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妖精の住処  作者: 速水零
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同世代の邂逅

「涼、もしかして、お忍びデートか?」


「ん? ああ、真か。滅多なこと言うなよ。クラスメイトの状況わかるだろ?」


 涼たちが面白そうなクラスはないかと構内を歩いていると、涼の高校で一番の親友榊真に出会った。


 涼とは違い、真は一人で構内を散策しているようだ。文化祭も終りが近づいているので暇なのだろう。


「それはわかっている。不毛な争いだが、奴らの気持ちはわからないでもない。だが、そんなに密着して手をつないで歩いている姿を見てデートだと思わないほうが珍しい」


「それはそうだよな。わかってはいたけどさ」


 涼とてこんなふうに歩いていたら邪推されるのはわかりきっている。わかってはいるが、なぜかこの手を離そうと思ったことはなかった。今も継続している。


「そうだろ。それで、その子は涼の彼女か?」


「んー、彼女だって言いたいけど、君涼と同じでむちゃくちゃ頭良さそうだからなー。私は春咲葵、涼の幼馴染で元カノをやっております」


「元カノね……確かに涼は嘘をついていたわけじゃなさそうだ。俺は榊真。涼のクラスメイトで仲良くしてもらっている」


 嘘、というのは涼が誰とも付き合っていないというクラスの共通認識のことである。真は涼が交際中であろうがなかろうがどちらでも良いのだが、対等なライバルだと思っている相手に嘘をつかれているのは気分が悪い。


「葵でも真が頭良いように見えるようだが、一言付け加えると、そんなレベルじゃないぞ」


「といいますと?」


「僕よりもずっと賢いのは当然として、IQは160以上、模試を受ければ全国トップテンに名前を連ねる本物だ」


 ちなみに涼のIQは140そこそこ。それでも世界最高峰の大学卒業者たちと比べても遜色ない頭脳を持った天才だ。上には上がいるということだが、一般人からすればどちらも雲の上の存在でしかない。


「やばっ! まさか涼よりもすごい人がこの世にいるとは思わなかった」


 葵の知る中でもっとも賢い人物は誰かと聞かれれば当然涼のことが思い浮かぶ。高校でも頭の良い友だちができたが、同レベルの生徒を集めるだけあって皆涼の足元にも及ばない。


 そもそも、葵だけでなく、涼と同じ中学に通っていたものならば学年関係なく涼のことを思い浮かべるだろう。それだけの逸話を残すほどの成績を涼は出し続けていた。


 だからこそ葵は涼の発言に驚きを隠せないでいた。


 いくら全国有数の名門校で進学実績が神奈川県トップの高校といえど、涼よりも頭が良いやつがいるなんて想像もできない。


「春咲さんの気持ちはよく分かる。涼は謙遜して俺を持ち上げているが、俺は涼ほど優れた人間を知らない。まっとうな評価をできないのは涼の悪いところだぞ」


「僕からしたら客観的な評価だよ。現に定期テストで僕は真より良い成績を取れたことがないし、部活でも世界大会で優秀な成績を収めたじゃないか。僕は同世代で一番真を尊敬しているんだぜ」


「あー……もしかして、お互い自分よりも相手の方がすごいなって思ってるカンジ?」


「僕より真が優れているのは当然だろう」


「いや、俺が涼を上回っている分野なんて勉学のみだろ。それもかなりの接戦だ。しかし、他の分野においては俺は涼に手も足も出ない。ほとんど完敗といっていい」


「なるほどなるほど。私、今冴えてるから状況がなんとなくわかってきたよ。なんで元カノ紹介をされた直後に男子高生たちの乳繰り合いを見せられているのかは理解できないけど」


 葵の中ですべてが合致した。


 欠けていた歯車が修復されたように、抜けていたパズルのピースがハマったようにすべての道筋が一本に繋がった。


 葵は常々疑問を抱いていた。


 涼とアルバイト先で再会したときに違和感を覚えた。中学の頃を考えれば、涼がここまでバイト先の人たちと仲良く連携の取れた仕事ができるはずがない。


 興味のあることにしか動かない涼がアルバイトを始めるのはギリギリ想像できるが、他人への興味を失いつつあった涼らしからぬ行動がよく目立つ。


 高校に入って更生でもしたのかと思っていたが、涼がまともになってきた一番の要因は真なのだろう。


 中学生の時の涼は周りと比べて本当に特出していた。相変わらず光達とバカやって遊んでいたが、涼と対等に話せる理解者はいない。


 裕福な家庭が集まりやすいとはいえ、地元の中学レベルでは涼が天狗になってしまってもおかしくはない。天才達が集められる翔央高校に通い始めたからこそ、涼は世界の広さを知った。


(ほんと、流石翔央だなぁ。涼に張り合える人がいるだなんて思いもしなかった。この人や他にもすごい天才達が周りにいたから、高校に入った涼はちょっと丸くなったんだね。ちょっと嫉妬しちゃうな)


「まあ、そんなことは今どうでもいいか。前からよく議論になった話題だし、互いにどう思っていようと、評価は変わらないだろ?」


「そうだな、完全に客観視するなんて不可能だ。このまま良い関係が続けられそうなら無理に認識を歪める必要はない。ところで、涼はクレープ屋に缶詰じゃなかったのか?」


「ああ、シフトだと今は働いている時間だが、完売したんだ。もう売るものもないから僕はお役御免。真がホールに来ていたらもっと客を捌けて早く店じまいできたんだがな」


「俺はそういった行事に興味ないからな。部活の出し物もあるし、クラスメイトから憎まれるのも勘弁だ。まあ、そういうことならゆっくり楽しんでくるといい。また出会う時があれば涼の昔の時のことを聞かせてくれ」


 真は涼ほどでないが容姿が整っており、いかにも天才という風格がある。知的なんて稚拙な表現では収まらないほどの知性を感じさせられる。


 涼同様、真がホールに立てば人気が出て売り上げも上がるだろう。クラスメイトからのヘイトも上がるだろうが。


 真は部活を言い訳にクラスを避けた。世界大会にも出た部活のエースを引き止められる奴は誰もいない。


「うん、そうだね。また今度私も涼の高校生活聞きたいから会った時教えてね」


 葵は涼と繋がった手を大きく振って真に別れを告げた。それを見て真は何かを呟きほくそ笑んだ。


 その後葵とはいくつかの教室を見て周り、文化祭終了までずっと一緒に遊んだ。


 時折他のクラスメイトと遭遇してしまうこともあったが、なんとか穏便にすんだと思う。


「榊さんってすごい人なんだね」


「ああ、さっきも言ったが、僕が同世代の中で最も尊敬する奴だ。本当の天才ってのは彼のことを言うんだとこの学校に入って思い知らされたよ」


「それはそれは、あの頃の涼とは思えないセリフですなあ。ちゃんと成長して人と向き合えてるなんてお姉ちゃん嬉しいよ!」


「誰がお姉ちゃんだ」


 涼と葵は文化祭が終わった後も一緒に過ごし、夕食を共にした。


 途中何度も胸が高鳴ったが、不思議と心地良さも感じていた涼であった。

1日目の後輩達が出会うように、2日目は葵と真が出会いましたね。

IQとはその子の年齢でできる学習能力が同じ時に百、10歳で12歳レベルができるなら120といったもので、東大生の平均が125だときいたことがあります。

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