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妖精の住処  作者: 速水零
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冬キャン恋人成立

ここ結婚式も挙げられるそうですよ。

「私達、好きだって気持ちは伝えあったけど付き合っているわけじゃないのよね」


「そう、なるな」


「ね、ねえ……だから、だから……」


  喉元まで言葉は出かかっているのに、声に出てこない。まるで音を消されたかのようだ。パクパクと口を開いては閉じ、開いては閉じる。


「ああ。だから……僕ら、付き合わないか?」


「う、うん!  私、涼の彼女になりたい!」


「ああ、僕も柚の彼氏になりたいと思うよ」


「じゃあ、これから私達は恋人ね」


  涼たちは綱を引っ張り、鐘を鳴らした。


  神が涼たちを祝福しているかのように柔らかい風が涼たちを包み込む。


  雲ひとつない快晴。眼前に広がる海と富士山の全景のもと、涼たちは恋人になることを全ての自然に誓った。


  鐘の余韻が響き終えるまでずっと、涼たちはその場を動かず、静かに瞑想していた。


  この場のみ神社にいるかのような荘厳な雰囲気が漂っている。


  周りの観光客たちは涼はどれだけ重い失恋、もしくは片思いをしているのだろうと邪推していた。


  涼たちが展望デッキから離れ姿が見えなくなるまで皆一言も話すことはなかった。


「ねえ、さっきの言葉私から言いたかったんだけど」


「何をいまさら言ってるんだよ。柚が話を切り出さないから僕から言ったんじゃないか」


「そうだけど……そうだけどさ、やっぱり私から言いたかった」


「いや、告白してきたのは柚からなんだからいいだろ。それに、何でもかんでも柚に言わせるのは男が廃るってやつだ。カッコ悪い」


  柚に言われるまで恋人になろうと言い出すつもりはなかった涼だが、あの場になってまで待ちの姿勢でいることはできなかった。


  むしろ、柚に切り出そうとさせたのを申し訳なく思う。


  最高のシチュエーションだった。


  恋人岬の鐘の前で恋人になる。なんて甘美な響きだろう。


  以前の涼なら、伝説の場所だからなんだと冷めた瞳で言っていただろう。恋愛で人はこうも変わるものなのか。涼は苦笑いを浮かべながら遊歩道を進む。


  恋人岬にはまだ恋人岬ステラハウスという面白いスポットがあるが、今回は見送ることにする。


  恋人岬の駐車場にあるお土産屋で、「君だけプリン」というプリンが人気だ。「君だけ」と「黄身だけ」を欠けた商品で、添加物を使っておらず、伊豆で取れた牛乳、卵、生クリームを使用している。舌触りがとてもまろやかで濃厚だと評判だ。


  それだけならまだいいが、この恋人ステラハウスではラブ絵馬という絵馬が売っている。また、恋人宣言証明書も発行してもらえる場所なのだが、当然カップルで行かなければならず、絶対に涼と柚のペアでは発行されない。


  愛の鐘を鳴らしたことだし、もう十分堪能しただろうと涼は思いバイクのもとに戻る。


「涼、もう出るの?」


「まあな。一応そこにお土産屋さんだがなんだかがあるけど、ちょっとあそこはまともなカップル同士で行くところらしい。もう昼を過ぎた頃合いでお腹も減ったからな。キャンプ場を目指そう」


「うん、わかった。寄ってみたかったけど、たしかに私達が行くようなところじゃないかもね。さっき見たあの絵馬とかもそこで売ってるんでしょ」


「正解。まあ、何か祈りたいって言うならこのきれいな伊豆の海に誓いを立てようぜ」


「わお、随分キザなこと言うじゃん。テンションおかしくなってる?  そういう涼も好きだけどさ」


「そうかもな。柚と恋人になったばかりなんだ。舞い上がっていてもおかしくないだろう?」


「……ッ!!  ま、まーたそういうこと平然という!  付き合う前から涼ってそういうことばっか言ってたからね。いつか誰かに勘違いを生んで大変な目に遭うわよ」


「それ葵にも昔言われた。でも、今回はちゃんとわざとだから」


「それはそれでなし!  ほら、ちゃっちゃと次のキャンプ場行くわよ」


「はいはい」


  こうして、涼たちは恋人関係になった思い出の地、恋人岬を後にした。ここもここで、本栖湖同様、絶対また来ると二人は心のなかで決意した。


「キャンプ場で昼ごはんを食べようと思ったが、このへんで海の幸をいただくっていうのもありだよな」


  恋人岬につく前もそうだったが、涼の予想以上に海岸線沿いは発展している。


  部分部分森と海しかない光景が楽しめるが、長くは続かず、街のほうが長く走っているのではと感じてしまうほど街が点在していた。


「たしかに、美味しそうな定食屋さんがたくさんあるわよね。港の数もすごい多いし、人もまあまあいるわ」


「田舎であることには変わりないし、発展してはいないけどな。コンビニだって全然ない上にビルのかけらも見当たらない」


「横浜に住んでいるやつがマウント取りにかからないの。涼だって気に入っているでしょ?」


「もちろん。ちょっと張り合いたくなっただけだ。それで、定食屋に向かうってことでいいか?」


「了解。ちゃんと近くに私の分を確保できるお土産屋さんとか魚屋さんがあるところにしてよ。店の客が少ない分目立つんだから私は食べれなさそうだし」


「わかったわかった。じゃあそこにある漁師の食堂に入るぞ」


  涼は堂ヶ島付近の食堂に入り、ぶっかけ丼という海鮮丼のうえにめかぶと卵の黄身が乗った丼を食べた。


  見た目の美しさを捨てた料理だが、味は絶品。漁師の男飯といった感じがして少し感動した。一瞬漁師になるのもいいのではと思ってしまうほど。


  下にお店が合ったから買っていけるだろうと思っていた涼だが、誤算も誤算。なんと下は洋服店で、柚の分を買えそうになく、涼は柚を窓際に置き、ライディングジャケットで隠してなんとか柚にも食べさせた。


  店員が辺りを駆け回るたびにドキドキしたが、堂ヶ島からは江ノ島か地理の教科書でしか見たことのないトンボロを眺めることができ、非常に満足した。今日は寄る時間がないのでまた今度ここにも来ようと涼は一人、心のなかで決意する。


  店を出てしばらく海風を浴び、涼たちは雲見にあるキャンプ場を目指した。

漁師カフェ堂ヶ島食堂という店が本当にあるのですが、私は鯵のフライが大好きです。あそこの料理は何でも美味しいですけどね!

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