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妖精の住処  作者: 速水零
237/312

冬キャンバーベキュー

短め

「私の口の大きさでも満足に食べられる美味しいお肉は何かしら?」


 柚は買い出し中そんなことを涼に問いた。いつも涼が普通に食べる分を刻んだりちぎったりしているが、初めから柚を想定して作るとなるとかなり難しい。


 人間の中で最も柚の体格に近い赤子用は離乳食で、柚の満足のいく食べ物はない。


 一応豆や小さく作ったピザなどは好評だったが、今回の柚からの無茶振りはバーベキューの肉だ。


「んー、肉料理か……前も考えたけど、柚にぴったりな料理って元からサイズが小さいものか、自由にサイズを変更できるものなんだよ。だから僕がパッと思いつく中で一番いいのはハンバーグかな」


「あーたしかに。むちゃくちゃ玉ねぎを細かく刻めば食感をそのままに堪能できるかも。でも、バーベキューの定番の一つだけど、やっぱりカルビとかハラミとかタン塩とか食べたいわ」


「そういう肉はもう本来の味をそっくりそのまま味わうなんて道はない。というか、もう半年以上その体なんだから、本来の味覚なんて忘れてるんじゃないか?」


 柚はもうこの体で700回以上食事をしている。前みたいなふうに食べたいと常々思っていたが、涼に言われて、そういえばそうだ、と愕然とした。


 別に料理が全て不味くなったわけではないので、涼は気にせず買い物をした。


 そういうことで、今回は気を衒わず、誰もが思い浮かぶようなバーベキュー料理を食べる。


 冬はオフシーズンのため、肉の種類は少なかったが、涼一人分しか買えないのでそもそも変え揃えられない。スーパーでは結局、牛カルビ、豚バラ、ハンバーグ、玉ねぎ、人参、米、わかめスープの素、その他朝食や間食を買った。


 涼は始めに豚バラを網に乗せる。


 肉のジャワジャワ焼ける官能的な音に食欲そそられる豊潤な香りが涼たちを包み込む。


 薪は十分すぎるほどに燃えているので火力は強く、涼は忙しなく肉をひっくり返し、次の牛カルビの準備を進めた。


 飯盒で米を炊いてもいいのだが、米が飯盒にこびりついて洗うのが面倒なので、ゴミはたくさん出るが湯煎で食べれるパックご飯を買った。肉を焼いている間バーナーで湯煎している。湯煎はかなり時間がかかるが、先に始めたのでカルビを食べる前には米がいい感じになるだろう。


 涼はキャンプの時にはいつも塩、胡椒、醤油を持っていく。これさえあればどんな料理を作っても大体は対応できる。今回はタン塩のためにレモン汁を買ったが。


 豚バラ、牛カルビはご飯と一緒に塩胡椒で美味しくいただいた。


 柚のためにも豚バラは脂肪の部分を考えながら細かく切って渡す。こんな破片のような肉でも妖精みたいな柚にとってはごく厚ステーキに感じるらしい。


「いやぁ、豚バラおいしいぃぃ!!」


「全く、こんないい景色で食べる肉ってのは最高だね」


「ほんとほんと。富士山に本栖湖、この自然の豊かさ。バーベキュー最高!!」


 柚は両手を上げて喜びを表現する。


「はいはい。じゃあ牛カルビもできたから食べな。小さく切ってやるから」


「おおっ! いいわね! 食べる食べる!」


 柚が小さな小さな食器をカタカタ鳴らして涼に催促する。涼は苦笑いを浮かべ、柚の食器に肉を乗せ、出来上がった米を十粒ほど乗せた。


 食費がほとんどゼロで、少し譲る程度でお腹が膨れてくれるのはありがたいが、これだけしか食べないとなると心配になる。


 便利な体だが、不自由なところも多い。涼は一生そんな体にはなりたくないと思った。


 バーベキューは順当に進み、タン塩を食べ終えハンバーグを焼き始めた。


 途中薪が燃え尽きてきて付け足したが、概ね問題は起こらず、楽しくできていた。


「炭火焼きハンバーグって言っても、どうせ市販されたやつでしょ」


「そう言うなよ。いちいちここで玉ねぎ焼いて卵を買ってってやるのが面倒なんだよ。できあいのものでもかなり美味しいんだから、文句言うなって」


「あーい」


 四人用のバーベキューグリルなだけあって野菜も混ぜながら焼いているが、柚は肉ばかり食べていた。


「おい、人参もしっかり食べろよ」


「ん? 私、野菜食べてない?」


 純粋無垢な子どものような惚け方をする柚だが、それでダイエットを目指していていいのかと思う。妖精姿は食べても太りにくいんだから好きに食うのはいいが、栄養バランスは気にして欲しい。


 まあ、可愛らしく涼は押し黙ってしまったので、柚の意見は通ってしまった。


 最近僕は柚に甘くなったのではと思わずにはいられない涼であった。

地方に行くと鰻が安いからバーベキューでたまに買っちゃうんですよね。

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