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妖精の住処  作者: 速水零
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冬キャン初日到着

「ぅわあぁぁ! むっちゃ綺麗!!!」


 涼と柚は山中湖を通り少し外れた三国峠付近に路上駐車していた。


 峠というだけあって標高が高く、目の前に山中湖、背景に大きな富士山を一望できる。


 涼は柚にこの景色を一番に見て欲しく、道志みちを抜けかける辺り(道志みちの峠を登り終え、下っていくとすぐに大きな富士山が見える)からポケット内に閉じこもってもらった。


 柚が涼の了承を得て顔を出すと、この反応である。涼のサプライズは大成功のようだ。


 仕掛ける側の涼自身もこの景色には感動していた。


 冬は空気が冷たく、一年で一番空気が澄んでいる。


 また、深く雪化粧した富士山は見るものを魅了してやまない。雲ひとつない日本の宝に涼は言葉を失った。


「…………やっぱりすごいな」


「うん……最高。今までに見た富士山の中で一番綺麗」


「そうだろう。俺もベストスリーに入る美しさだ。……満足できたか?」


「もちろん! 私が日本人だって思い出したわ。まあ、体が小さいからむちゃくちゃ雄大に感じるっていうのもあるけどさ。富士山の信仰文化に疑問を持ってる私だけど、これには何も言えないわ。感動した」


「それは何より。じゃあ少し堪能したら行くか。コーヒー飲む?」


「うん、ちょうだい」


 涼は家のコーヒーメーカーで淹れたコーヒーをタンブラーに入れて持ってきている。


 コスト削減もあるが、単にそうした方が美しい景色を堪能できる。


 この場で柚用のマグカップを出すのは面倒なので涼が口をつけたタンブラーをそのまま柚にあてがう。


「えっ…………ちょっ………!?」


 柚が何か言いかけたが、あまり柚に騒がれると時々すれ違う車やバイクに不審がられるので無理やり押し込んだ。


(こ、これ……間接キスじゃない!? 涼ったら何食わぬ顔でなんてことするのよ!! なんか私だけ意識しちゃって恥ずかしいじゃない!! ううっ……こうなったら覚悟を決めるわ。もう高校生なんだし、こんなことくらいで動揺してどうするの!)


 涼は柚が険しい顔をしているのに気がつかず、辺りを気にしながらコーヒーを飲ませた。


 保温性に優れたタンブラーのため家を出て2時間以上経っているがまだまだ暖かい。


 カイロ効果で全身ぬくぬくしていると思っていたが、コーヒーの温かさが体全身に広がり、柚の心を癒した。


「やっぱり冬にコーヒーを飲みながら良い景色を楽しむって至福だよなぁ」


 涼は柚が飲んだ後再び自分もタンブラーに口をつけ、ほっと一息つく。


 柚のいる辺りから驚きに満ちた声が聞こえたが、涼は無意識に無視した。


 昼間は路上駐車できるところなら12時間停め続けても捕まることはないが(そこを定期的に使い車庫代わりに使っていたりするのなら問題だが)、いつまでも動かないでいるとキャンプ場が閉まってしまう。


 涼たちは20分ほどの休憩をとってから先に進むことにした。


 涼が選んだキャンプ場は本栖湖にある洪庵キャンプ場。


 一泊目は今回のキャンプは柚に富士山を堪能させるのが目的なので、一番富士山が綺麗に見えるキャンプ場が良い。


 朝霧にあるキャンプ場も捨て切れないが、どうせなら湖畔で気持ちよくキャンプするのがベストだろう。


 涼が調べた中で一番良さそうだと思ったのが富士五湖の一つ本栖湖に位置する洪庵キャンプ場だ。


 ここは千円札のイラストに適応されたところであり、条件が良ければ逆さ富士にダイヤモンド富士(富士山の山頂の上に太陽が乗っているように見える現象でとても美しい)が眺められる。


 本栖湖は涼の住んでいる神奈川県横浜市から最も遠いところに位置する。


 道志を抜け、山中湖を通過し、河口湖、西湖、精進湖と他の富士五湖の横を通り過ぎて本栖湖に辿り着く。


 山中湖から近いように見えて一時間以上かかった。


 隣に樹海が広がっていた時には言葉にできない高揚感があった。


「富士の樹海って言えば自殺の名所とか、磁力が役に立たない迷子スポットとか言うわよね」


「そうだな。でもなんか、こんなに森が広がっててそんなスポットだと思うとちょっとテンション上がらないか?」


「わかる。今日二番目の感動」


 涼の感性に柚も付いてこれているようだ。危険な場所と知っていても有名場で美しいと思うと興奮するらしい。


 しばらく国道139号線を進むと本栖湖や身延町へ向かう国道300号線が見えてきた。


 しっかり曲がって進むと、山中湖ほどではないが大きな湖が現れる。かの有名な本栖湖だ。


 例の如く柚にはポケットの中に閉じこもってもらい、キャンプ場付近になったら顔を出してもらうことにしている。


 綺麗な逆さ富士と一緒に富士山を堪能してもらおう。三国峠付近の路駐場では逆さ富士が見えなかったので、柚の驚いた表情が楽しみだ。


 洪庵キャンプ場に着くと、まさに千円札に採用されている景色が一望できた。


 財布から千円札を取り出し、見比べてみると端に描かれた山の形まで合っている。


 柚にここで声をかけても良いのだが、一番綺麗なスポットは湖の前から見える景色らしいので、涼は先にチェックインを済ませ、急な坂を下って湖の目の前のキャンプサイトを目指した。


 冬の平日に来たこともあり、シーズン中は湖中がキャンプ客に埋まる人気キャンプ場もかなりガラガラだ。


 涼は砂利道を慎重に半クラッチで進み、最も邪魔な入らない綺麗に見えるスポットにバイクを停める。


 先ほど今日一番と言っていた柚だが、本栖湖から見る富士山は「過去最高の富士山だわ」と評するに値する美しさで、最高記録を更新した。

リアルでは浩庵キャンプ場です。去年は4回ほどお世話になりました。

やるキャ○効果か、値上がりしたのが非常に残念です。

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