冴えを引き立たせるための背景と成り下がり、僕は冴に惚れなおした。


 魔法使いは冴の方だったのかもしれない。



本当は冴と付き合うまでのifストーリーを書きたかったのですが、圧倒的に文字数かオーバーするのは目に見えていたのでこちらにしました。

カクノタノシカッタナァ

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