期末テスト直前
柚の期末テストは涼が去年受けたテストを使っている。
当然柚の入っていたはずの高校よりも涼の通う翔央高校の方が学力は高く、テストの難度も相当高い。
柚が初めて定期テストを受けた時はほとんどの科目が平均を越えず、結果が振るわなかった。
前回の二学期の中間テストは精神疾患中勉強している時間が長かったおかげかそこそこ良い成績を出せた。
テストは涼が高校に行った時に涼からringを通して送られてくる。
そして指定の科目を指定の時間までに柚は解いて涼に送り返さなければならない。
涼は柚を信用しているので(ダルいということもあるが)カンニング防止のためのカメラをセットしていない。
それに柚の勉強の面倒を見ている涼からすれば大体解ける問題解けない問題は分かるので関係ないが。
柚向けに涼の受けたテストを縮小コピーしても良いのだが、柚向けのペンがないし、シャーペンの芯をセロハンテープで覆って書くという手段も柚の筆圧が足りず、結局PDFファイルでテストのやり取りをしている。
「さて、そろそろ問題と解答用紙を送ろうかな」
涼は学校に到着してすぐにringでテストを送る。
試験時間的にはギリギリの方が良いが、柚は小さい体のハンデが大きい(文字を書くのに通常の人間よりもかなり時間がかかる)ので、それを埋めるために早めに送ることにした。
柚にも予めテストが送られてきたら始めて良いと伝えてある。
「おはよう」
「おはよう、真。今日からテストだが余裕そうだな」
「お互い様だ。授業を見るに今回も特に対策はいらないからな」
「それは真だけだよ。僕はかなり復習したし、新たに問題集も解いたりしていた」
「多分涼なら要らなかっただろうがな」
涼に話かけている男は涼のクラスメイトで、涼の高校で一番の親友、榊真だ。
真は周りから天才と言われる涼よりもずっと賢く、テストでは学年一位の常連。涼は今回学年三位以内に入るとボーダーラインを定めたが、一位は真のものだと確定しているので、彼以外の中で二位にならなくてはならない。
「真は推薦のために内申が必要だろ。もっと真剣になったらどうだ?」
真は部活動で圧倒的な活躍をしているので、内申さえ高ければ翔央高校の名を背負って最難関大の推薦に挑める。
挑める枠は毎年一席しか空いていないが、涼の学年は三年に上がる前のこの時期から既に真のものだと見られている。誰も真を押しのけて座れるとは思っていないので、この椅子取りゲームの参加者は真ただ一人。
「んー、勉強をした涼とかが俺を抜くのなら分かるが、内申ならば最高評価を得られるだろう。ここは相対評価ではなく絶対評価だからな。習熟度は高いと認めさせるなど容易い」
「まあ、僕が心配するようなことじゃないな。万が一推薦を外しても真なら入試で通れるし」
名門校のトップに立つ真は全国模試でもトップテン以内に入れる実力を持っている。順当に行けばどの大学のどの学部にも(理系の学部に限る)入れるだろう。
「そうなんだよな。謙遜する訳じゃないが、俺ならどこだって簡単に入れるさ。涼も同じだがな」
涼もここ半年の成績からしてどの大学のどの学部にも(理系の学部に限る)入れる。
だが、涼と真の間には越えられない壁が存在する。
涼と真では地頭の差があり、涼は真には勝てないと悟っていた。
真は涼ならテストで自分よりも良い点を取ってもおかしくないと言っているが、同じようにテストのために勉強すればそれはないとわかっている。
真の売りが賢さにあるのなら、涼の売りは器用貧乏を超えた完璧超人。真は涼の多才さを認めていた。
「まあ、お互い実力を発揮できるよう頑張ろうぜ」
「ああ、そうだな」
涼と真は拳を合わせ各々の席に着く。
お互いテスト直前の復習はしない。ひたすら瞑想するように心を落ち着かせていた。
一方、学力に不安を抱いている柚は珍しく早起きし、最後の最後まで知識の詰め込み作業をしていた。
「あー、もう、なんで金曜からテストがあるのよ! しかも英語だなんて!! 熟語大丈夫よね?! 単語もしっかりできたかしら?! あああああ!! どうせなら月曜からやってくれればいいのに!!!」
アプリの英単語英熟語テストを繰り返し、穴がないか必死で探る。そして単語帳を開いて俯瞰し、最終チェックを始めた。
指定の時間に解答用紙を送らなければならないが、時間の使い方は涼に一任されている。
柚は英語を重点的に勉強し、送られてきてからもしばらくテスト範囲の見直しをしていた。
だが、時間のかかりそうな【数学Ⅰ Ⅱ】も今回あるので、満足が行くまで粘れない。
そして数学の公式の確認を軽くしてから、柚はテストを解き始めた。
次の話でテスト返却します