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妖精の住処  作者: 速水零
208/312

【if】まともな出逢いかた

これは涼が作った設定が本当だったらというイフストーリーです。

涼の一人称視点で書いてあります。

 僕は4月に入り、YZF-R25というバイクを新車で買うことができた。


 高校1年の間教習所に行きつつアルバイトでお金をコツコツ貯め、約60万一括現金で払った。


 あれだけの札束は目にしたことはあっても手に取ったことはなかったので、とても震えたものだ。


 銀行振り込みでもよかったけど、やはりお金をポンと置いて購入することにロマンを感じる。


 YZF-R25はYAMAHAのバイクで250ccの車検がないギリギリのバイク。125cc以上で高速道路に乗れるので、このバイクは日本を巡るには必要十分なスペックを持っていると言えるだろう。


 スポーツタイプのフルカウルなのでそもそも旅には向かないのだが、不足や不利を楽しむタイプなのでむしろ大歓迎だ。


 僕は速攻で慣らしを終わらせ、ゴールデンウィークは軽くキャンプツーリングに行くことにした。


 そして今、栃木県の田舎にいる。


 ここは僕の家から約二百キロ北上したところで、1泊目の目的地だ。近くに無料キャンプ場があるのでそこに泊まろうと思う。


 国道沿いにできた街のため、田舎ではあっても栄えている部分は栄えている。もちろん横浜や川崎、藤沢などとは比べようもないが、この辺りはみんな田舎だと思っていた考えを捨てないといけないな。


 キャンプ場は川沿いにある公園で、この辺りの自治体も許可を出している。


 朝早く出たためまだ昼を過ぎたばかり。


 僕は自転車でキャンプツーリングをする時に使っているツーリングドームテントを5分で組み立て、荷物を中にしまった。


 せっかく時間が余っているので初めて来る街を探検しよう。僕はバイクに防犯用ロックを街頭と一緒にくくりつけ、貴重品を持って街へ出向いた。


 川沿いを歩いていると、最近は見なくなった古いスマホが落ちていた。


 くしくも僕が大好きな会社のスマホで、未だにこのスマホを綺麗に使っている人がいるだなんてと驚いた。


 ほんと、どんな人が使っているのか興味あるな。カバーからして女の人のものか。なんでこんなところに落としているのかはわからないけど、女性ってスマホがないと生きていけない人も多いし、重要なデータもたくさんあるだろう。警察署に持って行くか。


 国道を走って先ほどのキャンプ場に着く少し前に大きめの警察署を見かけた。


 僕は記憶を頼りに警察署を目指す。それにしてもこの辺りは空気が綺麗で心安らぐな。 


 警察署に辿り着き、落とし物コーナーに向かうと一人の女性が必死に何かを訴えていた。


「あの! 本当に私のスマホ届いていませんか? データはクラウドから引っ張ってこれるので大丈夫なのですが、あの機体がいいんです!」


 すぐに僕のスマホを探している相手だと分かった。


 その女性は僕よりも一つか二つ下だろう。わずかに幼さを含みながら、たしかに大人への階段を登っているとわかる発展途上のスタイル。特出するほどではないがとても可愛らしく、徐々に興味を惹かれていきそうなタイプだ。透明感のある暗髪カラーのセミロング。舞う桜の花びらがくっついたのではと思わせる薄い桃色の艶やかな唇。


 そこらへんの男子が何十人もルックスの良さで突撃しては玉砕していそうだけど、僕は彼女のスマホに対する情熱に心惹かれた。


「あの、すみません」


「は、はいっ! な、なんでしょうか!」


 急に話しかけたからか、彼女はビクッと身を震わせる。そして何故か頬を真っ赤に染めて僕のことを観察し始めた。


「このスマホ、もしかしてあなたのものではありませんか?」


「えっ……あ、そうです! 私のスマホです! ありがとうございます!!」


「あー、このまま渡したいのですけど、まずは静かに、警察の方々のおっしゃる手順を踏んで返しましょうね」


 あたりの警官がジロジロこっちを見てくる。人から見られるのは慣れているけど、警官は怖い。


 彼女も僕の拾ったスマホを見て取り乱していたが、僕の言葉を聞いて冷静になり、恥ずかしさのあまりしゃんと縮こまっている。


 それから僕は一応いつ、どこで拾ったのかなどを答えていき、必要な書類を記入して彼女――浮波柚さんに返した。


 そのままたくさん礼を言われるのだが、いかんせん声が大きい。


 市民の平和を守る警察官たちの注意を引き続けるのは不本意なので、とりあえず外に出て話を聞くことにした。スマホって自分の分身みたいなものだから、やっぱり語りたくなるよね。


