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妖精の住処  作者: 速水零
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担任登場

「どちら様でしょうか?」


 モニター越しに立つ彼女は先ほどまだいた保護者のどれでもない。そもそもあの子らほどの子どもがいる歳にはみえない。二十代半ばといったところか。


「木下涼さんのお宅で間違いありませんでしょうか? 私お隣に住まれている小桜愛さんの担任教師の西澤と申します」


「っ!? ひ、姫さんの担任教師……ですか」


 ここまで驚いたのは椿が来たとき以来だろう。


 一応仲が良いとはいえ涼と姫は他人。担任教師が涼に会いに来る理由がわからない。先ほど愛たちが家に帰ったばかりなので訪問すれば出てくるはずだ。


 疑問は尽きないが、いつまでもボーッとしているわけにもいかない。


「とりあえず中上がってください。今向かいます」


 ピッと涼はインターホンとの繋がりを切る。


「担任の先生が来られたんですか?」


「そうみたい。なんでだろうな」


「私もわかりません。何かあったのでしょうか?」


「んー……とりあえず迎えに行くね。悪いけどコーヒーメーカーでコーヒー淹れてもらっていいかな?」


「わかりました」


 涼が急ぎめに歩いて玄関を開けると、ビシッとスーツを着こなした美人が立っていた。


 絹のように滑らかで闇夜を彷彿させる黒髪に少し垂れた優しさが窺える大きな瞳、出るところは出て引っ込むところは引っ込むモデル体型。


 童顔で幼さも見えるがスーツのおかげか少し影を潜めている。


 モニター越しで二十代半ばかと思ったが実際目にするともっと若く見える。


 涼が西澤を観察している以上に西澤は涼のことを()ていた。


(この人が最近うちのクラスで噂の涼お兄ちゃん――じゃなかった、木下涼さんね。確かにカッコいい! というかむっちゃカワイイ!! ううん、そういうことじゃなくて.........この木下さんのことをしっかり調べなきゃ!)


 西澤がここに来た目的、それは木下塾を調べるためである。


 普通担任教師は一塾のことを調べたりもしなければ、ましてわざわざ訪問したりしない。


 だが、木下塾には西澤の受け持つクラスの女の子の七割近くが加入している。いくら初めてのクラスで勝手が分からないとはいえ、それが異常だということはわかる。


 少年たちが学校の校庭を貸しているサッカークラブにみんなが加入しているのなら話は分かるが、明らかに木下塾はそういう所ではない。


「こんにちは、初めまして。木下涼と申します。立ち話もなんですからどうぞお上がり下さい」


「ご丁寧にどうもありがとうございます。では、失礼致します」


 西澤は丁寧な所作で靴を整え、涼の家に上がった。


「ひろっ」


 庭を見た時から思っていたが、涼の家はとても大きい。


 そして司が来客のことを考えて買った高級家具達に囲まれたリビングはさながらモデルルームのよう。


 同じ高級住宅に住む子どもや保護者たちは大きなリアクションを取ったりしないが、ワンルームマンションに一人暮らししている西澤からすれば夢のような家だ。


「どうぞお掛けになってください」


「は、はい」


「ミルクと砂糖お付けしますか?」


 西澤が寮に案内された通りダイニングチェアに腰掛けると、横からコーヒーをいれた冴が給仕する。


 普段からファミレスのホールをやっているだけあって様になっている。


 冴は一応アルバイトなので同じ席には着かず、ピアノ部屋で待機する。


「本日はどういったご要件でしょうか?」


 なんだか高校生の秘密組織にでも入った気分で落ち着かないが、西澤も遊びに来た訳では無い。


 ズズズと息を飲むほど美味しいコーヒーを堪能してから、西澤は本題を口にした。


「実は最近よくうちの児童達がこの塾のことの話題で持ち切りでして。保護者様方とお話する時も何度か話を耳にしていたので、少し興味があって伺いました」


「はあ、この塾が、ですか。確かに姫さんのクラスメイトが多数加入されていますので、塾の話をされることも多いでしょうね」


「はい。夏休み明けてから塾に入ったという子達が多くて、一体何があるのだろうと思ったわけです。塾に通っているので当たり前かと思われるかもしれませんが、何人かは見違えるように成績が伸びていますしね」


 なるほど、そういった事情ならどんな所か調べに来る気持ちもわかる涼だった。新興の塾に子どもたちが明かりに飛びつく蛾のように惹き込まれていったらそれは少し不気味なのだろう。


 特に西澤は若くて見た目から心配性な性格が伺える。何かあったあとでは遅いと思っているのかもしれない。保護者たちが信用していてもだ。


「体験授業の方に配っている資料でよろしければお読みになりますか?」


「はい、是非読ませてください!」


 涼はいつ体験授業の人数が増えてもいいように多めに資料を印刷している。


 書類の入った棚から一部取り出し、西澤に渡した。


 西澤は資料を受け取ると、テストを受けるようにクマなく中身を精査する。


「えっ.........木下さん、もしかして高校生なのですか?!」

まさかの担任訪問!?まあ木下塾って端から見ると怪しいですからね笑。

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