表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
妖精の住処  作者: 速水零
229/312

リフティングマウント

 公園に向かう途中、涼は柚に「今日は帰るの遅くなる」と残業やら呑み会やらをしていつもより帰宅が遅れる旦那のようなringを送った。


 帰宅部の涼は普段同じくらいの時間に帰るので、心配をかけないよう報告したが、当たり前の日常シーン過ぎて二人とも何も感じなかった。


「涼にーってサッカーできんの?」


「習ったことないけど体育や昔遊びで散々やったからそこそこ上手いと思うよ」


 サッカー部には勝てないが、涼は持ち前のセンスでそこらのかじったことがある程度の奴らよりは上手い自信がある。小学生の時は何度もサッカーの上手い同級生にクラブに入るよう誘われたほどだ。


「リフティングなん回できる? 俺さいこー8回!」


「俺37回できるぜ!」


「そりゃ満サッカー習ってるからじゃん!」


「俺だって28回できたことあるもんね!」


 小学1年生にとってサッカーの上手い下手はリフティングの回数らしい。ドリブルやパスで優劣をつけようにも、この頃の子どもはポジション無視でボールに群がるので、判別がつき難いのだろう。


 満とサッカーボールを持っている木下塾生の子どもはサッカーを習っているからか、得意げな顔をしてリフティング自慢をする。


 できる子は小学1年生でも100回を超えるが、涼からすればこの歳でそれだけできれば十分凄いと思う。


「僕はリフティング何回できるかわからないけど、100回は余裕で超えるかな」


 涼もリフティング何回できるマウントの世界を小学生の時に経験しており、昔よく練習していた。ボールコントロール力が上がるという意味で、リフティングは重要な練習の一つだと涼は考えているが、リフティングを練習する文化は日本くらいなものだ。


 世界トップレベルの国からすればリフティングは遊び。リフティングのできないサッカー選手はごまんといる。


 ただ、日本のサッカー文化のみに当てられたサッカー少年からすれば、涼はむちゃくちゃ上手いプレーヤーにしか見えない。


「涼にースゲー」


「え、あとでやってやって!」


「俺も見たい!」 


「リフティングたいけつしよーぜ!」


 子どもたちの羨望の眼差しが眩しい。茜たちにピアノをせがまれて弾いた時だってこれほど輝いた瞳は見なかった。


 サッカー選手では誰が好きか、どんなポジションが好きか、このサッカーアニメ見たことあるか、などなど話していると、大きな公園に辿り着く。


 何組か小学生が遊んでいるが、サッカーが出来そうな空間は空いていた。


「じゃあこっちはこの木から……このでんとうまでがゴールな!」


「よし、じゃあこっちはこの看板から……この木まで!」


「「「おっけー!!」」」


 ゴールの広さが若干異なったり、4点を結んだときに平行四辺形になりそうなズレはあるが、そんなことは気にしない。涼もこの歳の子どももできればなんでもいいのだ。


 子どもたちは手慣れたように靴のかかとで地面を削り、簡易的なサッカーコートを作っていく。


 スローインをどこでするかわかりやすくなる、ということもあるが、これを書いておくと書いていないでは周りの子どもたちの介入が大きく変わる。あまり褒められたことではないが。


「チーム分けどうする?」


 この場にはサッカーを習っている子3人、習っていない子2人、カンペキチョージン1人がいる。


「涼にー対俺ら!!」


 涼が子どもたちにチーム編成を任せると、リーダー格の満がチーム案を提案する。


 もはや涼一人ではチームとして成り立っていない。


「さんせー!!」


「涼にーカンペキチョージンだからハンデないとな!」


「カンペキチョージンってなに?」


「ぼっこぼこにしてやるぜ!」


 編成を任せた以上涼に異論は挟まない。


 一方的な試合になったら1人か2人もらえばいいか、と考えた涼は場の雰囲気を上げるため「全力でかかってこい!」と子どもたちを見下ろす。


 なんだか面白くなってきた。


 体育の授業でもここまでやる気になったことはない。


 満にキーパーはここまでボールに触っていいことにしようと言われ肯く。


 また、オフサイドはなしと言われ、しっかりルールを勉強しているだなと思ったが、正確には、オフサイドとはキーパーを含む選手の2人目よりも敵陣地側にいる選手がボールに触れた際に起こるルールなので、定義上涼一人チームでオフサイドは発生しない。言わぬが華と思い、涼はこれも肯いた。


「よし、俺キーパーやる!」


「えー、俺がキーパーやる!」


「俺だって!!」


 ルールも決まり、いざ始めようとしてが、子どもに大人気のキーパーを誰がやるかで揉めていた。


 涼が口を出すか悩んでいると、自然と満が「ジャンケンできめようぜ」とリーダーシップを発揮していた。普段からみんなのまとめ役をやっているとどんな時でも仲裁できるんだな、と他人事のように感心する。カリスマ性はこうして培われていくのだろう。


 いつか木下塾でも、性格が固まる前の今のうちににリーダーを定めて、まとめ役をやってみる企画をしてもいいな、なんて呆然と考えていると、子どもたちはポジション決めを終えたらしい。満がセンターマークまでやってくると「じんぼーじゃす!」という掛け声と共に拳を突き出してきた。


 じんぼーという言葉で陣地とボールどちらを選ぶジャンケンか咄嗟に判断した涼は、反射的にグーを出した。握ったまま出せるグーは開く必要のあるチョキやパーよりも咄嗟に出やすい。


 それを知ってか知らずか、満はパーを出してきて、ボールを選んだ。


「ピーーーッ!」


 子どもの一人が審判のホイッスル代わりをしてプレイ開始。


 ゴールとハーフウェアラインの間にいた涼はジッと構えていると、満がいきなりシュートを放ってきた。

僕は調子次第ですが30回くらいはできます。高校の体育でそこそこ練習させられました。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