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妖精の住処  作者: 速水零
222/312

妖精クッキング〜後編〜

 クッキーの作り方。


1,ボウル(プラスチック容器)にバター、砂糖を入れてなめらかになるまですり混ぜ、それに卵黄を加えさらに混ぜる。薄力粉を一度に加え、へらで切るように、粉っぽさがなくなるまでサックリと混ぜる。


 バターと砂糖を別の容器に入れるのはまだ楽にできるが、なめらかになるまですり混ぜるのが非常に大変だ。


「よいっしょ、よいっしょ!」


 自分の身長のよりも大きな箸を一本手に取り全力で掻き回している。


 バター重い。


 箸も重い。


 かなり時間がかかったが、ようやくレシピ通りに混ぜ終え、先程頑張って分けた卵黄を混ぜ込む。


 薄力粉は紙の袋ではなく涼が小分けして瓶に入れてあるので、比較的簡単に分量通り入れることが出来た。


 ヘラで切るようにということなので、頑張ってヘラを持ち上げ、再び全力で掻き混ぜる。


 体が小さい特権のひとつに感性が豊かというのがある。塩の一粒一粒まで配慮できるほど感覚が鋭敏なのだ。


 だまになっているなっていないの見極めなど赤子の手をひねるよりも容易い。


「でも、キツイのはすっごいマイナス! 下手にダマがわかる以上全然妥協できないし、むしろ最悪なんじゃないの?」


 登山はじめて一時間で心が折れる初心者みたいな状況になりつつ、柚はそれでも踏ん張ってヘラを掻き回した。


 ようやく粉っぽさが完全になくなり、全体がしっとりとしたそぼろ状になった。


2,手でかるくつかむようにしてひとつにまとめ、生地をラップで包んで四角く形を整える。冷蔵庫に入れ、30分以上おいてなじませる。


 クッキーなら冷蔵庫に入れて冷やさなくても大丈夫と思っていてはじめたがこれは予想外。


「えー、ここから冷蔵庫で冷やすのぉ? 無理じゃん。タッパー持ち上げられるけど.........しんど」


 柚は頭を捻り妙案を模索する。


 ロープの滑車で楽チンに。長い板を置いて橋渡ししてそこを歩く。


 色々案は思いついたが、現実味ゼロだ。

 

 しばらく考えてみたが、これ以上は素材がダメになると確信した柚はしんどくても頑張ってタッパーをかかえて踏み台のイスまで飛び降りた。


 柚の身体能力ならばフローリングから全力でジャンプすれば冷蔵庫に入ることが出来る。


 イスの高さを利用すれば一緒に飛び上がってもなんとかなるはずだ。


「あ、今思いついた。ロープの滑車は無理でも頑張ってタッパーにロープ括りつけて冷蔵庫に入った私が引っ張りあげればいいじゃん!」


 どちらにしても面倒だが、失敗した時のリスクは圧倒的に低い。


 どうしてイスに飛び降りる前に思いつかなかったんだ、と思ったが、ダイニングから冷蔵庫まで引っ張るとなるとロープがかなり長くなり、地面に叩きつけられてて零していただろう。


 早速柚は涼がよく雑誌を捨てるために縛っているビニール紐を取り出す。


「なんか手作り筏作ってる気分。なんで冷蔵庫で冷やすだけなのにこんなに苦労しなきゃいけないのよ」


 普通のハサミは固くて扱いにくいので、眉毛ハサミを両手で持って綺麗にビニール紐を切る。


 タッパーを持ち上げてビニール紐を通して頂点でクロスさせ、またタッパーの下を通す。交点で涼に教えてもらった本結びという硬い結び方で、非力な柚でも外れないように結んだ。


「よし、これでなんとか冷やせるわね」


 柚はビニール紐を片手に冷蔵庫に飛び上がる。


 紐の長さは十分あり、飛び上がっている最中に引っ張られることにはならなかった。


 綱引きの要領で「おーえす、おーえす!」とタッパーを引っ張る。


 イスから落ちた時は体ごと持っていかれるかと思った。


 だが、一度耐えればそこまでキツくはない。中身が漏れていないことを確認して、柚はタッパーを冷蔵庫にしまった。


「じゃあ三十分休憩! つっかれたー!」


 気がつけばもうすぐお昼ご飯の時間。ちょうど良いので、柚は涼の弁当を食べた。


 休憩時間はとても短く感じるもので、弁当を食べ終わったと思ったらすぐに活動再開。


 ビニール紐を引っ張って再びイスに飛び降り、柚単体はキッチンに飛び上がってまたタッパーを引き寄せる。


3,生地をラップで挟み、めん棒で2mm程度の薄さにのばす。型に薄力粉をつけて生地を抜く。


4,天板にクッキングシートを敷いて4をのせて170℃に予熱したオーブンで15分程焼く。


 ここからは型をとってオーブンだ。


 と思ってクッキングシートをオーブンに敷いて再び生地たちに向き合うものの、型をとるための道具がない。涼がそんなものを買っているわけがなかった。


 まあ、できる女アピールをするためにはちょうどいい。


 この小さな小さな手を使えば意匠の逸品が出来上がるはずだろう。


 涼の驚く顔を思い浮かべながら柚は頑張ってクッキーをとりわけ、クッキーを焼き上げた。


 ついでにラングドシャも仕込むことも忘れない。

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