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妖精の住処  作者: 速水零
219/312

格が違う

 国道413号線の道志みちに入ると辺りは暗闇に支配されていた。


 涼と銀以外に数台の車が後ろをついてくるだけ。


 夜に走る道志みちは心霊スポットのように不気味で、肌寒く、そして人の気配がまるでしなかった。


「雰囲気あるなーおい」


「そうだな。夜に来るのも悪くない」


「後ろの奴らがいなけりゃもっと楽しいんだが.........どうせ千切れるか」


「暗いんだから飛ばしすぎるなよ」


「当然!!」


 先頭を走る銀はギアを3速に落としスロットルを強く捻る。


 見る見る加速していく銀の姿を捉えつつ、涼も同様に速度を上げた。


 道志みちには長い直線というものがほとんどなく、何十ものカーブが涼たちを待ち構える。


 急な下り左カーブを視認した瞬間、銀は再びギアを落としエンジンブレーキで減速しつつコーナー明けの加速に備えた。


 普通に曲がっては膨らんで外に吹き飛ばされる。


 銀は車体から体の半分以上を外に飛び出し、自身の体重を利用して曲がる。車体自体も大きく傾いており、端からはそのまま地面と熱烈なキスを披露してくれそうに見えるだろう。


「ほんと水を得た魚のように生き生きと走るヤツだ」


 涼よりも銀の方が圧倒的にバイクに乗っていて、技術もある。


 しかし天賦の才では負けていない。


 違う会社の違う車種とはいえ、同じ250ccのフルカウルバイク。馬力もトルクも大きな違いはなく、所詮は素人の技である以上、銀にできて涼にできない道理はない。


 涼は目の前にいるお手本を真剣に観察し、動きを真似し、コツをどんどん吸収していった。


 銀は飛ばし気味な奴とはいえ法定速度を大幅に超えるようなことはしない.........滅多には。だからこそ短い直線で大きく離されることもない。


 涼は一万回転以上回して眼前のNinjaよりも加速度を高めて追い縋る。


 着かず離れずの攻防戦?を続けていると、後ろからけたたましい音を鳴り響かせながら近づいてくる者が現れた。


「涼、一旦ストップ」


「ああ、邪魔になるから端っこをゆっくり進もう」


「むちゃくちゃ速いな」


「100はゆうに出ているだろうな。こんな夜中にも現れるのか」


 アドレナリンどばどばで走っている涼たちが気が付くほどだ。そう何キロも離れていない。


 どんなバイクが出てくるのだろうと道路の脇を走っていると、そのバイクは突如姿を見せた。


「R1だ!」


「ヤバいな」


 涼たちが道を譲っているのだと悟った迫り来るバイク――YZF-R1はハザードを付けたまま涼たちを抜き去った。


 R1が涼たちを抜き去ると、数瞬のうちに銀のライトの当たらない所まで進んでおり、もはや音と彼の光しか捉えられない。


「リッターSSは化け物だ。くーっ!俺も欲しいぜ!!」


「確かに憧れるよな」


「涼もR25に乗っているんだからR1買おうぜ!」


「いや、憧れはするけど、あれは無理だろ。乗りこなせないって」


 涼が乗っているバイクはYZF-R25でこのフラグシップモデルがYZF-R1だ。


 排気量は涼の四倍の1000cc。つまりは1リッターもある。そして価格も実に四倍。200万を超える高級バイクだ。


 涼も今この場で欲しいバイクを3つあげようと言われたら迷わず選ぶほどR1が好きだが、今見た通りアレは公道を走るようなバイクじゃない。


 乗りこなせないと涼は言ったが、乗りこなせてしまうと道交法を大きく犯すことになる。


「それは俺も同じだ。Ninja250ですら限界を引き出すので精一杯な以上リッターSSなんて持て余すに決まってるだろ。でも、欲しい!!」


「なら社会人になってからだな。一応大学生でも乗っている人は少なくないらしいが、ローン地獄だぞ」


「あー、俺も就職しよっかなぁ.........」


 あんなバイクを見て再び攻めようという意欲は湧かない。


 涼たちは安全運転で道志の道の駅を目指す。


「銀はほんとバイク一筋なんだな。羨ましいよ」


「そうか? 俺からすりゃ、涼の方がずっといいね。会社作って成功してるんだろ? 光から聞いた。羨ましいと思っても手が届かねーよ。その点、涼はバイクに心身を放り込めば届くやん」


 隣の芝生は青い。涼は翼のように絵に夢中になったり、(らい)のように野球に無心になれる友達を尊敬している。そんな生き方に憧れている。銀にだって同じ感情を抱いていた。


 逆に銀からすれば学がないからこそ頭の良い奴を格上だと思い、涼を特に尊敬している。


「それができるのは一部の人間だけだ。元来器用貧乏なんだよ、僕は。.........ほら、道の駅着くぞ」


 冬シーズンの平日の夜というだけあって、休日は広大な駐車場を埋め尽くすほどバイクに溢れたこの道の駅だが、同志(道志と同志をかけるのは鉄板)はほとんど居なかった。


「ようやく到着」


「246のせいで無駄に疲れたな。あー、コーラでも飲も」


「ほんと好きだな、コーラ」


「涼だってどうせ缶コーヒーだろ? 一緒だ一緒」


「空気の良いとこでコーヒーを飲むのは僕の信条みたいなものだからな」


「なら、涼にだって一本筋の通ったもんがあるって事じゃんか。.........涼にだって周りが見えなくなるほどハマるものがあるはずだぜ」


「そうか?」


 銀の言葉に筋が通っているとは思わなかった涼だが、尊敬している親友の言うことを深く受け止めた。


(将来.........か)


 涼たちは少し休憩を取ってから再び走り出し、山中湖を経由して空いている246で帰っていった。

今回は.........いや、今回も僕の体験した実話を混ぜました。R1カッコよすぎ!!

飛ばすのはアウトですが!

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