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妖精の住処  作者: 速水零
182/312

下見の成果

あらすじ

文化祭デートがようやくスタート

「涼さんは先ほどまでどこ見て回ったのですか?」


「登山部、自転車部、将棋部、クレープの出店かな。ああ、後パソコン部のゲームを見たりもしたな。プログラミングは詳しくないからわからないが、中々良い出来だと思う」


 所詮高校生の作るゲームなんて子どものおもちゃみたいなものだろう、とまでは思っていないが素人、それも高校生の作るものなどクオリティが低いものだと思っていた。


 簡単なアクションゲームで改良すべきところはたくさんあったが、頭の良い名門学院なだけあって、かなり楽しめる仕様になっていた。作り手たちのの努力量に感銘を受けた涼はそっと五百円玉をパソコン部員に手渡し、ゲームソフトを1枚購入していた。


「涼さんらしいチョイスですね。将棋部には勝てましたか? うちの将棋部結構強いらしいですよ。女子の将棋部ってあまりないみたいなので、ある意味成績が良いのは当然ですけど」


「とても強かったな。かなりやられたよ。結構できる方だと思っていたんだが、やはり部活でキチンと積んでいる者には勝てないな。むしろ色々教わっちゃったよ」


「へぇ、涼さんを負かすとは侮れませんね」


「なんで冴が戦う感じになっているんだ。まあ、というわけでそれ以外のところだったらどこでもいいぞ」


 ノリが良くどこかスポ根漫画やバトルアニメみたいな様子で口ずさむ冴に突っ込み、案内を丸投げすることにした。


「なら、室内演奏楽部はどうでしょう?」


「室内楽っていうとジャズが出てくるが、イメージ合ってる?」


「似た感じですね。吹奏楽部を小規模にしてやっていると思えば正解かと。私もよくわからないんですけどね。長いこと文化祭では喫茶店をやっているので内装が凝っていてフロアの練度も残念ながら桁違いです。紅茶も美味しくて、主張しすぎない流麗な演奏が程よいBGMとなり、ゆったりとした時間が過ごせますよ」


「まるでどこかの宣伝みたいだな。興味が湧いてきた。僕も多少バイオリンは嗜んでいるからな。お嬢様学校の部活がどのレベルか確かめたい」


「涼さんこそ戦いにうって出そうな雰囲気ですね。……それでは行きましょうか」


 そういうことで、涼たちはまず初めに室内演奏楽部の喫茶店に行くことにした。


 演奏時間が近づいているだけあって喫茶店かなり混んでいる。なんとか最後の席に座り、涼たちはコーヒーを頼んだ。


「本当に高校の文化祭にしては豪華なんだな。それに結構いい豆を使っている。どこで買ったのか知りたいくらいだ」


「多分毎年文化祭でコーヒーや紅茶を出しているから良いルートを持っているんじゃないですか? 私たちもケーキは店にお願いしましたし」


「なるほどな。クレープ屋は自分たちで作るからそういうわけにはいかないけど、洋菓子店とかに頼むのは面白いことになりそうだ。だけど、値段が高騰して許されるのは由緒正しい学校の文化祭くらいだろ。うちの学校は名門って言われている進学校の中では新興だから、そんな暴挙はできないな」


「そんなことないと思いますが。……あ、そういえばいずれ聞きたいと思っていたんですけど、涼さんってモデルやるんですか?」


「あー、そういえばそんな事件も前にあったな」


 様々な人に「起業したのか!?」「え、お前モデルやるの!?」「あのネット記事読んだよ!」「塾長やってるんだってな」なんて言われてきたが、ここしばらくそう問われた覚えはない。


 相変わらずフォロワーは増え続け、万単位に突入していた。塾の開設からネット記事に特集を組まれ、モデルの勧誘騒動まで1ヶ月以上の怒涛の日々を過ごしていたが、それももう何週間も前のこと。


