表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
妖精の住処  作者: 速水零
187/312

聖母な一面

あらすじ

文化祭デート終了

「涼さんとの文化祭デート、楽しかった?」


 文化祭が終わり、冴と白は他のクラスメイトたちと一緒に片付けをしていた。


 用意したケーキは全種類完売。余ったらみんなで食べようと思っていたが、仕事終わりのデザートはないらしい。


 2人は溜まったゴミを捨てに出ている。


「で、デートって……そんなんじゃないって!」


「へぇ、仲良く恋人繋ぎで歩き回って、あーんし合う行為がデートじゃないんだー」


「なっ!! み、見てたの!?」


「んや、見てないけど、至るところから目撃情報が飛んで来たよ。……その反応を見るにどれも真実だったんだ」


 白は冴たちをつけて回るなんて野暮なことはしていないが、情報は多数送られてきた。


 冴と最も仲良いのは白だと誰もが思っており、白自身自分よりも冴に詳しいものはいないと自負している。


 求めることなく皆が白に「あのイケメンは一体誰!?冴とどういう関係なの!?」と聞いてきた。


「ねぇ冴」


 ガタンとゴミ捨て場のドアを閉じ、真正面から冴と向き合う。


 白は聖母を思わせるほど優しい声色で冴に話しかけた。


 いつもの笑いながら冴を揶揄う小悪魔的姿はどこにもなく、慈愛に満ちた表情を浮かべている。


 短い期間ではあるが、冴はずっと白と高校生活を送ってきた。休日に遊びに出掛けることも多く、冴も白のことなら誰よりも知っていると自負している。


 しかし、白にこんな一面があったなんて初めて知った。


「な、なに?」


 思わず噛んでしまった。


 今日涼に手を握られた時以上に心臓の鼓動が加速していく。このまま肋骨を突き破って飛び出してしまいそうだ。


 悪戯がバレて叱責を受ける子どものように、冴の心が乱れる。


「涼さんのこと、本当に好きなんだよね」


 白の目は至って真剣だ。いつものいじめっ子モードとは瞳の輝き方が違う。太陽のように燃え盛るのではなく、満点の星空のように爛々とした煌めきが冴を魅了した。


 今の白相手に虚言を吐くことはできない。


「う……うん。好き。……生まれて初めて、男の人を愛おしいと思った。ずっとそばにいて欲しい、ずっと私だけを見て欲しい、そう考えない日はないくらい私の心は涼さんで埋め尽くされてる」


 きっかけがなんだか思い出すことができないけれど、涼に惹かれたのは仲良くなるずっと前。


 小説に出てくる主人公のように完璧で完成された王子さま然としたその姿に、きっと一目惚れしたのだろう。


 ああ、思い出せないのではなく、初めから惚れるまでの過程がなかったに違いない。


 だが、涼と仲良くなった時、涼の完璧でない、冴からしたら欠点とも言える性格を知り、ますます涼を想うようになった。


 懺悔するように、冴はポロポロと本心を溢していく。


「ふぅん……やっぱりそうなんだ。ちょっと重症っぽいけど、安心した。あの人なら冴を任せられるし、あの人になら冴を盗られても納得がいく」


「と、取られるって、私は白のものじゃないよ」


 自分の素直な心を吐露したことで気持ちが楽になった。ふふっと冴は笑う。


「私が独占していた可愛い可愛い冴の乙女心が奪われたんだよ。それはもう略奪……盗まれるなんて生温いことじゃない!」


「自分から真面目な雰囲気を出しておいて、ぶち壊さないでよ。まったくもう」


「ははっ、ごめんごめん。でも、私の気持ちは伝わったよね!」


「……微妙。白が同性愛者で私のことが好きなら合点がいくけど?」


「あー、なんでそうなるかなぁ。でも、冴なら結婚してもいい! むしろ結婚しよう!!」


 今の白の瞳はブラックホールのように光さえ飲み込んでしまう闇が広がっていた。


 新たな一面とは性格ではなく、白の芸達者な一面なのではないかと疑問を抱く。


「あーわかったわかった。悪ふざけはもうやめにしよ」


 いつまでもふざけている白に付き合うのは面倒だと思った冴は、踵を返して教室へと戻る。


「待ってよ冴。一緒に戻ろうってば!」


「じゃあふざけるの禁止」


「はぁい。……これはふざけて聞くわけじゃないけど、涼さんと付き合えそうなの?」


 1オクターブ白の声のトーンが落ちた。悪ふざけのパートなど存在しなかったかのように白の雰囲気は真剣で、暖かい。


 一瞬で自身の纏う空気を変えられるなんて、やっぱりただの芸達者なのではと思わずにはいられない。


「わからない。涼さんはすごく魅力的な人で、いろんな人に慕われているんだもん。彼女はいないって言ってたのは本当だと思うけど、だからって私が付き合えるかは別。やっぱり白と一緒でわかっているようでなにも相手のことをわからないんだなぁって自覚するよ」


「まあ、あの人は強敵を通り越してラスボスみたいな攻略難度しているもんねぇ。ちなみに、恋のライバルはいるの?」


「それはいるはずだけど、謎なの。葵さんが涼さんをどう想っているか今一番気になる」


 葵は昨日涼とデートをする時の店選びを手伝ってくれた。葵と涼の付き合いは冴の知る限り誰よりも長くて、涼の彼女だった時期もある。


 葵が涼を完全に男として見ていないのなら安心だが、ライバルとなった時、一番の強敵は大好きな先輩である葵だ。


 焼け木杭には火がつき易いという諺があるように、あっさり復縁してしまう可能性は十分ある。


 冴は先ほど知った白の聖母のような一面を信じ、新たに相談を持ちかけるのだった。

以前の予告通り文化祭は終わりましたね。

……反省はしておりません。『次回』が裏切られることはこれからもあるでしょう。

 

次回

新たな授業


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