お嬢様には小悪魔が憑いている
あらすじ
涼は文化祭を満喫していた
「いらっしゃいま……せ」
「あ、冴。宣言通り遊びに来たよ」
隠れて入ることも考えたが、ここは堂々と入って驚かせやろうという悪戯心が溢れてきた。
偶然入り口で案内してくれる店員が冴だったので、涼は手をヒラヒラ振り、周りにも聞こえるくらいの声量で声をかける。
「あれれぇ、冴の言ってた例の王子さまなのかなぁ?」
「な、何言ってんのよ!? べ、別にそんな風に紹介してないでしょ!! ただのバイト先の先輩だってば!」
「うんうん、わかってるわかってるって。……初めまして、私福良白って言います! 早速でアレですけど、お兄さん冴の彼氏ですか?」
「ええ!! あの冴に彼氏!?」「どこどこ!?」「うっわーすっっごいかっこ良い! お似合いの良いカップルじゃん」「こんな見掛け倒しのお嬢様学校に咲く一輪の花でお馴染みの冴に虫が集ってるですって!?」
冴のクラスはまだ昼ごはんには遠いからか、混雑しているわけではない。
暇を持て余したホールやキッチンの子たちがわらわらと涼の周りを取り囲む。
ちゃっかり白が対面に座り相席してきた。この子は働かなくていいのか?と涼は疑問を抱いたが、よく見ると店員皆が付けているか三角巾を付けていない。休憩中なのだろう。
妙に馴れ馴れしい福良白のようなタイプ相手には苦手意識を持ちやすい涼だが、案外性格は似ているのかもしれないと親近感を抱いていた。
(柚と僕を混ぜたような奴だな。……それにしてもやはり冴って僕と違ってクラスの人気者だったんだな。みんなに慕われて、頼られて、たまにちょっと揶揄われて……こんな冴初めてみるな)
涼からすれば冴は可愛いバイトの後輩だ。高校1年生だからバイト仲間でも一番歳下で同級生に囲まれている姿を見たことがなかった。
冴とその周りを見ているとなんだか感慨深いものがあるが、あまり浸っている余裕はない。
他の客も無遠慮に涼をジロジロ見てくる。
「別に彼氏ってわけじゃないよ……今は」
涼は白の冴えを揶揄う姿を見て負けてられない、という対抗心が生まれた。
いつもの3倍爽やかに笑顔を振りまくと辺り一面から黄色い歓声が湧いて出てくる。
他の女性客も涼の魅力の虜となり、白も一瞬クラッときた。
「い、今はってことはもしかして!」
「……さぁ、どうかな?」
「りょ、涼さんまで揶揄わないでくださいよ。み、みんな本気にします!」
「へぇ、そんなこと言って冴は結構この状況もアリって思ってるんじゃないの?」
「うぅ……いじめっ子が2人もいるよぉ。…………こうなりそうだったから白と涼さんを合わせたくなかったのに」
冴は逃げるようにキッチンルーム――裏方用の天幕の中はポットや茶葉などがあるくらいでコンロなどはない――に入っていき、涼が注文しそうなストレートティーを勝手に用意する。
いっそのことこのカフェで一番高いケーキも持っていってやる、と小さな復讐心を冴が燃やしている一方、涼とその付近はまだ混沌が広がっていた。
「涼さん……でいいんですよね。冴のことどう思っているんですか?」
白が皆の意見を代弁して尋ねる。周りはうんうんと首を縦に振っていた。ポケットに隠れている柚も同じように気になって耳を傾けている。
「バイトの後輩だな。でも、紫苑女学院に入ったことなかったからとても面白いよ。……白は冴のこと大好きなんだな。冴をからかっているようで番犬のように僕のことを調査しているんだろう?」
なんてことないように涼は答え、流れを変えるべく攻勢へと移った。
歳下でこれだけ馴れ馴れしいのだからいきなり呼び捨てても大丈夫だろうと、涼は白へ一歩踏み込む。
「な、なんのことですか?! べ、別に私は冴が彼氏っぽいイケメンを連れてきたから話しかけているだけですよ! 冴がもうツバをつけてなければ取っちゃおううと思っているくらいです!」
「ふぅん、そうなのか。たしかにさり気無く相席までしちゃって……うっかりその気になりそうだ。でも、僕のことを見ているようで冴との相性を調べているように見える。現に初めから白は僕と冴のことを聞くばかりで僕個人への質問が一切ないし、さっきまでちょくちょく冴と僕に目線が行き来してたしね」
「涼さん探偵みたいですね。私と違って本物のいじめっ子です。……それに、すごく頭良いですね。うん、やっぱり涼さんなら私の冴を任せられそうです」
涼の優しく追い詰めるような糾弾法に白は陥落しそうだった。普段攻め時の勘の良さとノリと勢いで小悪魔のような憎めない、いじめっ子ポジションを保てていると自覚する。
白自身知らないことだったが、歳上のイケメンに迫られるとかなり脆かった。自分でも呆れるほど化けの皮が剥がれ落ちている。
「冴からいじめっ子と言われる割には攻められるのが苦手なんだな。根が良い子で安心したよ。他の子たちも冴と仲良くしてくれているみたいで嬉しい」
涼と白が交わした言葉は少ない。
しかし、お互いが相手を揶揄うのが大好きで、猫のように興味を引くものにしか飛びつかない似た者同士、言葉にせずとも理解しあえるところがある。
冴がストレートティーと高いケーキを持ってくるまでの間、涼と白は互いに持っている冴の普段見せない一面について語っているのだった。
自分自身この出来には満足してませんが、概ね書きたいことはなぞってあります。
小悪魔ははじめ冴につける予定でしたが、僕の中で完全に白に掻っ攫われましたね。というより冴にそういうギャップを出させる気が起きず……
次回
文化祭デート