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妖精の住処  作者: 速水零
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恋愛感情

あらすじ

葵と行ったとこアタリ

 室内演奏楽部の喫茶店を堪能したのち、涼たちは昼ごはんを済ませようと校庭に並ぶ出店を見て回ることにした。


 紫苑生の羨ましさ8割妬ましさ2割混じった視線が涼と冴に無遠慮に向けられるが、お互い全く気にしていない。


 容姿が整っている2人は大なり小なり他人の視線に慣れている。


 時には冴の友達とすれ違い、揶揄われたり冷やかされたりすることもあった。しかし、皆一様に涼を冴の彼氏として見て「お似合いじゃん」「凄いイケメン捕まえたわね」「冴ってやることちゃんとやるのね」「私にも何か縁を下さい!」と二人の仲を応援してくれた。


「冴って顔が広いんだな」


「そうでもないですよ。うちの部活部員が少ないので多分他の人ほうが顔が広いと思いますよ?」


「僕は部活をやっていないし、そんなに友達が多いわけじゃないから、多分名前を知っているのなんてクラスメイト以外数人しかいないと思う。いや、こうして文化祭を歩き回っている時に隣を通り過ぎただけで会話をする相手なんて、両手が必要ないくらいだ」


「友達が少ないって今まで何回も聞きましたけど、本当に意外です。別にコミュニケーション能力が不足しているわけでも、嫌われるような性格をしているわけで――いえ、いじめっ子でした」


「それで納得されるのはちょっと心外だなぁ。……やっぱり女子校なだけあって看板がオシャレすぎる。タピオカとかうちの学校じゃ芋くさくてできないな」


 男子校の文化祭はオシャレよりもカッコ良さや派手さばかりが目立ち、なんだか東南アジアに遊びに来たのかと錯覚を起こしそうになる。


(タピオカは以前空と海と出掛けた時や柚にせがまれてデリバリーを頼んだ時に飲んだな……)


 一瞬あの双子たちと出掛けたことを思い出し、あの竹下通りを彷彿させる店の飾りに感心すると同時に、やはり椿に言われた恋愛への意識が頭から離れない。


「そんなことないと思いますけどね。昨日葵さんと遊んだ時にそのタピオカを飲んでみましたが、結構美味しかったですよ。今はお昼ごはんになるものを探しているので後にしましょう」


「カロリー的にはお昼ごはんと遜色ないけどな」


 有名な話だが、タピオカとは原材料のキャッサバが芋の一種なので、炭水化物の塊といえる。


 タピオカミルクティーのカロリーはラーメン一杯に匹敵するという話もよく耳にする。ネットニュースを漁っている中で涼もその事実を知った。


「それはタブーですよ涼さん。誰しもが涼さんみたいに現実と向き合って生きていけるわけじゃないんです。私以外の子にそれを言ったらビンタされても文句言えませんよ」


「急に重い話になったな。ビンタされるのは嫌だからタピオカの話題を振るのは避けるよ。じゃあお好み焼きにしようか」


「そうですね。涼さんは大阪と広島どっちが好きですか?」


「僅差で広島だな。お好み焼き自体普段食べないからこだわりがあるわけじゃないが、広島風の焼きそばや卵焼きがいい」  


「それなら一番近くのお好み焼きの出店に行きましょうか。どこにありますかね」


 冴はパンフレットを見て現在地から最も近いお好み焼きを扱う出店を探しているが、涼の目にはすでにお好み焼きの看板が目に入っている。


 お昼時、招待制とはいえたくさんの人が押し寄せる。特に食べ物が立ち並ぶ校庭はそこらの祭りの出店以上に混雑していた。


 あそこあそこと指差すよりも直接案内した方が早いと思った涼は、冴の手を握りお好み焼き店へと歩き出す。


「えっ、ちょっ……涼さん!」


 唐突に手を握られ引っ張られた冴は驚きの声を上げ、涼の顔を見上げる。


 しかし、抗議の声が上がることはなく、冴は顔を真っ赤にして俯き、ジッと涼に身を委ねた。


「結構混んでるからこうして案内する方が早いと思ってさ。……大丈夫か?」


 涼は悪びれもせず、謝罪の言葉もなしに冴に微笑みかけた。


 異性の手を握ることにさまざまなハードルがあるのは涼とて知っている。


 なぜ涼は断りもなく冴の手を握ったか。それは椿に言われた恋愛を意識しろという忠告に従った結果だ。


 柚と一緒に見た恋愛アニメでは初々しくも手を握るカップルの姿が描かれていた。涼と冴は付き合っているわけではないが、デートをしている。


 眠っている恋愛感情を奮わせるには丁度良い。


 それに、ちょっとした悪戯心と若干の興味があった。


 別に手を繋ぐことの何がおかしいんですか?と言わんばかりの涼の余裕っぷりに、冴は一人ドキドキしている自分を叱咤する。


(これはまた涼さんの悪ふざけ。いつまでもいじめられて続ける私ではありませんからね。涼さんがその気なら私だって考えがあります!)


「大丈夫です。はぐれるのはまずいですからね。……涼さんは何味を食べますか?」


 陸上部がやっているお好み焼きの出店(大阪)の列に並ぶと、冴は指を絡め、俗に言う恋人繋ぎへと変化させる。


 あくまで自然体で、繋いだ手から意識を切り離し、涼の顔色に集中する。


(なるほど、冴もそのつもりなんだな)


 冴と仲良くなり始めたころ、涼は冴から「初恋はまだ」という話を聞いた。


 ならば、この文化祭で涼とデートをする間に恋愛感情を学ぼうとしていると推理しても不思議はない。


 盛大に勘違いしているとも知らず、涼は少し強く握る。


「オーソドックスに豚玉にチーズを乗せてもらおうかな。冴はどうする?」


「私はエビにしようと思います」


「それも美味しそうだな、後で一口くれないか?」


「ええ、いいですよ。私も涼さんの食べてみたいので交換といきましょう」


 陸上部の方々が自慢の体力を駆使して活発にお好み焼きを作っているが、そこそこの行列になっていたので注文するまで少し時間がかかった。


「エビと豚玉にチーズをトッピングしてください」


 未だ二人の手は繋がれており、会計の陸上部員の視線が注がれる。走ることに全てをかけている身としては、恋愛は不要と周りに豪語しなければならない。


 しかし乙女としては羨ましい。陸上部員に顔を見つめられた冴は、涼がこっちを見ていないことを確認し、再び頬を真っ赤にして俯く。


「お、お会計七百円です」


 流石に財布からお金を出す時には両手が必要となるので、少々の名残惜しさを覚えつつ、涼は手を離して冴の分まで一緒に支払った。


「あ、悪いですよ、自分の分は自分で払います」


「いいよいいよ。ここは先輩に奢られな」


 涼の歳上を意識させる大人っぽい笑みを見せられ、冴は黙りこくってしまう。


 顔立ちの良さとスタイルの美しさに加え、ファッション雑誌に載ったほどのコーデを見に纏った姿はまさしく王子さま。


 今まで見てきた涼の中でどんな時よりもカッコよく、どんな時よりも魅惑的だ。


(子どもっぽいって涼さんには言ったけど……訂正したい。こんなの、反則ですよ……)


 冴はお好み焼きが出来上がるのを待ちながら涼の手を見つめていた。

僕は高校の文化祭に良い思い出はほとんどありませんが、他校の文化祭を遊びに行った時は周りがキラキラして見えました。

向こうが共学だからでしょうか?


次回

あーん

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