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妖精の住処  作者: 速水零
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元王女さまの乱入

「あら? 空ちゃんと海ちゃん? 久しぶりね。私も気になるから混ぜてもらってもいいかしら?」


 鈴が鳴ったような綺麗で歳を感じさせない若々しい美声が女子高生集団に混ざる。


 そこにいたのは、一端のモデルも裸足で逃げ出すほどの美貌と知性と品格を持った涼の母親、黒瀬椿だった。


 実年齢は40代半ば近いのだが、欠かさない肌のケアと均整のとれたプロポーションによって10歳は若く見える。


 とても一児の母とは思えない。


 紫苑女学院の授業参観で数々のお金持ちのマダム達を見てきた冴と白だが、一目見ただけで格が違うとわかった。


 下手したらOGのアナウンサー達でも勝てないのではないか。冴と白は同性でありながら一瞬見惚れてしまった。


「あ、涼さんのお母さん! お久しぶりです」


「ほんと8年ぶりくらいですね。元気そうでよかったです」


 こんな美人の母親を忘れるわけもなく、空と海はすぐに椿のことを思い出した。


 声だけではわからなかったが、見れば確実にわかる。


 双子は涼の両親が離婚したのを知り、涼が変な思考に走っていくのを見て、一時椿や司のことを恨んでいた。


 しかし、司の性分を涼の変わり様を通して実感した双子は椿に同情し出す。空達の両親も同意見だ。


「ええ、ほんと久しぶりね。二人とも可愛くなっておばさんは嬉しいわ。いつも光くんと涼が遊んでいる時にくっついていたあの頃のことは今でも鮮明に覚えてる。涼が帰ろうとした時に二人とも涼の服の袖を握ったりして、あぁ、あの子達がねぇ」


「む、昔のことですよ!」


「そんなこと忘れてください!」


「はいはい、わかりました。それで、この二人は空ちゃんと海ちゃんの友達? 涼のことを話していたようだけど……」


 椿が家を出たのは涼が小学三年生の頃。アルバイトで知り合った冴と白とは面識がない。


「えっと、私、涼さんのアルバイトの後輩で、佐伯冴と申します。空と海とは今日知り合いました」


「私は冴の大親友の福良白です! 涼さんのお母さんってほんとですか? 歳の離れたお姉ちゃんと言われた方が納得できます!」


 白は相変わらず敬語は使えても、前へ前へのアグレッシブなコミュニケーションを取るようだ。涼の友達なら初見で馴れ馴れしい態度を取られても全く気分を害さない。


 海千山千のモデルや企業のお偉いさんを相手にしている椿には白がおべっかではなく、本気で褒めていることくらい普通にわかる。


「あら、それはありがとね。でも、私は正真正銘涼の実の母よ。離婚して家を出てから涼のお母さんらしいことなんて何もしてやれてないんだけどね。……ふうん。冴ちゃんね。あなた、とても可愛くて大和撫子って感じでステキ! 白ちゃんは天真爛漫さとちょっと腹黒いところが見えるのがまたいいわね。涼の前じゃなきゃうちの事務所に勧誘したいくらい」


「うちの事務所ってことは、涼さんのお母さんモデル事務所で働いているんですか?」


「モデル兼用ですか?」


「ううん。マネージャーとか統括して管理したりとかやってるけど、モデルはやってないわよ」


「涼さんの前でって、この前涼さんを勧誘したてのは涼さんのお母様が関係しているのでしょうか? 以前涼さんはお母様とずっと会えていないとおっしゃていましたが、その繋がりで復縁されたのでしょうか?」


 冴は涼に似て見た目が完成された美少女で紫苑生なので、モデルの勧誘を受けたことも一度や二度じゃない。照れた様子もなく椿のことを考えていた。


 思い出すのはファミレスの裏手で話してくれたモデルの勧誘を断る苦悩。


 涼ならどの事務所も喉から手が出るくらい欲しいと思うに違いないと思う冴にとって、実の母が獲得しようとすることの方が自然に感じる。


「あら、冴ちゃんって見た目通り頭もすごく回るのね。全くのその通りよ。まあ、涼を勧誘しに行ったらキッパリ断られちゃって。だからあんまり涼の友達に声をかけるのは忍びないの。あと、涼さんのお母さんじゃ長いから椿さんって呼んでくれる? あ、私はちゃんと自己紹介してなかったわね。これ、名刺」


 椿は手慣れた動作で皮の名刺入れから名刺を4枚取り出し、冴達に配る。


 高校生で名刺をもらった経験がほとんどない4人は、珍しいものを見るようにジッと名刺を観察する。


(黒瀬椿。涼さんのお母さんでも離婚しているのだから旧姓を名乗っているのは当然だね。なんか離婚して今まで音沙汰なしで涼さんがイケメンの完璧超人に成長したのを知った途端迫ってくるって姿勢は嫌いだけど、椿さんが悪い人には見えないなぁ。もし将来冴のお義母さんになったとしても嫁姑問題は起こらなそう。ま、そこまで付き合い続けるかどうかも怪しいし、そもそも付き合ってもいないから不毛だね)


 白は見た目の愛らしさの裏で名刺を凝視しながら椿のことを値踏みする。


 まだ白は一度しか話していないが、腹黒いところが見えると言われたのには驚いた。自分は腹黒いと思っていないが、そう見える場面があるのは自覚している。


「それで、ぶっちゃけて聞きたいんだけど、涼のことを狙っているのはどの子かな?」


 少し見て話をするだけで涼の想い人候補がこの中に何人かいるのはハッキリとわかる。


 気になる話が色々と聞こえてやってきた椿だが、内容よりもこの四人と涼との関係から攻める方が面白そうだと思った。


 司の頭脳に要領の良さを受け継いでいる涼だが、椿の遺伝子の影響も大きいのだと四人は悟らされた。

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