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妖精の住処  作者: 速水零
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ボーナス

第10章始動!

 文化祭も無事終わり、長いようで短い休息日も終わってしまった。そして、第二回プログラミング講座(BASIC内で行われるだけだが)も無事終了。


 冴は今日は友達と夕食を食べに行く約束をしているらしく、涼と柚は早めの晩ご飯を食べていた。


「なに、今日はピザ作ってたの?」


「ああ、先週子どもたちにたくさんクレープを振舞っただろ? その時にたくさん小麦粉を買っておいたのがまだまだ残っていたから、昨日のうちに生地を作っておいたんだ。冴がここで夕飯を食べるなら是非と思ってたんだがな」


「なーんだ。私のためじゃなくてあの子のためなんだ。最近やけにあの子の名前が出てくるけどもしかして.........」


「何を考えているか分からないけど、多分邪推だから、それ」


「えー、でも涼って冴に甘い気がする!」


 柚はダイニングテーブルの上で地団駄を踏んだ。


 最近よく感情が表に出るなと涼は意に返さず柚を見つめる。


「僕的には一番構っているのは柚だと思うんだけどな」


「うぅーっ、そう言われるのはとっても嬉しいけど

なんか釈然としない。こう、まるで妻に「あの子は愛人なんかじゃないよ。僕が一番愛しているのは君だ」とか言ってる感じ? 本当に私が一番?」


 柚はいつも以上にストレートに心根をぶつけている。どこか心情の変化があったのだろう。


「当然だろ。現に柚のご飯を作るのも、柚の勉強を見るのも、柚に寝床を用意しているのも僕なんだし。ピザを選んだのだって柚が食べやすい料理だと思ったからだぞ。.........それより、もう文化祭シーズンが終わって冬になる。となると真っ先に訪れるのはなんだ?」


 飛翔祭は十一月半ば終わりに開催される。ということはあと数週間で二学期も終わるということ。


 そうなるとまた涼たちを待ち受けるのは定期テストだ。


 前々から涼は柚にテストのことを釘さしていたので、柚が苦い顔をしている。


「前回の中間テストを見るに、案外教材作りをしていても成績は伸びている。今回も悪い成績は取らないだろう」


「そりゃもちろん! 私は仕事に専念して学業を疎かにするような馬鹿じゃないわ!」


「なら、次の期末試験も余裕だな」


「う、うん、もちろんよ! 任せなさい!」


 涼の指導と効率の良いネット授業をこなしてきたことで、柚の学力は元々柚の通っていた高校でもトップクラスを誇れるほど上昇しており、もう半年このペースで頑張れば紫苑女学院の転入もできそうな程だった。


 妖精のように小さい体をした柚が表に出られるわけないが。


「じゃあ今回はうちでまともに勉強を始めて半年くらい経ったんだし、ボーダーラインでも定めようかな」


「ええぇっ! それはない! 酷い! 人でなし! 冷血魔! 鈍感野郎!!」


 口元にケチャップを付けている柚の方が冷血魔っぽい。蚊のような妖精だなと心の中で涼は腹を抱えていた。


「酷いのはどっちだよ。そこまで言われるとは思わなかった。でも、それくらいないと張り合いがないだろうし、面白くないだろ?」


「面白さは求めてないんですけどぉ。それに、私最近プログラミングと英語の勉強で忙しいしぃ」


 その言い方に少しカチンときた。


「そんなに忙しいっていうのなら柚の好きな雑誌の電子書籍版は買わなくてもいいよな」


 怒っているわけではないが、ここまで言われると少し頭にくる。ちょっとからかってやろうと脅してみたが、これが意外と効果的面。


 柚はダイニングテーブルの上で土下座を始めた。


「それだけはやめて! 私の生きる希望なの!」


「あーはいはい。僕も鬼じゃないからそこまではしないよ。別に普段勉強を真面目にやっているのは知っているし、ペナルティを課すわけじゃない」


「えっ! じゃあご褒美くれるの!?」


「そうだな、冬のボーナスは期待してくれて構わない」


「やったーっ!! わーいわーい! 涼最高! マジ神! もう一生ついて行くわ!!」


 見事な掌返しだ。涼ははじめから柚にボーナスを支払うつもりでいたが、それは黙っておくことにした。


 さすがに予めボーナスを渡す気でいたのにそれをご褒美とするのは心苦しいので、涼は別の何かを用意しようと思う。


「その他にも何か褒美を用意しよう。何がいい?」


 柚の好きなものについて考えてもよくわからない上に、ここまで体が小さいと贈り物に困る。


 本人に聞くのが手っ取り早いと涼は素直に聞き出した。


「んー、そうねー、正直言ってお金はあるから何かプレゼントってのはなー。涼からアクセもらえるのは熱いけど、私のサイズに合うものないし……あれ?もしかして指輪がティアラになったりする? ううん、ティアラって柄じゃないし多分何回も落とすわね」


「何ぶつぶつ言っているか知らないけど、僕にできることならなんでも叶えてやるからテスト頑張るんだな」


 木下塾の調子は絶好調を維持し続けており、プログラミングに興味を持った子どもの体験受験の希望が多数寄せられている。


 そこそこ高い注文でも叶えられるだろう。


 涼自身18歳になったら大型二輪と普通自動車マニュアルの免許代が稼げた。自分へのご褒美はちゃんとある。


 もちろん、柚にだけボーダーラインを課すのは不条理なので、涼も学年三位以上の成績をとることを心の中で誓っておく。


「え、なんでも!? 今、なんでもって言った!?」


「なんだ突然。物に限定するのはつまらないし、1ヶ月限定で毎日夕食後にデザートを付けるとかでも構わないぞ。いや、それも物か」


「ふうん、そうなんだ。もうその言葉は覆らないからね! 男に二言はなしよ!」


 鼻息を荒らし柚は涼の眼前へと迫る。希望に満ち溢れているように目が爛々と輝いている。どこか悪巧みを考えているように必要以上に口角が上がっているが、不自然には見えない。


 もう既にボーダーラインを突破した気分で浮かれている。まるで手伝いをしていないのにお小遣いを貰った気でいる子どものようだ。


 柚はこの半刻の間にたくさんの表情を見せたが、今の顔が最も涼に魅力的に写った。

やっぱり学園行事にテストは欠かせませんよね。

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