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妖精の住処  作者: 速水零
18/312

呼び方の変化

短めです。


あらすじ

柚の夢が終わる

 長年の習慣とは自由を束縛するもので、涼は二時間も眠れずに目を覚ました。


 気分は最悪。頭は重く、身体は防寒着が欲しくなるほどに冷たい。関節はロウでも流したのかのように固まっていた。


 ソファで寝た事も大きいが、明らかに昨日の疲れが出てきている。


 嫌な夢を見たために精神にも疲れが残っている。


「でも、あんな夢を見たからにはそんな弱音は言えないな」


 本当に怖かった。


 アリの行進ももちろんだが、何よりあの世界は簡単に涼の命を刈り取ることができた。


 技術に甘んじている人間にはあの世界を生き抜く力はない。


「今後の方針だけど、どうするかな。とりあえず浮波の精神状態によるか」


 帰る支度をしていると、柚は目を覚ました。


 ボサボサの髪を整える事なく毛布製のベッドを降りる。


「おはよう、涼」


「ああ、おはよう、浮波。……涼って呼んだか? 僕のこと」


「え……!? あっ…。い、いや……勘違いしないで!?」


「何をだよ。とりあえず静かにしてくれ」


「そ、そうね。一旦落ち着くわね」


 異常事態があそこまで連発すれば人は慣れるのだろう。


 柚が深呼吸している間、涼は疑問の波に襲われていた。


(どうして浮波はここまで冷静にしていられるんだ? あんなことが起きてからまだそう時間は経っていない、いや浮波の時間感覚じゃ起きた直後に等しいはず。普通なら泣きわめくだろう。どうしてだ?)


 考えても答えは出ない。涼は柚が落ち着いたタイミングを見計らって聞いてみる。


「それは多分、私が夢を見たからだと思うわ」


「夢?」


「私と涼……木下の立場が反対になった夢」


「……僕もちょうど見た。アリに襲われているところを浮波が助けてくれたんだよな。あと、涼って呼び方で慣れたならそのままで構わないぞ」


「いや、私の夢だと涼は寝ていたわ。私が持ち上げた時に起こしちゃったの。でも、確かにアリが群がっている感じはあったわね。襲われているなんて全然思わなかったけど。それと、私のことは柚でいいわよ。そっちの方が涼も呼びやすいでしょ」


「…………」


「ね、ねぇ涼? き、聞いてる? 私のことは柚って呼んでいいのよ」


(昨日の僕と立場が入れ替わったような状態か。さすがに二人が立場が違うだけで全く同じ状況の夢を見たということはないようだな。僕はほとんど浮波と関わらなかったし)

 

 涼はただ状況を分析しようと沈黙しているだけだったのだが、柚は年相応の勘違いを起こした。


(あ、あれ? 涼って実はそこまで私のことを好きじゃないの? す、好きってそういう意味じゃなくて…な、名前で呼ぶのがそんなに抵抗あるのかしらってことよ。なんかちょっと悲しい)


「なあ、柚」


「な、何!」

 

 急に呼びかけられた(ゆずの中では)ため少しオーバーに返答してしまった。


「いや、試しに呼んでみただけだ。僕は慣れてないからな。柚」


「そう何回も呼ばないでくれる? 結構恥ずかしいんだけど」


「ふーん……柚、ゆーず」


「からかわないで、涼、涼、涼! りょー!!!」


 ひとしきり言い合った後、涼が先に折れ、本題に戻した。


「それで、どこまで夢を見たんだ? 会っただけじゃ僕のことを名前で呼ぶところまではいかないだろう。慣れるまでにも相当時間がかかったはずだ。それと、最初から夢だってわかっていたのか? 僕の夢だと柚は全く僕のことを知らなかったが」


「私が気絶したところまで全部見たわ。夢だと涼は気絶しなかったし、叫ばなかったけど。今思い出すと腹立たしいわね。それと、私は最初から夢ってわかっていなかったわ。夢の中の涼も全く記憶がないようだったし」


「僕に対して苛立たせるのは構わないけど、その僕は柚が創り上げたものであって本当の僕じゃないからな。自分で僕のことを高評価したのが悪い」


「じゃあ、自分が同じ状況になって、私と同じ道を進むと思う?」


「思うよ。僕もアリに追いかけられて叫んじゃったからな。あ、でも柚と同じ状況だと叫び声はあげないな。恐いのは巨大化した生物達だし」


 隠していれば良いものだが、涼は気にせず打ち明けた。


 本当の自分のことを知って欲しいのか、柚を慰めるためかはわからない。


「アリに……ね。全く信じられないわ。アリに?」


「アリの巣に頭突っ込まれたいか?」


「怒らないでよ。……でも、意外だわ」


「柚はそんなことないのか?」


「んー。確かに恐いけど大分慣れたわ」


(そういうものには慣れた。でも、それ以外はまだダメ。みんなが私を知らない。忘れているなんて耐えられない。夢の中で小さい涼は私に

「これは、あくまで仮説だけどな。僕という存在はこの世界に存在しないのだと思う。それ以外にここが僕の家でない理由が見えない。ほとんど僕の記憶通りの家だ、何か細工がある程度じゃなく、根本的に僕がいない世界なんだよ。多分」

って言った。ただ事実を並べただけの言葉だけれど、それで私は色々と助かった気がする。涼が冷静にいてくれたおかげで、私も少しだけ気が楽だった。振り返って見ると、私は涼に色々と甘えていたんだと思う。気がついていなかったけど、涼には凄い負担をかけていた。もっと落ち着いて過ごさないと)


「それは凄いな。それにしても、柚が元気になってくれて本当に良かった」


 涼は安堵のため息を漏らす。


 そうじゃない。そんなに私は強くない。柚はそう思いながら頷いた。

これからちょっとずつ明るくなっていきます。

そこには様々な衝突も出てくるのでしょう。


次回

街を観光しよう



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