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妖精の住処  作者: 速水零
207/312

途中経過

「もちろん涼の知名度から見れば若干大げさに聞こえるだろうけど、涼をネタにすることで大きな話題を生まれるのは確実。一足遅く向かった人たちは噂のクレープ屋が完売終了しちゃってがっくし言ってたみたい。涼本人も可愛い女の子と一緒にどこかへ言ったって言うしねえ。相手はもしかして葵ちゃんかしら? それとも、噂の柚ちゃん?」


「葵で合ってるよ。母さんはほんと耳が早いんだな」


「そりゃ今の仕事やる前から噂ごとは大好きだもの。むしろ情報収集が本業ね。んー、それにしても

あの葵ちゃんとデートかあ」


 椿は感慨深そうに上を向いてため息を漏らす。


「別に待ち合わせしていたわけではないけどね。あいつに無理やり引っ張り出されたんだ」


 片付けが残っていたのに、葵に釣れられたから仕方なく一緒に遊んだんだと涼は主張するが、実の母の椿には自分を誤魔化しているようにしか見えない。そもそも涼が本気で抵抗すれば葵は身を引くはずなのだ。


「ふうん、そうなんだ。……ねえねえ、元カノなんでしょ? どういう形で二人は付き合うようになったの?!」


「さあ、どういう形も何も、僕は中学の頃に葵に告白されたから試しに付き合ってみただけだよ」


「試しに、ねえ。私は最良だと思うけど、どうして別れちゃったの?」


 椿にとって葵の印象は男勝りで元気な女の子。誰にでも可愛い笑顔を向ける子で、将来絶対にモテると保護者たちの中でも有名だった。


 好きなものに一直線な涼と、それに嘘偽りなく付き合える葵。どう成長していくかはわからないが、絶対お似合いカップルになると椿は見ていた。


「どうだろうな。なんとなくわかってきた気もするが、葵に言わせると僕がまだ子どものままだったからなんだろうな。いや、葵なら自分が中途半端に大人になっちゃったからって言いそうだ」


「その口ぶりからして涼は振られちゃったのね。……理由に関してだけど、痛いほど気持ちがわかるわ。葵ちゃんも苦労したのね。うちの馬鹿な息子が……いいえ、そうなったのは私たちが原因か。謝りたい気分」


「いきなり謝られたって葵が驚くだけだって。最近は前より仲良くなったんだし、なにか母さんが気負う必要はないよ」


「それは、私が涼にアドバイスしたおかげかしら?」


 椿からのアドバイス、それは頭の片隅に恋愛感情を置いておき、相手との間に壁を作らないこと。以前椿がこの家を訪ねたときに言われたことだ。


 涼はその言いつけを守り十五夜祭で冴とデートをするとき、柚とデートをするとき、飛翔祭で葵とデートをするときにもしっかり意識していた。


 そのおかげか恋というものがわかってきた気がする。


「そう、ちゃんと前を向いているのね。関心関心」


 椿は涼の顔を見て順調に事が進んでいる理解した。


 これなら我が子が歪んだ感情を持ちながら社会に出ること、私のように狂いまわる子ができることはないだろうと椿は感じる。


(ほんと、逆のベクトルでも行き過ぎているから涼とあの人は似通っちゃったのね。葵ちゃんが涼と別れたのだって私とほとんど同種の問題。やっぱり悪い子としちゃったなぁ。あんな子にこんな思いをさせたくはなかったんだけど。……でも、立ち直って涼と仲良くしてくれているのはすごいと思う。私はまだようやく向き合え始めたばかりだというのに)


「涼の初恋エピソードが聞けるのももうすぐかなぁ」


「できたとしても話すかどうかはわからないよ?」


 誰が好きこのんで母親に恋愛トークをするというのだ。涼にだって羞恥心くらいはある。


「えー、聞かせてよ。うちのモデル達がそんな話してたら冷や汗ものだけど、涼ならそんなことないし、母親として興味あるわ」


 椿と再会したばかりの頃なら誰が母親だと思っていただろうが、1ヶ月以上ringでやり取りし、服や小物類などをプレゼントしてもらっていたおかげか、特に違和感を感じない。


 むしろ最近司以上に自分の親なのではと思ってしまう。彼は彼で涼に毎月多額の仕送りと塾の運営サポートをしてくれているので、親の責務以上を果たしているのだが。


「母さんのところは恋愛禁止なのか?」


 椿のおかげか最近意識を少し変えて楽しく過ごせているので感謝はしているが、これ以上疲れる話はしたくない。涼は話題を変えることにした。


「んー、うちはアイドルじゃないしそんなに厳しくしてないんだけど、週刊誌とかあの辺がうるさいか騒ぐからうざいのよ。それで辞めちゃう子もいるし、大きく言えないけど、未成年でリテラシーない子は問題起こしがちだから」


 モデル業界とは涼の想像通りの世界らしい。いや、深く聞くとそれ以上にヤバいのだろう。椿の話に乗らなくて正解だったと確信する。


「しかもね、聞いてよ。この前なんて――」


 椿は涼の恋愛状況を聞きに来たのだが、ダムが決壊したかの如く涼に愚痴を漏らしていった。


 椿にも親しい友人はいるが、恋人や結婚を見据えた相手はおらず、日々鬱憤が溜まっていたのだろう。


 話を逸らすことはできたが、これはこれでとても疲れそうだと思いつつ、涼は母親の話に相槌を入れることに専念した。

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