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妖精の住処  作者: 速水零
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初めての勧誘

 涼のテストも土日を挟むことにより、次の週には全て返された。


 学年の順位も階段を抜けた先に張り出されており、涼の名前は真の二つ左隣にあった。つまりは学年三位である。


 二位になった生徒と涼の差は数点しかなく、ミス一つで順位は入れ替わっていただろう。


 今回のテストは受験モードで難度が高かったからか、去年の二学期期末テストのように90点を越えて当たり前といった高得点は望めず、80点台がほとんど、中には70点台の科目もあった。得意の物理のみ90を越えたが。


 理系のコースに進んでいる涼は柚とは違い世界史や公民、生物を受けていない。来年は柚も文理に別れて指導をすべきだろう。


 真は圧倒的な頭脳で無双してくるものだと思っていたが、涼と総合得点で20点程しか違わない。


 無論それでもすごいのだが、対策をとっていないにしても、真に満点近い点数を取らせない問題を作る先生はかなり本気だったのだろう。


 中には平均点が赤点という科目もあった。


 兎にも角にも涼はボーダーラインを文句なしで越えた。

 

 ちなみに涼のクラス委員長は七位、プログラミングを教えてくれているパソコン部の卓は三十八位だった。


「さて、僕もボーダーラインを越えられたことだし、2ヶ月後には免許取りに自動車学校通いかな」


 涼の誕生日は四月三日。十八歳になる二か月前から自動車学校に通えるので、春休み中に仮免許前まで(仮免許の取得は十八歳の誕生日を越えなければならない)進めようと思っている。


 また、三年生の初めは四月の第二週のどこかからなので、大型自動二輪免許も誕生日を越えたら取り始めるつもりだ。


 柚と会う前はYZF-R25を勝ったあと半年かけてお金を貯め、先に普通自動車免許を取る予定だったので、両方一度に取れるのは非常に嬉しい。


 バイクのカスタムもできたし、インカムも集に買ってもらったので今年は随分上手くいったと思う。


 木下塾の趨勢によって来年は大きく変わりそうだな、なんて考えながら帰宅していると、目の前を元気な小学生たちが走っていた。


 そのうちの一人が涼に気がついき立ち止まる。


「あ、涼にー! どうしたのこんなとこで?」


「ん、高校帰りだよ。(みちる)は友達と遊んでるところなのか?」


 偶然にも涼の前を走っていた小学生は木下塾に通う男の子で、名を満という。元気ハツラツで男女分け隔てなく仲良く付き合える貴重な子だ。最近は木下塾でもムードメーカー的立ち位置になりつつある。


「ああ! これからそこのこうえんでサッカーやるんだ! 涼にーもいっしょにやらない!?」


「そうだな.........友達たちがいいよって言ったらいいよ」


「ほんと!? ちょっとまってて、きいてくる!!」


 姫と知り合う前なら十歳も年下の子どもとわざわざ遊びたいとは思わなかったが、姫や茜、楓と遊び、塾をはじめたことで少しはいいかな、くらいに変わった。


 満が友達のもとから帰ってくると「おっけーだってさ! 早くあそびにいこうぜ!!」と満面の笑みを向けてきた。


 無邪気で可愛らしい。涼のクラスメイトも人の不幸を望むよりおめでとうと言えればいいのに。最近は受験モードで委員長やその他彼女持ちへの当たりが減ったが。


 涼は満の後を走って追いかけた。


 子どもの集団に追いつくと満の他にも木下塾に通う子どもが二人もいた。うち一人が前回のワールドカップで使われたサッカーボールと同じ柄のボールを抱えている。


 見知らぬ子は二人で、計五人の子どもが涼の周りを囲った。


「このにーちゃんだれ?」


「満のお兄ちゃん?」


「いや、俺のじゅくの先生!」


「俺もそこいってる! 涼にーむっちゃあたまよくてじゅぎょうもたのしいよ!」


「たまにおかしくれるしな!」


「えーいいなぁ。俺も母ちゃんがべんきょうしろべんきょうしろうるさいんだよ。そこならたのしくべんきょうできるのか?」


「ああ、僕の塾は遊びながら学ぶのがモットーだからね。良ければ今度体験授業に来る? 満たちも通ってるから一緒に遊べるよ。今なら体験授業代はタダ!」


 まともに勧誘をしたのは初めてかもしれない。


 普段は女の子だらけの中に数人男の子がいる雰囲気だが、こういうのも悪くない。むしろ昔の涼はこんなグループにいたので接しやすいぐらいだ。


「え、タダ!? いくいく!」


「満たちみたいにあたまよくなれんだろ? いってみたい! 母ちゃんもこれでもんくはいわないよなっ!」


 彼らの担任、西澤笑がこの前涼の家に訪問した際、木下塾に通い始めた子の成績が確実に上がっていた、と話していた。


 涼たちのように定期テストはないが、単元ごとにテストがあるので、周りの友達も勉強ができるようになっている(頭も良くなっている)のは肌で感じている。


 小学一年生に勉強を押し付けるのはどうかと思うが、塾に入れたい親は一定数いる。特に富裕層が集まりやすいこの地域ではその率も高い。


 友達と遊べる塾に通うだけで親からの圧力が無くなるのであれば一石二鳥。


 二人は目を輝かせて塾について聞いてきた。


 涼も楽しかった昔を思い出して公園へ向かう道すがら饒舌に語る。


(塾講師として働き続けるのも悪くないかもな)

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