年下の衝突
「「えっ……今日は?……涼さん?……だれ?」」
流石双子また綺麗にハモった、とは思えなかった。
待っている間退屈だから涼の店員姿をじっくり見ていたら、気になる会話が聞こえてきた。
中学校までの涼の女友達は大体知っている双子にとって、こんなに可愛くてお淑やかな美少女(もちろん冴の方)が涼の知り合いだったなんて目からウロコだ。
「…涼さん?」
「もしかして、この前にいた子たち涼さんのお知り合いですか?」
双子の呟きは冴たちにも聞こえたらしく、二人はバッと振り返って空と海を見る。
冴たちも空と海が涼の知己だと悟った。
「もしかしてもなにも」
「私たち涼さんの後輩です!」
見知らぬ涼の女友達が現れただけで空と海は喧嘩腰に構える。
自分たちは葵の次に涼と仲が良いと自負している。誰の許可を得て涼さんと仲良くしているんだ?といった類の感情が湧いたのだろう。
「あー、お互いの紹介をしてもいいんだけどさ、無茶苦茶周りから注目されているし、店が回らなくなるから先に注文してもらっていい?」
柚のことを知られた時も空と海はかなり迫ってきた。このまま冴たちに立ち塞がれるのは他の客の迷惑になると考えた涼は、消防車の放水並みに大きな水を差した。
「あ、はい。そうですね。私はたっぷりイチゴのチョコソースお願いします」
「んーとぉ、私はモモクリームで!」
「了解、会計七百円ね。……できるだけ静かに話をしてくること」
「「「「はーい」」」」
空と海も少し落ち着いたようだ。涼だって学校以外で人と知り合う機会はあるのだから、見知らぬ可愛い女の子の友達がいても不思議ではないと思い直す。
だからといって涼とどんな関係か問い詰めることに変わりはないが。
普通の友達なら問題ない。
しかし、先ほど白は「今日は私とデート」と言った。
当然聞き流すことなどできない。
冴と白はすぐに会計を済ませて空と海のもとへ行く。
「私、涼さんのアルバイトの後輩の佐伯冴です」
「私は冴の大親友の福良白。涼さんとはこの前十五夜祭で会ったばかりだよー」
「私たちは碧空と、碧海で見た通りの双子。こっちが空で」
「こっちが海。小中涼さんと同じ学校で一個下。私たちも後輩だね。昔からよく涼さんと遊んでた仲だよ」
海はさりげなく涼と仲良しだとマウントを取りに行く。
双子は白がフレンドリーに話すので敬語はやめた。
「じゃあ私たち同い年なんですね」
「いいよ、敬語なんて」
「そうそう、同い年なんだし」
「うん、わかった。ねえねえ、涼さんと同じ学校に通ってたってことは葵さん知ってる?」
仲良くなるには共通の話題を引っ張り出すのが手っ取り早い。
冴は双子たちと違い空たちにわだかまりを抱いていない。むしろ涼のことを色々聞きたいと打算的だが仲良くなりたいと思っている。
「知ってるよ。葵さんとも昔よく遊んだし」
「涼さんと同じバイト先ってことは葵さんと同じバイト先ってことになるもんね。佐伯さんが知ってて当然か」
「冴でいいよ。…そっかぁ、じゃあもしかして葵さんと涼さんがアレだったってことも?」
「アレってもしかして!?」
こういう時だけ妙に察しの良い白はアレと聞いただけで、冴からよく話を聞く葵が涼と付き合っていたことを理解した。
「うん、知ってるよ」
「確か涼さんが中一の頃だね。最近は復縁したのってくらい仲良いみたいだけど」
海は以前涼と葵が二人でカラオケでデートしていたときのことを思い出した。
実はあの時涼と葵が同じバイト先だったことを知り、たまに二人がどんな風に仕事をしているか遊びに行っている。
「そうなんだよ。二人は何か知らない?」
冴は双子たちが涼とどこまでの関係なのか気になっているが、様子を見るにただの幼なじみだと考え、最近の悩みのタネである葵と涼の関係について話を聞くことにした。
白も冴とこの前あんな話をしたばかりなので興味がある。そっと聞きに徹し、四人分のクレープを受け取った。
「ありがと。……んー、わかんない。あの時はなんかはぐらかされちゃったからなぁ」
「ありがとね。……そうそう、柚さんの話も出てきたし」
空と海も冴の話を聞いていて、まだ涼と冴が付き合っているわけではないのだと理解する。
デートというのが気になって仕方ないところだが、今は過去に「打ち上げ」という名のデートに行っていた二人の関係が気になってきた。
あの時は双子たちと一緒に来た相手が涼のことを気になるって言っていた子なので物分かりよく撤退したのだが、はぐらかされるほどの何かがあるのではと今更ながらに勘ぐってしまう。
「ありがとう。……柚さん?」
「もしかして、その人も涼さんとアレだったりするの!?」
冴と白は葵以外にも涼と疑惑の相手がいることを知り前のめりになった。予想通りというか、想定外とも言えるのか、涼を巡るライバルは多いらしい。
一方当の本人、王子さまスタイルで笑顔を振り撒いている涼は、そっと聞き耳を立てながら余計話が拗れてきたと心の中で項垂れていた。
あとがき書くのが怠くなったわけじゃないんですけど、たまにはいいかなって思いました。
あの時のカラオケの歌詞書いたの僕だってのを思い出して悶絶してます苦笑。
次回
更なるエンカウント