冬キャンイチャイチャ
涼は数瞬のうちに柚との思い出を振り返った。
そしたら自ずと自分の気持ちは固まった。
「僕も……柚のことが好きだ。ずっと一緒にいたい。いや、一緒にいてくれ」
ふざけず、涼は柚の瞳を真っ直ぐ捉えて告げる。
柚は涼の真剣な眼差しを見て本気でそう思っているのだと確信した。
「…………ほんと?」
それでもやっぱり信じられない。
涼が本気なのはわかったが、そんなことはありえないとずっとずっと思ってきたのだ。疑いたくもなる。
「ああ、本当だ。好きだとわかったのはたった今だが、この気持ちに嘘はない。僕は知らず知らずのうちに柚に惚れていたみたいだ。だからってわけじゃないけど、僕も柚とこれからも一緒に生きていきたい」
柚は涼の言葉を聞き終わると同時に木製のインテリアチェアを踏み台に飛翔。涼の胸元へと飛び込んでいった。
「おっと……」
驚きながらも涼はしっかり柚を両手で受け止め、胸元で抱え込む。
涼も柚も人生で一番幸せな瞬間はいつと問われたら今だと断言できるほど、幸せな気分でいっぱいになる。
このまま死んでもいい、そう思えるほどの絶頂だ。
「涼、好きッ!!」
「僕も好きだよ、柚」
柚は両手を広げて涼を抱きしめるポーズをとるが、悲しいかな、全く手が届かない。うーんうーんと必死に手を伸ばしている姿が可愛い。
柚の微笑ましい姿を見てほっこりした涼は柚の頭に手を伸ばし、そっと撫でてやる。
人形を撫でているような感覚しか味わえないが、涼は確かに心安らぐ温もりを感じた。
二人はしばらく抱き合い、夜の本栖湖と富士山を眺めた。
パチパチと薪が爆ぜる。
ざざっと微かに波の音が聞こえる。
周りのキャンパーたちはすでに寝静まり、今は涼と柚だけの世界が広がっていた。
「全然寒くないわ」
「僕のジャケットの中に包まっているからな」
「そういう時はもっとムードの良いことを言うもんでしょ! なんかこう……僕と柚が一緒にいるからかな?……みたいな!」
「うるさい。僕はリアリストなんだよ。まあ、柚がデレッデレになったら付き合ってやってもいいよ」
「ふーん。いいわよ、簡単じゃない」
涼はそんなことできないだろうと高を括っていたが、柚は真上の涼の顔を向いて少し目を細め「りょぉぅ〜、だぁあいスキッ!」と猫撫で声で堕としにきた。
「グッ!!」
涼の理性に巨大なダメージが入る。野球部主将の友達雷からボディブローを喰らったとしてもここまで重くはあるまい。
「りょう、りょう、りょ〜ぉ。ねえねえ、あたしのこと、どぉおもってるの?」
「……ッ! さっ、さっき答えたじゃないか」
「えぇ、わすれちゃった! もういっかい、おしえてよぉ」
柚は涼のジャケットを小さく揺すって催促する。これまた理性へのダメージが大きい。
「そ……それは…………き、だよ」
「きこえないぃ。もっとはっきりいってよぉ」
だいぶデレデレモードというよりブリッコモードになってきているように見えるが、柚本人は全力で涼に甘えている。
自分でもここまでふにゃふにゃになるとは思わなかった。今は自分を直視できていないが。
そもそも柚の見た目はまるで妖精のように可愛らしい。そんな柚にこんな態度を取られては涼も無事では済まない。
「だからっ! 僕は……柚の、ことが……好きだ!」
取り決め(?)では柚がデレッデレになれば涼もムーディストになるはずだが、それ以前に涼は自我を保つことで限界だった。
本当に堕ちたらどうなってしまうのだろう。
涼は顔を逸らし、さらに柚の顔を指で覆った。
「りょう、どこむいてるの? あたしのことしっかりみてよ! あたしもりょうのかおみたい〜」
「……今は……ムリっ!」
「もぉ〜! そんなに言うんだったらこっちからみにいくからねっ!」
柚は涼の指を押し除けてライディングジャケットから飛び出し、軽い身のこなしで涼の肩に登った。
ツンツンと涼の頬を突っついてみる。
焚き火と冬の乾燥した空気によってだいぶ乾いているが、柔らかく程よい感触が伝わってきた。羨ましい。
この攻撃でも涼はそっぽ向いたままだ。
本心の赴くままに動いてきた柚だが、ここで少し悪戯心が湧いてきた。
「りょう、私たち、もう恋人同士になったんだよ。こっち向いて。一緒におしゃべりしよ?」
柚は涼の耳元で甘い声を囁いた。
「…………うん、おしゃべりしようか!」
涼の理性の壁は案外脆かった。
こういうの書くの難しすぎですね。あまりうまく書けたか自信はありませんが、僕は書いていて何度か心臓を抑えました。