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妖精の住処  作者: 速水零
202/312

自称王子さまのファン

「いらっしゃいませ。店内でお召し上がりでしょうか? それともお持ち帰りなさいますか?」


 昨日寄ったファストフード店の店員のセリフにつられた挨拶で、涼は目の前の頬を赤く染めた女の子を相手にする。


 飛翔祭が始まって二時間経ち、昼ごはん時となってきたがクレープ屋には大行列ができていた。


 日曜日で人が沢山来やすいということもあるが、一番の理由は昨日涼が受付をやっていたからだろう。


 SNSを通じて涼のことはそこそこ拡散しており、一万人を超えている涼のフォロワーの多くが集まってきていた。


 さすがにパニックが起こるんじゃないかとと思っている涼だが、ここの責任者や生徒会たちは止めるつもりがないらしい。


 時々清涼剤の木下塾の生徒たちが遊びに来てくれるが、ファミレスバイトの休日ランチよりも忙しい。


 昨日ずっと笑顔で接客をしていたので表情筋が筋肉痛だ。日頃からにこやかにしているべきだったと変な後悔をしていると、ファンだと言う女の子集団が現れる。


「あ、あの、涼さんですよね!」

「ワーッほんとだ!涼さんだ!」

「あのあの、写真一緒に撮ってもらってもよろしいですか!?」

「さ、サインくださいっ!!」


 以前ネット記事にあげられ、プチバズした影響か涼のSNSのフォロワーは何倍にも上昇し、何ヶ月か経った今でもそこそこフォロワーが増え続けている。


 一般人でカッコいい男子高生は誰かと調べれば1、2ページめくった先に涼の顔が出てくる。


 翔央高校ということは知られているのでもしかしたらと思ったが、それにしても涼目当ての客が多い。


 昨日誰かが隠し撮りしたのがSNS上で拡散したのだろう。こういう団体は今日八組目だ。


「すみません、サインや写真撮影は行っておりません。後ろのお客様のご迷惑になりますので、なるべくはやく注文していただけると助かります」


 臨時で会計を三人に増やして銀行のような並び方にしているが、直接涼に注文を受けて欲しい連中が多く、途中から列の出来方が変化した。


 川で例えるなら主流と生活用送水にわかれているほどだ。たまに涼目的でない客が列を抜かして他の受付に行こうと乱れるのもタチが悪い。


 まるでアイドルのサイン会だなぁなんて現実逃避をしつつ最高の笑顔を振りまく。


 面倒な客には握手をして黙らせようかと思案するが、余計客が荒れるだけだと却下。


 今のところ涼の知り合いで面倒ごとは起きていないが、昨日以上に涼は疲弊していた。


 問題は客だけじゃなく、クラスメイトからの冷たい視線もある。涼が陰の人気者だと知らない彼らにとって涼にファンがいるだなんて青天の霹靂。


(あー、好意と殺気が混じってて気持ち悪っ。やっぱり委員長許せない。こうなると予想していたら僕の中でも完全に死罪だな)


 その後何組みもの涼のファン団体を相手にクレープを売り捌き、一時間半もすると全てのメニューが完売した。


 時間はお昼時を超えてきているので、追加で用意することは出来ない。


「すみません、本日は完売致しました! 長い間待たせてしまい大変恐縮ですが、お店を締めさせて頂きます!」


「涼だ! ホンモノの涼だよ!!」

「え、うそ........ほんとだ!」

「あの記事読みました! 涼さんですよね!!」

「やっば、むっちゃイケメンじゃん! この人?あんたの言ってた顔見に行きたいって男」

「うん! 昨日SNS回ってきてワンチャンあるかもって見に来たんだけど、写真よりもずっとカッコいい!!」


 何故か涼が行列を辿りながら客たちに謝罪をしていく。


 案の定涼目的の客に騒がれながら(これが終われば本当の終わりだ)と自分に言い聞かせる。


 行列は隣の隣の教室まで続いており、涼が目の前に来たと知った客は軽くパニックに陥っていた。


 ライブで観客席に行くパフォーマンスをしている気分になる。


 最後の客に引きつりつつある笑顔を見せていると、母親の顔よりもよく見た知り合いがこちらに歩いてきた。


「誠にすみません! 引き続き飛翔祭をお楽しみください.................あれ、葵…か?」


「そう、涼の幼なじみにして元カノ、高校では歌姫と囁かれているはずの葵ちゃんだよ」


 片手をにぎにぎ動かしながら葵は涼の元へとやってきた。


「いやー、すごい人気だねぇ涼は。昨日SNSで中学の友達が言ってた通り客引きやってたんだ」


「それはやってない。てか、そんなこと言われているか僕は」


「んや、冗談。受付でしょ。でも、客引きつけすぎてたのはホントじゃん。さっきの列の中に同じ中学の涼の隠れファンいたし」


「え……全く気が付かなかった」


「まー、すごい忙しそうだったから仕方ないよ。私でもこの状況の中働きたくはないなー。ね、仕事終わったんでしょ? せっかくだし遊ぼうよ」


「あー、それは別に構わないんだが.........」


 葵と遊ぶのは楽しいので涼もそうしたいところだが、朝の委員長のことが頭によぎる。


(僕はこのクラスの功労者なわけだし、片付けを抜けても誰も怒らないだろうが、アイツらが恐い。.........あー、誰か様子見に来てるじゃん)


 振り向いて教室を確認すると、涼が謝り終えた確認しようとキョロキョロしているクラスメイトが目に映る。


 彼女はいないと公言している涼がこのまま葵と遊びに行くとなると、ただでさえ顔立ちの良さで恨まれている涼への恨みつらみが累乗で跳ね上がるだろう。


 委員長の比ではないだろうな、と悪寒に体を震わせていると、葵が涼の手を取って走り出した。


「なにか変なこと気にしてるでしょ。そんなの涼っぽくないよ! ほら、後のことは後の自分に任せて行こっ!」


「あ、木下.........その子誰だよ羨ましい! やっぱ彼女いたんじゃねーか恨むぞゴラッ!!」


 結局クラスメイトにバッチリ見られ怒号を浴びながら涼はクラスを後にした。

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