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妖精の住処  作者: 速水零
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王子さまの将来

 勉強勉強の毎日を過ごし、テストまで一週間を切ったが、木下塾は涼の都合など気にもせず営業している。涼の気持ち次第で休みにできるのだが。


 高校生の冬休みは小学生の冬休みよりもずっと早く、涼の期末テストが終わろうとまだまだ小学生は学校に向かう。当然木下塾が子どもや各家庭に配慮して休みを取るのは先の話。


 十二月最後の週と一月最初の週は休みになる予定だ。運営をサポートしてくれる保護者もその方が嬉しいと同意している。


 涼は普段から勉学を積んでおり、高校で履修する範囲の基礎は既に固まった。最近は応用力の強化を計っている。もちろん基礎を学びながらも応用問題はこなしていたが、全範囲を修学したことで視野が広がり、様々な問題に対するアプローチの仕方が洗練されてきていた。


 大抵の難問というものは教科書の基礎から他分野の内容を取り入れ、事象を難しく見せる。最難関ともなれば四分野の内容をさり気なく混ぜ込んでくるので、とても難解に感じてしまう。


 もちろん、大学によっては教科書のコラムのようなオマケの分野(実際に教えなくとも問題にはならない部分)や発想の転換なしには入口に立てない問題を出すところもあったりする。


 どんな難題(一部を除いて)にせよある程度の実力があれば解答を見て「あっこれならなんとか自分でも出来るかもしれない。いけるっしょ。イージーイージー」なんて誤解してしまい痛い目に合う。大抵は自己評価の高い愚か者にありがちだが。


 大学もこんなことを聞きたいけど出せる範囲ではないと苦渋の思いで捻っている。舐めてかかるものには容赦ない。


 だが、涼は驕ることなくコンクリートよりも堅い基礎を積んできているので、高校の先生が出す難問や大学入試の過去問であってもしっかり正答する。


 涼はこの期末テストで非常に高いボーダーライン(学年三位以内)を定めていたが、木下塾を運営し、教鞭を取りながらでも達成できる自信が生まれていた。


(木下塾を始めて勉強時間が確実に減ったはずなのに成績が上がっているだなんてな。柚もあれだけの仕事をしながらちゃんと勉強できているし、モチベーションのおかげか? 多分小学校や幼稚園の先生になりたかった柚にとって、このバイトは丁度いい息抜きなんだろう)


 涼は明日行われるBASICの資料を読みながら、頭の片隅でそんなことを考えていた。


 幼少期から英語を学んでいた涼にとってENGLISHの指導はとても楽だ。発音がネイティブに近いほど洗練されており、保護者からの評価も高い。


(でもまあしっかりとした外国人に習わせたいって保護者も多いし、僕もそっちの方をオススメしたいからBASICみたいに人を沢山呼ぶってことはしたくないな。いや、あれも積極的に勧誘してきたわけじゃないけどさ)


 現在BASICに通う子どもは24人もいる。それに対してENGLISHは辞める子も出てきて(全員BASICのみ続ける形となったが)15人。BASICから体験に来る子もたまに出てくるが、大抵はこの辺り。


 リビングを広々と使え、一人でも難なく指導できる。やはりゆとりをもった指導ができるのは大切だと身に染みた。


 テストよりもBASICのこれからの方が悩ましい。


 通塾してくれている保護者に話すことではないが、既に涼は木下塾の初期メンバー保護者達(運営のサポートをしてくれている保護者達)に今後の形態を相談しているが、意見は割れている。


 どこかのテナントを借りるか、BASICだけ回数を増やすかだ。回数を増やす方が経営的にはベストなのだが、この塾は姫の通う学校の子のみで構成されているので、友達と違う時間になるのは避けたいという意見が出てくる。


 もしテナントを借りるということになったら時間がかかるので、結論は子どもたちが冬休みに入る前に出し、来年からは新体制で臨むつもりだ。


 もうこれ以上このまま進めるのには限界がある。それは冴を採用しても変わらない。


(僕も自由時間が減るのは嫌なんだけどなぁ。最初は辞めるつもりなかったけど、ファミレスのバイトを辞めて木下塾一本に絞るべきか.........。マネージャーや仲の良い先輩たち、葵や冴とかを思うと心苦しいな)


 来年度は受験をするというのに仕事やアルバイトで頭が一杯だなんて、担任に知れたら激怒されること間違いなし。これからも黙っていようと思う。


「ねーねーりょー」


「なんだ、ダルそうな顔して」


「いや、本当にダルいんだけど。勉強もう飽きた!」


「それは過去に勉強しなかった自分が悪い。この前も言っただろ。勉強に励む苦しみは一時のものだが、勉強に励まなかった苦しみは一生のものだと」


「それに対して私もそんな名言聞きたくないって言ったでしょ! 誰よそんな耳障りのいいこと言ったの! 私はのんびりとバイトして楽しく暮らせれば十分なのに.........」


 人間に戻る策が完全になくなったとはいえ、柚はここで骨を埋める気でいるらしい。


 涼としてもずっと希望をもたれるよりは良い事なのだが、それでいいのかと首をかしげたくなる。


 それに、柚の言葉からして、彼女は木下塾がずっと続くと思っているようだ。


 柚が教材を作るバイトを続ける以上、涼がいなければならないのは言うまでもない。


(僕の将来は塾の経営者になってしまうのか?)


 これから先もこうして運営に悩み続ける未来を想像した涼は苦笑いを浮かべた。

涼の言っている名言はハーバード大学の図書館の壁に書かれていると言われるものです。

僕も大学受験の際何度も耳にしてはやる気をもらいました。たまに怒りを覚えることも.........

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