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妖精の住処  作者: 速水零
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妖精の戦略

 柚はずっと思案していた。


 どうすれば涼が自分に振り向いてくれるのだろうか、と。


 普通の人間サイズだった中学時代まででも似たことを考えることは多かったが、今回の議題は過去最高に難関だ。


 答えがあるのかどうかも怪しい。


 状況を整理してみる。


 柚は高校入学して二週間程で体が小さくなり、実家から二百キロ以上も離れたところに飛ばされていた。何故だか「拾ってください」と書かれたダンボールに入れられて。


 柚が目を覚ます前に日課のサイクリングをしている涼に拾われる。


 初めは困惑して何がなんだか分からなかったが、とりあえず涼の言う通りにして、涼に連れられてその日のうちに実家に帰るも、母親から柚の記憶が消えていた。


 次の日柚の生きていた手がかりがないか調べるが、それも空振りに終わる。しばらく経った後に気がついたことだが、人間だった頃(便宜上ここでは人間を普通のサイズの時、妖精を今の体長二十センチ前後しかない状態を指すことにする)に使用していたSNSのアカウントからメールアドレスまで全て消えていた。


 涼が必死に原因と過去の事例を探すが、今でもそれは全く見つかっていない。最近は探そうと考えることすら滅多になかった。一介の高校生にできる範囲はとうに終わっているのだから。


 そして、涼の誘いによって柚は涼と二人暮しをすることになったわけだが、ここが一番の問題点だと柚は考えている。


 体が小さくて人間として見えずらく、魅力を感じにくいという問題も大きいが、半年以上同棲していて友達から一切関係に変化がないのは重大だ。


 普通交際していない相手と1対1で同棲などしない。


 柚が以前キャンプに行き、大きな鹿に出くわして恐怖してから精神疾患を患った時や、柚の生活空間を整えるためにアレコレ思案してくれた時のことを考えると、涼の柚に対する感情は決して悪くないはずだ。


 しかし、涼自身の過去の問題から一歩も前に進めていない。


 少し前に涼の問題の原因の一人、涼の母黒瀬椿がやってきて涼にも大きな変化が現れたが、柚との関係性は平行線。


 最近は涼の真っ当な後輩の強敵、佐伯冴が一番のライバルで、柚よりも何十歩も先に進んでいるのではないかと思ってしまう。


 正直とても辛い。


 この七ヶ月半たくさんの辛さを経験してきた柚だが、この問題はそのどれとも違う。


 もちろん、涼はとてもモテる容姿に性格をしているので日頃から誰かに盗られるのではという懸念はあったが、涼が恋愛に前向きになった今、警戒レベルは最大にまで達していた。


 柚はここで涼の大好きな、柚にとって因縁のキャンプに一緒に出掛け、仲を前進させようと画策しているが、それだけでは不十分。


 涼のことだから、キャンプに夢中で失敗に終わることさえ想像にかたくない。


 だからこそ今も柚はどうしようか考えている訳だが、一向に妙案が思い付かないでいた。


「そもそも半年以上も同棲していて、これからどんなアプローチをすればいいのよ! ラブコメのアニメ見るけど、裸を見られて急接近とか馬鹿じゃないの!? そもそも私たちの取り決め状態ラッキースケベとか生まれる余地ないし!」


 自然と独り言が漏れててしまう。涼が学校に行っていて良かった。


 妖精姿で人間用に作られた道具を活用することは困難を極める。体が軽くて自分の体重以上のものも平気で動かせる程の筋力比になったとはいえ、できることは少ない。


 柚は涼に手を借りて風呂に入っている。今でこそコツを掴んでドアを開けることも出来るが、風呂やトイレといった大きなプライベート事項に関しては取り決めに余念がない。偶然の入る隙間もないほどに。


「いっその事アニメの妖精達みたいに空を飛べればいいのに.........。でも、仮に飛べたとしても事態は変わらないか。虫が!?って言って裸のまま飛びつくなんてこの生活に慣れきった私には不自然すぎる。あーあ、もっと前にやっておくべきだったかな? だけど、この姿って人形を剥いたようにしか見えなくない? 決死の覚悟で特攻したけど涼は平然としていましたぁ、なんてことになったら私また引きこもるんですけど」


 ずっと家にいるのは退屈なもので、アルバイトの教材作りや勉強をこなしていても暇な時間は多い。


 今はひょんな事から見始めてみたアニメにハマっているが、彼女らの行動はほとんど参考にならない。


 大好きなファッション誌やネット記事も当てにならない。


 意外と大人の人間の人形弄りの業界は奥が深く、柚に合う服は多数存在しているし、化粧道具もコンパクトなものが多いので(それでもパフとか野球のベースほどに大きく感じるのだが)、オシャレはできる。


 だが、涼はオシャレした程度では響かない。


 あれこれ考えた末に、柚でもできそうなジョブ程の攻撃力をもったアプローチを思いついた。その作戦も不安な点だらけだが、同棲している以上攻撃するタイミングは掃いて捨てるほどある。


 妖精姿でどこまでできるか怪しいが、柚はニヤリと笑い、器用に巨大なスマホを弄るのだった。

また間に合いませんでした.........

最近柚が小さくなったことを意識しないで読める話ばかりだったので、こんな話にしてみました。

前に椿を王女というタイトルにしたのですが、涼が王子さまならおかしくね?と思う人もいるでしょう。

でも、女王様じゃないからなあと僕も悩んだ末にこっちにしました。王女くらいがちょうどいい人なんです!

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