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妖精の住処  作者: 速水零
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妖精の情報収集

「お疲れさん」


 生地の追加を作り終え涼が家に帰ると、時刻は8時半を超えていた。


 本来学園祭で出されるクレープの出店とは、すでに出来上がっている冷凍食品を解凍して提供するものだが、紫苑女学院のクレープ屋や涼のクラス達は生地作りから行なっている。


 コストや効率を考えれば冷凍食品を出す方が良いのだが、涼のクラスメイト達は全て手作りで提供することに拘っていた。


 何故か涼がクラスメイトに聞いてみたところ「その方が客は来るから!」「他と違うってだけでおんなの――客は集まるんだよ!」「クレープに妥協は許さん!!!」「材料を摘み食いできるじゃん!」などの理由を並べられた。


 意味がよくわからないが、ホールをやらされた時同様多勢に無勢。涼自身もクレープ作りは体験したかったので反論することはなく今に至るわけだ。


「ああ、ほんと疲れた。なんだが五連勤した直後の気分だよ」


「それはそれは。モテる男ってのは大変ねぇ」


 涼は珍しく学校帰りにクラスメイト何人かとファストフード店で夕飯を食べてきたので、今は優雅にティータイムで心を休めている。


 一方、柚は涼の買ってきた飛翔祭土産のタコ焼きを摘んでいるが、体長二十センチ程度の柚には一つだけでも二日分の食事量だ。口が小さいため食感やタコの味がわからず満足できないと思っていたが、中々に美味しい。


「んー……まあ…………そうなんだよなぁ」


「珍しく認めるじゃない」


「そりゃ逆ナンされたり廊下からこっちをジロジロ見られたりすれば認めざるを得ないよ。こっちは手早く行列を捌こうとしているのに面倒なことこの上ない。売り上げと出逢いのチャンスが増えるからとかクラスメイト達は押し付けてきたが、売上はともかくナンパの成功者は誰もいないじゃないか」


「そりゃそうでしょ。こっちはイルカを見に来ているのにその前をクラゲがウヨウヨしてて気分が上がると思う? せめてカメが現れたなら目移りしたりするだろうけど……」


「言い方は悪いが話はよくわかる。あいつらだって別に顔が悪いわけでも出来が悪いわけでもないんだが、文化祭テンションがウザいんだろうな」


 涼は一部のクラスメイトを天才だと尊敬しているが、他のやつらを認めていない訳ではない。


 惹かれる部分がなかろうと高難度の試験を通って入学しているのだから、普通よりもだいぶ優れている。


 ただ、何年も男子校という男集団で生活してきたものだからタガが外れると厄介な連中だとも思っていた。今年は去年の文化祭よりも酷い。


「普通の学校ならみんなそんな感じで気にもしないんだろうけど、紳士の集まりそうな翔央高校に遊びに行ってソレは幻滅でしょうね。でもそんなにお土産買って遅くまで残っていたんだからそこそこ充実してたんじゃないの?」


「そうだな。楽しかったよ。木下塾の子どもが遊びに来てくれたし、途中でやらせてもらったクレープは中々うまくいってし……冴達や空達も遊びに来てくれたからな。色々神経すり減らされてある意味刺激的だったけど、それもまた醍醐味なのかな」


「ふうん」


(やっぱりあの子ら遊びに来たんだ。私もその場にいれば……いや、ずっと鞄に閉じこもるのは嫌だから行かなくて正解かしら。現場にいたとして私にできることなんて何もないし。涼を見る限り周りに先手を打たれたとかはないはず!)


 双子とのデートの時や、冴と文化祭デートの時は監視するために涼について行った柚だが、もうそんなことをするつもりはない。


 手を出したくても周りやデート相手にバレる危険が大きく、結局静観するくらいしかできないのだ。通話はできても涼に不信感を抱かせてしまう。


 それに、涼のデートを間近で聞かされ続けるというのは柚にとって拷問に等しい。自分がその女の立場ならという儚い妄想ばかり浮かんで精神衛生上よろしくない。


 柚は自分が涼と住んでいて一番長くいられることを武器に、殴り合いの防衛無視な作戦に出るしかないと思っている。その女とのデート後に結果や状況を聞き出せれば十分だ。


「冴達や空達とは文化祭を見て回ったりしたの?」


「いいや、実は面倒なことだがすごい偶然があってな――」


 まるで告解部屋で懺悔するカトリックのように涼は今日起きたことを全て話した。


「へー、あの子たちが出会ったんだ。冴がいる以上険悪なムードにならないでしょうけど、確かに神経すり減りそうね。ただでさえ涼は忙しくて手が出ないんだから」


「どんな会話をしようと勝手なんだけど、あの場でああいう内容は周りの視線が痛かった。柚の話が掘り下げられなかったのは幸いかな」


「私の設定甘々だからね。今も実家にいることになってるんでしょ?」


「ああ、SNSは控えているみたいだけど、穴が無いわけじゃないからな」


(そういう心配もあるけど、私としては向こうに浮波柚って敵がいると知られたくない方が大事だなあ。何してくるか分からないし、こっちは防ぐ術もないし)


「大丈夫大丈夫。もうバレそうな投稿はしないって。それよりあのお母さんも遊びに来たんだ」


「そうなんだよ。なんか一緒に見て回るようになったらしいけど、あることないこと言いふらしそうで胃が痛い」


「その気持ちすごいわかる。お母さんって生き物は娘の友達とおしゃべりするのが好きだから。話題になってるこっちはヒヤヒヤものよ。ご愁傷さま」


 柚はたこ焼きを食べ終わった合掌と、仏壇に向けるような合掌の意味合いを合わせて涼に向けて手を合わせる。


 涼は柚の分の紅茶を淹れ、苦笑いでクレープを出す。一応柚のために取っておいたものだが、今日の仕事を思い出すのであまり見たくない。


「.........まあいいさ。さすがに二日連続来るわけないし、明日はシフトも短いからゆったり楽しむよ。面倒事が一度に来たのはむしろありがたいかもしれないな」

今回でなんと投稿二百話!!

まさかここまで続くとは思いませんでした。感無量とはこのことを言うんですね。

イフストーリーがあるので本編はまだですけど。

次の300話目指して日々邁進して行きます!



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