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妖精の住処  作者: 速水零
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高校生対小学生

「ピーーーッ!」


 子どもの一人が審判のホイッスル代わりをしてプレイ開始。


 ゴールとハーフウェアラインの間にいた涼はジッと構えていると、満がいきなりシュートを放ってきた。


 あー、昔やったなぁと思いつつ、涼は軽く受け止める。小学一年生のためシュートは空中に上がらないグラウンダーシュートとなっていた。


 正直威力が全くないパスのようなシュートだったので受け止めるのは容易かった。


 一番上手い満が不意をついて全力で蹴った威力がこれだ。大体のレベルは察しがつく。


 小学生向けのコートなだけあってここからでもシュートを決められる涼だが、それは流石に大人げなさすぎるので、ドリブルで少年サッカーたちに攻め込む。


 小学生の頃、涼は世界最高のプレーヤーのドリブル力の秘密について書かれた本を読み、友達と練習していた。


 当然技量の差は比べるまでもないが、ドリブル力は上がった。

 

 ボールは常に自分の支配下に、相手の視線と体の重心を見破り、騙し騙しで避けていく。時には意表を突き、時にはスピードで勝負し、時には相手を魅了し、時には相手を欺いた。


 ただ、先程まで「俺フォワードな!」「じゃあ俺はディフェンダーやる!」とか話し合っていたのにキーパー以外全員が涼のもとに集まってきた。


 囲まれると避ける隙が無くなるので、合間合間を駆け回り、おちょくってみる。


 キープ力を見せつけられても小学生たちは諦めることなく、ボールに集中していた。


 所詮は素人の高校生なので、いつまでも抱えることはできない。小学生のフラストレーションも溜まってくるだろうと思い、涼はわざとボールを奪われることにした。半分やられたようなものだが。


「よっしゃ、ボール取った!!」


「へい、パスパス!」


 途中から涼を追わずにゴール近くまで走っていた小学生にパスが通る。


 流石の涼も敵陣地中央から自陣ゴールまで戻るのには時間がかかり、全力でボールを追いかけたが、シュートを決められてしまった。


 迫り来る涼を見てシュートを決めた少年はしてやったりと笑う。本気で相手をしてくれているのが嬉しいようだ。


「やったー! てんきめた!!」


「ナイス!」


「涼にーやっぱすげーけど、俺らにはかてないな!」


「いいや、まだまだプレイは始まったばかりだよ。今度はこっちが点入れるからね」


 涼は「ピーっ」と指笛を吹いてボールをタッチ。持ち前のスピードを活かして迫り来る小学生達を華麗にすり抜けた。


 キーパーの少年が慌てて身構える。


 一応試合再開のタイミングではポジションに付くので、避けられたのは二人。ディフェンダーの少年たちが涼を止めにかかる。


「ボールをとって2てんめだ!」


 満がエールを送るが、小学生たちに花を持たせ続けるのも良くないので、体育の時間サッカー部が見せたドリブル技を真似して抜き去る。


「すっげー……」


「カッケー……」


 ディフェンダーは二人とも木下塾に入っていない子どもで、涼の姿に感嘆の声を上げた。


 イケメンにサッカーが加わると老若男女問わず惚れ込むらしい。


 サッカー部やサッカー経験者からすれば拙い技だっただろうが、涼は少年たちの心をギュッと掴んだ。


 ディフェンダーは見蕩れていても、キーパーは大きな高校生が味方のいない状況で迫り来るようにしか捉えられない。


 普段は塾の先生として憧れているが、初めて涼に恐怖を抱いた。


(ヤバい! きめられる!)


 涼がシュートフォームを取るとそう思ってキーパーの少年は目を閉じた。


(あー、これじゃあ止めようにも止められないって。まあ、ここは端のコースに決めるかな)


 涼はインサイドキックでゴールを決めた。


「ゴールッ!!」


 高校生の実力をしっかり見せつけたと少しオーバーに、天を仰ぐようなポーズでゴールパフォーマンスをする。


 小学生は「大人げない」と言うよりも先に「すっげぇぇぇ!!」と憧憬の眼差しを向けてきた。


 冷静になってちょっとやりすぎたかと反省し、自陣に戻る。


 その後はボールの追いかけっこゲームが始まり、涼が小学生を翻弄し、キャッキャ騒ぐ展開が続いた。


 結果は3対3の引き分け。時間制限をしていないので、区切りが良いところで切り上げることにした。


 涼は毎日三十キロ以上もサイクリングをしているので体力はまだまだあるが、小学一年生は限界のようだ。あれだけ全力疾走を続ければそうなる。


 少しは大人っぽい姿を見せるか、と疲れきった子どもたちを連れて自動販売機まで歩き、スポーツドリンクを奢った。


 小学生は現金なもので、サッカーで良いプレーを見せるよりもスポーツドリンクを奢る時の方が輝いた目で見られた。


「涼にーってほんとうにサッカーやってなかったの?」


「俺のにーちゃんよりもずっとうめぇ!」


「俺、涼にーにサッカーもおしえてほしい!」


「あ、俺も俺も!」


 今までのパターンからして、サッカー教室を臨時で開きそうな流れだが、丁重にお断りした。


 サッカーはそこそこ得意だが、極めようとしている連中の方がずっと上手い。それに、プログラミングを教え、門外漢の分野には手をつけない方がいいと思い知った。


 音楽教師もやらないで正解だったなと思いつつ、涼は子どもたちに別れを告げ、帰路をたどった。

団子サッカー懐かしい。

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