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妖精の住処  作者: 速水零
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冬キャン焚き付け

「じゃあこれからキャンプ飯を作っていこう!」


「おーっ!」


 涼と柚は元気よく右手を上げ、夕食作りに取り掛かる。


 普段涼一人でキャンプする時はとても質素にカップラーメンや、米や丼物を湯煎で温めるくらいで済ませることも多いが、久しぶりのキャンプで柚もいることだし、今回は豪勢に行こうと思う。


「やっぱりバーベキューは欠かせないわよね!」


「そうだな。前回の夏のキャンプでも時期的に合っていたけど、この寒い中焚き火兼バーベキューってのは必須だよ。それにしても途中で薪を買っておいて良かったぁ」


 涼は河口湖を超え本栖湖にたどり着く間に薪を売っている露店を発見し、二束買っておいた。頑張ってシートバッグの上に積んで、吊り下げてと苦労したが、そのかいあってかなりのコストダウンができた。


「このキャンプ場で買うと一束七百円とかするもんね。ここで二束買うのと向こうで五束買うのがほとんど同じ値段っておかしいわよ」


「有名どころのキャンプ場はそんなもんだよ。お金もってる連中は気にもせずに買ってくれるだろうし、いざ足りなくなったらここで買うのが一番楽だから客の足元を見ることもできる」


「なんか管理人達が悪いことしているみたいに聞こえるのは私の気のせい?」


「気のせい気のせい。別に絶対足りないからってさっきここで買わされたのを恨んだりとか全然してないよ」


「小さい人間ね。それを恨んでるって言うのよ。月に薪三百束買えるくらいに稼いでいるんだからそれくらい我慢しなさい」


 誰よりも小さい妖精サイズの柚に「小さい人間」と言われるのが一番傷つく。


 反論したいが柚の言う通りなので涼は口を閉ざして焚き火の準備に入る。


 前回は楽をして一人用の焚き火台に着火加工成型炭を詰め込んでバーベキューをした。今回は暖を取るための焚き火をしなければならないので、一人用のコンパクトなサイズでは小さすぎてまともに薪が入らない(工夫すれば何とかなるものだが、やはりその上でバーベキューとなると無理がある)。


 そういうことで、今回は三、四人用のバーベキューコンロを持ってきた。これは元々家にもあったコンパクトにまとまるタイプで、焚き火台も兼用している。


 ロードバイクでキャンプに行く時はそれでも大きくて持っていかなかったが、今回は大きなシートバッグなので気にしないで持ってこれた。


 一言で薪と言っても様々な種類がある。


 もちろん使われている木の種類が異なり、用途によって使い分けるという人も多いが、一般人がキャンプをする時には木の種類などあまり関係ない。あって針葉樹か広葉樹かくらい(針葉樹は火が着きやすいが長持ちせず、広葉樹は火がつきにくい分長持ちする)だろう。


 ではどんな種類があるかというと、単に焚き付け用の薪か、太めの薪の集団か、稀にスウェーデントーチをする用などがある。焚き付け用の薪達は細い薪が多く用意されており、一束の消費時間が短いがそれさえあれば素人でも簡単に火をつけられる。


 太めの薪の集団たちはその見た目通り薪の数は少なくとも、みんな太いので一束の消費時間が長い。普通は焚き付けの薪の束に太めの薪の集団達をいくつか買うものだが、(金銭的ではなく運搬能力的に)何束も買う余裕がないので、太めの薪の集団しか買っていない。


 涼はシートバッグから刃渡り15センチ程のシースナイフを取り出した。


「あー、やっぱりカッコイイなぁ」


「何子どもみたいにナイフに感激しているのよ」


「はぁ。この良さが分からないなんて、人形になると心まで冷たくなるらしい。この重厚感、この鈍い光の反射具合、手に馴染むグリップに木の柄、まさにサバイバルという象徴! 唆るものがあるだろ?」


「いや、ないんですけど。とてもサバイバルっぽいってのは理解できるけど、そこまで感動する気持ちは全く分からないわ。そっちが原始人なだけじゃないの?」


「原始人は感動しないだろ。まあいいさ。こいつの便利さを知った時同じ口を聞けるか楽しみだ!」


「はいはい。……で、なんでいきなりそれを取り出したのよ。包丁になるってこと?」


「その使い方もできるが、先に薪を割る」


 涼はシースナイフで薪たちを指し、自身の思うカッコいい構えをとった。まるで日本刀を構える剣客のようだ。痛々しい姿をしているはずなのに妙に様になっているのがムカつく柚だった。イケメンはズルい。


「それで割るの!? てか、できるの?」


 思わず驚いてしまったが、涼は柚の反応を見てそれが欲しかったんだとばかりに顔をニヤケさせる。


「まあ見てなって」


 涼は湖の目の前に落ちている直火用の大きな石を拾ってきて薪を乗せ、シースナイフを振り下ろして筋に沿って刺し込む。


 ナイフ本体の重さと刃の厚みがあるので鉈のように薪に食いこんだ。あとは簡単。他の薪で飛び出た刃先を叩き、切れ目を広げて割るだけ。


 なんの苦労もなくまず一つ薪が割れた。涼は感動に身を震わせながら割れた片方をさらに真っ二つにしていく。シースナイフは耐久性に優れているので荒っぽい扱いをしても平気だ。


 こうして自身の手で焚き付け用の薪を作っていった。時間もあるのでついでにフェザースティックという細く割った薪の表面を薄く削ってカールさせた状態にしていく。最近の焚き付けの定番で、むちゃエモい。


 ここでもシースナイフで薪を削っていくのだから本当に便利だ。いつか職人の作ったウン万円もするサバイバルナイフを買ってみたい。


 焚き付け用のに割った薪はキャンプ場で買った火の着きやすい針葉樹で、これだけで新聞や枯葉、松ぼっくりを使わずとも火がつけられる。


 ここでも雰囲気を大切にするため、マッチやガスバーナーではなく、メタルマッチ(ファイアースターター)でつけることにする。メタルマッチとはマグネシウムなどの金属棒のことで火打石の現代版みたいなものだ。粉末になったマグネシウムは発火しやすく、マッチのように金属を硬いもので勢いよく削れば火の粉が飛んでいき、焚き付けに火がつく。


 ここでもシースナイフがメタルマッチをするのに役立つのだ(別に専用のする棒があるが、柚に見せつけたいのでわざわざシースナイフを使う)。


 カッコよく一度と擦っただけで着けば良いのだが、現実はそうもいかず、何十回も擦って擦って火花を飛ばしてようやくフェザースティックが燃えていった。


 柚のシースナイフを見る目が少し変わっている気がする。カッコ良さを再びアピールするため、もう一度涼は決めポーズをとって見せた。

メタルマッチも僕は一度使ってからほとんど使わなくなりました。あれ全くつかん。高いの買えばいいのだろうか(そんなものがあるかは知りませんが)?

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