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妖精の住処  作者: 速水零
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冬キャン設営

 一番綺麗に富士山と本栖湖を眺められる場所はキャンプ場の急な坂を下った正面辺りだが、柚を見られるリスクを考え、一番右端まで移動した。大きめの小石が大量に混ざった砂利道で、絶対スポーツバイクの走るような道ではない。


 砂まみれになった愛車を見てかなり後悔したが、柚が感動して言葉を失っている姿を見るとそんなきもはれていった。


 一時バイクを斜面に沿うように止めて、大きめの石の上にサイドスタンドが乗るよう調整する。


 ただの砂利の上にサイドスタンドを乗せると、不意に滑って倒れる危険がある。カッコいいカウルを傷つけたくはない。


 シートバッグを慎重に下ろし、設営に入る。


 前回はツーリングドームテントという前室が広く、雨が降ってもタープ(ポールを立てて布の屋根を被せた行動スペースの総称で屋根の布自体も指す)いらずのテントを使ったが、今回はワンポールテントを持ってきた。


 普通のテントはスリーブ式や吊り下げ式など色んな種類があるが、大抵二本のポールを用いてテント本体を対角線にクロスし、持ち上げて形成する。しかし、このワンポールテントはその名の通りポールを一本しか用いない。


 設営の仕方は簡単。


 テント本体を平らで大きな砂利が落ちていない辺りで広げてペグで固定。中に潜ってポールを立てて持ち上げたら完成。あとは風に耐えられるようにロープを張ってより強く固定するだけ(今日は風もそんなに吹いていないので省略した)。


 慣れれば三分程で立派なテントが立てられる。


 涼個人的にはキャンプしている充実感が最も味わえるテントだ。


 だが、涼は雰囲気づくりのためだけにこのテントを持ってきた訳ではない。


 ワンポールテントの利点の一つに、寝るスペース以外にもテント内に居住スペースが確保できる点がある。


 涼の持っているツーリングドームテントでは前室で生活出来ても辺りからは遮るものがなくて丸見えになってしまう(遮れるツーリングドームテントもある)。


 ワンポールテントならテント本体の中で過ごせるため、辺りからは見えない。より柚がキャンプを楽しみやすくなるだろう。


(ほんと、木下塾で得た金の力は偉大だな。こんなに良いワンポールテントも買えたし、他の道具も良いものに買い直せた。まあ、最近お金を使いすぎているから、自制していかないと行けないけど……)


 涼は一度庭でワンポールテントを立てる練習をしたので、手早く設営することができた。


 シートバッグからツーリングドームテントで使っていたグランドシート(テントの下に敷くレジャーシートのようなもの。テントの汚れ防止や冷気を遮断する効果がある)をテント内に敷いてシートバッグと柚を置いた。


「これから他の道具も立てちゃうからそこで待ってて」


「りょーかい」


 涼は手馴れた手つきでテーブルや椅子を組み立て、コッヘル(ガスバーナーで調理もできる食器)やガスバーナー、電気ランタン、来る途中に購入した食材を並べる。


 柚には以前と同じく百円均一で購入した、インテリア用の小さな木製チェアに座ってもらった。


 正直涼の椅子よりも雰囲気が出ていて羨ましい。いつか自分も自作した木製のチェアを使って見たいと思う。


「これだけの荷物がよくあんなバッグ一つに入るわね」


「まあ、キャンプはコンパクトさが命だからね。小さく纏まってかつ耐久性にも優れていないといけないんだ。すごい安いやつは全然小さくならなかったり、すぐ壊れたりするけどさ」


「ふーん。私は涼がなんでもやってくれるから気軽に楽しめるけど、普通の人が始めるには結構敷居が高そう」


「キャンプは始めるまでが一番大変だからな。頑張って調べたり、必要そうなものを考えても始めても、やってみれば失敗するかもって恐怖がある。でも、一度とやってしまえば、不足だらけでもとても楽しくて、次は何が必要だったとか反省して、リトライしちゃうもんだよ。周りにいるベテランさんを観察してみると工夫がいっぱいで面白い。最近はブログだけじゃなくてキャンプ道具の商品紹介や実践している動画が多く出ているから、それを見るのも楽しいよ」


「ああ、この前のアニメみたいなのもその一つね」


「そうだな」


 涼はゆったりと談笑しながらお湯を沸かす。


 やはりキャンプ場に着いてすぐに飲むコーヒーが一番美味しい。


 涼はお湯が沸くのを待つ間、真空パックの中からコーヒー豆を取り出し、コーヒーミルをガラガラ引いて豆を挽いていった。


 正直涼の腕では既に挽かれた豆を使っても、味が変わらないどころかむしろ美味しくなるのだが、やはり雰囲気作りのためには自分の手で挽くのが一番だ。


 こうして豆を挽く時間も落ち着いていて心地よい。


 かすかに聞こえる波の音(風が吹いているので湖でも小さな波が生まれる)をBGMに、涼たちは至福の時を過ごす。


 涼が挽き終えるよりも早くお湯が沸いたので、バーナーの火を止め、先に塾で儲かったお金で買ったチタン製のマグカップにお湯を注いで温めておく。


 十分弱豆を挽き続けてようやくできた。こういうのも悪くないがいちいちやるのは手間だと思ってしまう。


 涼たちは使い捨てのコーヒーフィルターでコーヒーを淹れ、最高のひとときを堪能した。


 


 

僕はキャンプ場で豆を挽くのは一回やってやめました。洗うのも挽き続けるのも面倒なので……

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