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妖精の住処  作者: 速水零
221/312

妖精クッキング〜前編〜

かなり柚視点の三人称です

「妖精の柚が送る、十五分クッキング! なーんてね。そう名前付けてやってみようと思ったけど、大事なこと思い出しちゃった」


 涼が学校に行って一時間が経つ。涼が帰るまであと六時間近くあるだろう。


 柚は涼に振り向いてもらうために料理を選択したが、いざ本番を想定してできそうな料理を考え始めた瞬間、重要なことを思い出した。


「私の作る料理じゃ、涼にとってサイコロステーキ並に小さくて味が分からないんじゃ.........」


 作ろうとして初めて気が付く重大な事実。


 柚がいくら頑張ろうと、自分よりも体重の重い料理を作ることなんてできない。


 今から再び作戦を練り直すか、と考えるがそれはそれでまた面倒だ。


 ここは胃袋を掴むことを諦め、家庭料理ができるタイプってのを全面に押し出すだけにしようと思う。


「さて、私なら何が作れるかなぁ。火は熱すぎて使えないし.........ってか、私が使える火ってライターくらいじゃない? マッチは火をつけられないし、普通にガスバーナーは焦げる自信がある。焼くのはなし!」


 マッチの火で炙るというのも限界がある。結果日を使えないことになったがどうしよう?


 現代料理でガスコンロを一切使えないのは大打撃で、柚はシェフのように知識豊かでは無いので、もう晩御飯を振る舞う作戦は諦めることにした。


 柚にもかろうじてできること、それはお菓子作りだ。


 幸い人形用の小さい器や柚の住まいである貴族おうちセット付属のカトラリーによって、具材を掻き混ぜるのは簡単にできる。


 しかし、火が使えないだけでなく、柚は冷凍庫で冷やすこともできないでいた。


 扉を開けるくらいなら上手く体を動かせばなんとかなるだろうが、仕舞うことはどう考えても無理だ。


 お湯の用意も電気ケトルの大きさから不可能。


 よって柚が選んだお菓子はクッキーとなった。


 子どもが作りやすいお菓子の定番。


 クッキーなら柚でも中学生の頃作ったことがあるので、楽に作れるはずなのだが、予想以上に時間と手間がかかる。


 そもそも冷蔵庫からバターと卵を出すだけで相当苦労した。


 キャスター付きの小さなイスを頑張って押して土台にし、飛び上がって冷蔵庫の扉を開けてフローリングに着地。


 もう一度イスに登ってジャンプして冷蔵庫の中に入って、一番の高い棚にある卵置き場に再び飛び上がる。卵を割らないように下の段の調味料棚に体を乗り出して移し、冷蔵庫の底でも受け取れるようにする。


 冷蔵庫の扉を開けっ放しにするとピーピーと警告音が煩いので、1度卵だけ両手で抱えてキッチンに飛び上がる。


 バターは箱に入っていて一緒には飛べないので、冷蔵庫の中で必要な分切って飛んだ。寒いし手がベトベトして気持ち悪い。


「あれ? 今思いついたけど、クッキーくらいならオーブンが私よりもずっと大きい以上、涼向けのサイズも少しなら作れるんじゃない? 普通の料理ならそもそも裏返したり混ぜたりが難しくて出来ないけど、クッキーみたいなお菓子ならできるわよね!」


 俄然やる気が出てきた。


 もう2、3個卵を取りに行ってもいいかもしれない、なんて思いつくが、掻き混ぜるのかしんどくなるのが目に見えたのでやっぱりやめた。


 ビスケットの欠片みたいなものを量産しそうだが、美味しければ効果はあるだろう。


 柚はその後も頑張って食材の準備に励んだ。


 四十分後、どうにか揃えることができた。


 これだけでもう達成感があるのだが、涼からすれば食材を散らかしただけに過ぎない。喜ばせるどころか迷惑になってしまう。


 少しスマホをいじって休憩し、袖をまくって料理に入る。


「えーっと、まずは卵を割って掻き混ぜる.........」


 スマホに写ったレシピ通りに進めようとするが、一歩目で躓きそうだ。


 柚にとって卵とはラグビーボールよりも大きい楕円形のなにか。重さは柚の体重の三分の一程もあり、まさしく恐竜の卵と感じるほどずっしりくる。


 世の中には卵を割る機械もあるようだが、それを活かせるのも人間なので、柚には関係なく、頑張って持ち上げ、床に落とすことでヒビを入れた。


 初めは柚の持っている食器でイけると思っていたが、こんな大きな卵を入れられるわけもないので、軽くて丈夫なプラスチックの容器を使うことにする。


 容器は蓋付きと蓋を外したものを並べ、柚は蓋の上で卵を大事そうに抱えてしゃがみこむ。


 卵を割るには二極から力を反発する向きに入れなくてはならない。足で卵の南半球側を支え、北半球側を両手で覆い、背筋を使って卵を割った。


 やってみて気がついたが、卵を割るにはかなり力が必要だ。


 蓋の外れた容器に卵を貯め、空になったらシンクへと北半球側の卵の殻を投げ飛ばす。南半球側に卵黄だけを溜め込むことに成功した。


 本来はバターを常温にして、粉砂糖と混ぜるところからスタートだが、柚は卵黄の準備から始めていた。


 ちなみに、卵白を捨てるならシンクでやれば良かったと思われるかもしれないが、家庭的な姿を見せるため、柚は卵白でもラングドシャというお菓子を作る。


 だが、こんなにぴょんぴょん跳ねて、体を使って卵を割ってという姿は、どこからどう見ても家庭的なお菓子作りの様子には見えない。


 涼がいないくて良かったと心底思いつつ、柚は次の手順へと進む。

久しぶりの前後編ですね。


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