 涼にとって目下の悩みとは文化祭での仕事と木下塾の運営であり、それらの話題は過去の出来事だと認識している。


「モデルはやらないよ。SNSで結構やってくれって声は今でも上がるけど、僕にその気はない」


「涼さんならモデルになればすぐに有名人になりそうですけど?」


「ふっ、まだ冴は僕のことを分かりきっていないようだな。僕は有名人になりたいなんて思ったことはないし、モデルという仕事に興味がない。やりたいことしかやらないのを信条にしている僕にとって、モデルになるという選択肢ははなから存在しないんだよ」


「でもその服、この前有名な雑誌に載っていたやつのままですよ? 興味があるんじゃないんですか?」


「そうなのか? ……あー、撮影に使っていらなくなったやつを送ってきてたわけだし、そんな偶然もあるか。この服装が雑誌で読んだ通りなのは、僕の母さんがモデル事務所で働いていて、用済みになった服を送ってきてくれるからなんだ。僕はファッション関連にも興味ないよ」


「あぁ、なるほどなるほどなるほど。言われてみれば今の涼さんはそういう人ですね。すごいスペックを得ていても性格はいじめっ子で子どもっぽい方でした。まさかお母さんの選んだ服を着ているとはまさしく……いえ、なんでもありません。涼さんとは半年以上の付き合いなので色々知っているつもりでしたが、私もまだまだですね」


 てへっという効果音が聞こえそうな笑みを浮かべ、冴は涼から視線を外す。


 仲良くなり、素の部分をオープンにしたのは最近のこと。冴が涼の本質を理解しきれていなくとも仕方ない。


 しばし会話が途切れる。


 涼はコーヒーをそっと口に含み、目の前に座る可愛い後輩のことを考えた。


(……とはいえ、僕もまだまだ冴のことを全部知っているわけじゃないもんな。…………そういえば、相手を好きになるかもしれないという意識をもって心理的壁を取って周りの子と接しろ、みたいなことを母さんが言っていたな。

 冴が恋人になるかもしれない……か。そう考えると五割増で可愛く見える。喫茶店の雰囲気も絶妙過ぎて催眠術をかけられている気分だ)


 バイオリンとトランペットのセッションが部屋中を包み込み、そっと鼓膜を刺激する。


 軽快なリズムにつられて心臓が激しく踊り出しそうだ。


 デートとはどういうものか初めてわかった気がする。冴が魅力的過ぎて涼が初恋を体験しているわけではない。


(性格が子どもっぽい。全くその通りだよ。ピーマンを避けるような、お菓子をもらえないと地面に這いつくばって駄々を捏ねるような子どもと同じで、僕は興味のあるものしか反応せず、数少ない友達と遊ぶことが大好きで、どこか変なところで意地を張りたがるんだ)


 ただ文化祭に遊びに来ただけなのに、涼は女子高生と対面しながら自身の本質を見直していた。


 だが、こんな思考をするのも高校に入って真と友達になり、柚を拾って人間性を無意識に刷り込まれたからだ。


 人を好きになる。恋愛を司る感情が芽生える。涼はようやく思春期に迎えたと言っていいだろう。


 後輩だろうが、先輩だろうが、可愛い子と二人きりでコーヒーを飲んでいれば誰だって意識してしまう。


「涼さんはバイオリンも嗜んでいると言ってましたが、室内演奏楽部の演奏はどうですか? 将棋部では負けてしまったそうですけど」


「そうやって煽るような言い方をする冴こそ子どもっぽいよ。バイオリンはピアノほどじゃないが昔からちゃんとレッスンを受けていたんだ。本気で吹奏楽をやっている人たちならともかく、彼女らには負けないよ」


「こんな綺麗な音を聴きながらそんな言葉を吐くだなんて、涼さんこそ負けず嫌いな子どもです。……似たもの同士ですね、私たち」


「そうかもな。……でも、僕の方が大人だからな」


「ふふっ、どっちが大人でしょうね」


 冴は静かに笑い、コーヒーを傾ける。


 2人はまだこの時間を終わらせたくないとばかりに追加のコーヒーを頼み、ゆったりと演奏を堪能した。

これまでの半年間、季節が現実と半年ズレる感じで進んでいましたね。今も変わらず向こうの世界は晩秋へと向かっています。

こっちの世界は夏が来たのかと思うくらい暑くなってきました。


次回

恋愛感情

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