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妖精の住処  作者: 速水零
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担任の苦悩

「えっ.........木下さん、もしかして高校生なのですか?!」


「はい、そうです。資料に書いてあるとおり翔央高校の2年生です」


「先程コーヒーを給仕してくれた方も高校生ですよね」


「はい。僕の別のアルバイトの後輩で紫苑女学院の1年生です。最近ここの塾の手伝いをしてもらっています」


「では、大人の方で誰か運営をされている人はいらっしゃいませんか?」


 ここまで言われるまでもなく、涼はこの担任が高校生のみで運営している木下塾に疑念を抱いていることを悟っている。


 保護者との面談で何度も言われてきたことだ。


 涼だってその危うさはわかっているが、そもそもただ勉強の面倒をみるために作った塾なので大きくするつもりはない。


 成り立ちやこの塾のコンセプトは伝えており、意にそぐわない人には入会しないことを勧めている。


「僕の父親が資金面で支援してくれていたり、この塾の立ち上げの際何人か保護者の方の力を借りましたが、基本的に僕一人で運営しています」


「なるほど……」


「かなり危ういと思われていますよね?」


「えっ!? あ、はい。……今どき高校生でも起業している子はそこそこいるという話は耳にしますが、冷静に考えると危ういと思ってしまいます。木下さんは翔央高校に通われていて、見た感じ頭が良さそうで子どもにも親御さんにもとても親しまれているので適職かと思いますが、それでも不安に感じます」


「確かにそういう意見は多いですね」


 あなたには関係ないでしょうと突っ撥ねることもできるが、涼は笑の訴えをまともに聞くことにした。


「そうですよね! 子どもを預かる仕事です。生半可な気持ちで携わっていいものではありません! いいですか、子どもの教育において最も大切な期間は今なんです! 六歳、七歳になるまでにいかに勉強を積むかで今後の学業に大きな影響を与えます。それは脳の発達から見ても言えることです。学習だけでなく子どもの情操教育にも言える話ですね。この頃に汚い言葉を覚えてしまうと、なかなか直すことが出来なくなります。もちろん、礼儀正しい木下さんがそんな言葉を子どもの前で多用するとは思いませんが、昨今の教育業界にはモラルの欠けた人が多すぎです! モンスターペアレントが多くて問題になりやすいということもありますし、昔の教育が悪かったことも影響しているのは理解していますが、子どもには優しい心で向き合って欲しいものです!!」


 教育学部を出ているだけあってその言葉はどれも説得力のあるものばかりだが、途中から愚痴に変わっている。


 これが友達相手なら何をしに来たんだと言ってしまうだろう。


 興奮すると前が見えなくなる笑ははっきり言って暴走している。


 始めは涼のことを糾弾しようと意気込んでいたが、涼の人となりを少しだけ知り、心の底で納得感を覚えていた。保護者たちが涼に任せる意味を理解してきていた。


 だからこそ興奮した状態で息巻いていた力の方向が普段のストレス発散へとシフトチェンジしていった。


「なるほど、うちの塾にはまだそういった方は来られていませんが、話はよく聞きます。度々ニュースで話題になりますからね。一般常識は基本的に親が指導するものでしょうが、学校の教師に押し付けて当然と思う方が増えているのでしょう?」


 涼は高校生が塾を運営することに関して話すのが面倒だと感じ、お茶を濁して愚痴を聞くことにした。


(やはり先生って大変なんだなぁ。こうして対面しているといかに激務なのかよく分かる。責任も大きいだろうし、上下関係も厳しいんだろうな)


 最初は以下にして納得してもらうかと頭を働かせていた涼だが、次第に相談所を運営している気分になった。


 同じ教育業界に勤めるものとして同情する。


 笑の話を柚に聞かせてやりたい。


 長引きそうだし、人を安らげることでは右に出るものはいないであろう大和撫子な冴を呼び戻すことにした。隙を見てringを送る。


「そうなんですよ! 鉛筆の持ち方なら分かりますが箸の持ち方は各家庭で教えるものですよね! うちのクラスは温かい保護者様方が多いので新任教師の私にも優しいのですが、同期の仲間たちはかなり絞られているみたいなんです」


「やはりそうなんですね。休みが少なかったり残業が多いのも問題な上に保護者対応もありますから、それはもう業務過多でしょう。あ、今おかわりのコーヒーお持ちしますね」


「あ、いえ、お構いなく。申し訳ありません。突然愚痴るようなことばかり言ってしまって」


 話題が落ち着き、笑は平静を取り戻した。自分の言動を思い浮かべて恥ずかしさを覚える。


 高校生が塾を運営するのは如何にと言い出した自分が宥められている状況だ。またやってしまったと後悔する。


 冴は涼から送られてきた「もう戻っていいよ」という短い文を忖度し、3杯コーヒーを用意してきた。


 冴は涼の隣に腰かけ、柔らかな笑みを浮かべる。美少女の微笑みは同性も癒してくれるのか、笑は気持ちが楽になった。

微妙なところですが、長くなるのでここで切りました。

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