更なるエンカウント
あらすじ
空と海、冴と白が出会ってしまった
「ありがとう。……柚さん?」
「もしかして、その人も涼さんとアレだったりするの!?」
「それもわからないんだ。仲良いのは確かだけど……」
「最近投稿数減ったから情報不足。ほんと、どうなんだろうなぁ」
海は王子さまスマイルを浮かべる涼をジロリと見ながらクレープを頬張る。
最近忙しくなったということもあるが、PTSDを患ってから柚のSNS投稿はめっきり減っていた。
錯覚を利用した投稿が危険だと悟り始めたという理由もある。研究してわかるものなのかわからないが、自重した方が良いと判断し、最近は呟きくらいしかしていない。
「柚さんってどんな人なの?」
冴は「この前よりも美味しいかも」と言いたくなったが、木下塾のアルバイトで涼の家に毎週通うことになっているとは言い難いので感想は言わないことにした。
それよりも柚という新たなライバルに焦点を当てる方が重要だ。
涼の売っているクレープを食べに来た白も今は親友の想い人の恋愛事情の方が興味をそそられる。涼には悪いがこっちの方がずっとおいしい。
「柚さんは……あ、これこれ、この人」
空は柚のSNSアカウントをスマホに表示して冴と白に見せる。
「あ、この人も私と同い年なんだぁ。案外涼さんって年下好き?」
「それはわかんないよ。同じだけ年上や同い年の友達がいるかもよ。あの涼さんだし」
「それはないと思うけど、言い切れないね」
「少なくとも中学校卒業まで特別仲良くしている女の子友達なんて他にいなかったんじゃない? あー、他に付き合ってたり、告白していた相手はいたけど、深く仲良くなっているとは思えないなぁ」
昔から完璧超人だった涼は葵以外とも付き合っていた相手はいる。告白された回数など両手の指の数でも足りないくらいだが、時間を開けてみると涼と仲良しでい続けた相手はいない。
双子たちはあの葵であっても復縁までいくことはないだろうとカラオケで出会う前までは考えていたくらいだ。
「涼さんって両親が離婚されてから少しずつ変になってったところあるもんね。学校じゃ出来の良すぎる問題児ってイメージが浸透してたし。高校入ってからはだいぶまともになってきたけど、でなきゃあんな兄貴と友達を続けるわけないか」
当然、碧家の面々は涼がおかしくなった原因を知っている。表面化してきたのは小学校五年生頃からだが、間違いなく原因はソレだと断定していた。
「葵さんもそんなこと言ってました。両親の離婚が原因だったんですね」
「そうなんだ。両親の離婚って辛いもんね。私の友達にもそんな子いたよ。……それで、この柚さんって結構可愛いけど、涼さんとどんな繋がり?」
「それがね、なんだか信じられないような出会いなんだけど――」
空と海は涼から聞いた涼と柚の出逢いの設定を冴たちに話す。
半年近く前に聞いたことなので若干話が脚色されていた。思い出が美化されていくように、だいぶ恋愛小説に寄った盛られ方をしていた。
涼と柚はガジェットオタク仲間でよく話す仲になったという終わらせ方をしたのだが、双子にはそれが始まりだったみたいな話し方をしている。
恋愛に飢えている涼のクラスメイトたちは「お冷のおかわりはどうですか?」とサービス業に励んでいるようでこっそり聞き耳を立てていた。
美少女四人組に突撃する勇気がないからそれくらいしかできないという、聞くも涙話すも涙な切なくて悲しい事情もあるが。
「なんかドラマ化してもおかしくない話だね」
「でも涼さん主演だと思うとノンフィクションに感じるのは私だけ?」
「「私もそう思う!」」
もちろんフィクションである。
涼の中学生の頃までの背景を思うと感動的な恋愛小説が書けそうだ。白は勝手に柚にはどんなバックボーンがあるのだろうかと邪推する。
「あとね、この前私が海と友達とカラオケに行った時にばったり涼さんと葵さんに会ったんだけど、その時涼さん柚さんへの礼の品を買いに行ってたんだって!」
「そうそう、絶対今も何かあるんだって! 葵さんとの仲も怪しいけど!」
「えーっと、一気に情報来たから整理させて、私あんま頭良くないの」
「さっき空と海が言ってたあの時ってそのカラオケのことなのかな? つまり、涼さんと葵さんはカラオケデートをしていた。でもそれはデートではなく、その柚さんへ贈るプレゼントが何かを買いに行くために涼さんが葵さんに協力を仰いだだけのこと。そんな感じ?」
「さっすが冴!紫苑トップクラスに頭良いだけある!」
「まぁ期末テストの打ち上げも兼ねていたらしいけどね」
「だいたい正解。まぁ私たちはデートだと思っているけど! てかさ、紫苑って紫苑女学院のこと!?」
空と海はこの辺りに住む女の子達の例に漏れず、紫苑女学院に憧れを抱いている。
涼からすれば二人とも必死に勉強すれば入らなくはなかったと思っているが、空と海は紫苑女学院の1つ2つランクが下の公立高校に通っている。
「トップクラスってのは言い過ぎだよ。でも、うん。私と白は紫苑生なんだ。自己紹介する時に言えばよかったね。二人は?」
「あー、なんか紫苑生に言うのは恥ずかしいね」
「うん、そうだね。……私たちは名月高校に通ってるんだ」
「うちからそう離れてないね。ご近所さんじゃん!大丈夫大丈夫、私多分今は名月高校入らないくらいバカになってるから!」
「その言い方は失礼だよ白。まあ、高校がどうとか気にしないで仲良くしよ」
「あぁ、冴ってなんて良い子なの!」
「うんうん、食べる所作からもでてるけど、まさに大和撫子って感じ! 嫉妬するのもおこがましいほどモテそう」
「私もそう思う。でもねぇ、こんな冴ちゃん、実は今まで彼氏いたことないんだよ!」
話の筋が大幅にズレていっている。
これが姦しい女の子達の会話なのかと、密かに涼は安堵するが、話題にされた冴は居心地が悪く、柚の話に戻そうと話題転換を試みた。
「ああ、ごめんごめん、そうだったね。冴の自慢話をしてたら日が暮れちゃうもん。それで、柚さんのプレゼント選びをしに行ってたってどう言うこと? それってドラマとか恋愛小説の中じゃ付き合ってる相手への何ヶ月記念とかを贈る話じゃない? 葵さんと出掛けたってのが微妙すぎるけど、幼なじみの強敵元カノが今カノのプレゼント選びをするって展開は好きすぎ、サイコー!!」
「声大きすぎ。でも、私もどうなるか気になる!」
「あら? 空ちゃんと海ちゃん? 久しぶりね。私も気になるから混ぜてもらってもいいかしら?」
鈴が鳴ったような綺麗で歳を感じさせない若々しい美声が女子高生集団に混ざる。
白のクラス中に響く声を聞いて涼の母親、黒瀬椿がクレープを片手に突如現れた。
確かにその設定で恋愛小説を書くのもアリだと思い始めました。
次のifストーリーで書くには長すぎるのでやめておきますが。
次回
元女王さまの乱入