 面倒だとも思うけど、こんなに型の落ちた機種を大切に使っている同志に巡り会える機会は稀だ。じっくり話を聞くことにした。


「よ、よければ喫茶店にでも、い、行きませんか? お礼に、コーヒー、奢らせてください」


 浮波さんは躊躇いながらもコーヒーの誘いをかけてくれた。もっと語りたいことがあるのだろう。


 まだ買い出ししてテントに戻るまでは余裕があるから話を聞くことにした。


「あの、木下さんってこの辺の人じゃないですよね?」


「あー、よくわかったね」


 自分の方が歳下だからと僕は敬語をやめるように頼まれた。僕も浮波さんには敬語なしでいいよと言ったのだが、断られた。


「だって、さすがに木下さんみたいな人が地元にいれば学校を超えて噂になりますよ」


「それはそれはどうも。褒めてくれているのかな?」


「そりゃそうですよ!……ですが、この街にどうして来られたのですか? 涼さんが拾ってくれたあたり何もない公園ですよね?」


「それはキャンプツーリングをしていたからさ。うちからちょうどいい距離にあったからここで泊まろうかと。それで散歩と観光がてら夕食の買い出しに出かけたらこうしてスマホを拾ったわけ」


「なるほど、ほんとありがとうございます! 月々百円払ってクラウドの容量上げてバックアップも自動的にとれていたので、新しいスマホに替えればデータの復元も容易にできたのですが、この子には少し思い入れがありまして」


 やはり彼女は同志だ。高校一年生ながらここまで拘りと物への愛着を持てるだなんて素晴らしい。


「その気持ちわかるよ。僕もガジェット大好きで色々集めてるんだ。浮波さんと同じ型のスマホ使ってたんだけど、ちょっと壊れちゃって今は最新のやつ使ってるよ」


「それってあの新しいカメラレンズの付いたやつですか!?」


 浮波さんは最新機種が気になっていたのか前のめりになって僕のスマホを観察した。


 その気持ちよくわかる。僕はロックを解除して浮波さんにスマホを貸した。


 浮波さんはカメラアプリを開いたり、この機種特有の機能を色々試しつつ、自分のスマホとのスペックを比べている。画面が有機ELなのも良いぞと軽く自慢してしまった。


 その後はスマホ会社談義になった。僕の持っている最新機種の使い心地はどうか僕目線でのレビューをしたり、新しいOSはどれだけ素晴らしいか、次にどんな製品が出てくると思うかなど話題は尽きない。


 果てには僕のコレクションなんかも披露して、とても楽しい時間を過ごすことができた。


「あの、本当に今日はありがとうございました」


「ううん、スマホが見つかってよかったね。よかったらringの交換とSNSのアカウント教えてくれない? ここまで話が合う子がいなくて、また今度語り合いたいんだけど」


「は、はい……わ、私も木下さんとお話しするのはとても楽しくて、つい、長々と語ってしまいました。こんな私でよろしければ、これからよろしくお願いします!」


「よろしく。それじゃあ僕はキャンプ場に戻るね。明日も早いんだ。……ああ、そうそう、もし東京に来ることがあれば誘ってよ。そのスマホ会社のショップとか一緒に巡りたいしさ」


 ロマンもない言葉だが、僕と浮波さんは一番これが良い……はずだ。なんか苦笑いしている気がするけど気のせいだろう。彼女は僕と同じで遊園地などには興味がないはずだ。


 僕にしては結構積極的だなと思うが、初めての土地で、なかなか出逢えない同志だからかな。


 すっかり遅くなってしまい、日も暮れてきたが、僕の心はとても晴れやかで、どこか胸の底に今まで感じたことのない感情が渦巻いていた。


 今夜はカップ麺で手軽に済ませよう。明日は宮城県と山形県を回るんだし、早めに寝ないとな。


 僕は浮波さんの住む街か、と感傷に浸りながら街を見渡しつつキャンプ場へと帰っていった。

例によって章の終幕を告げ忘れました。

前回で第9章は終わり、明日?から第10章に入ります。

別に最終章ではありませんよ。話はかなり動くはずですが、最近の僕の主流通りじっくり進めます。まだ大まかにしか展開が定まっていないので行き当たりばったりですが……

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