案の定の訪問
あらすじ
涼が文化祭にやってきた
「どこ見に行く?」
「んー、そうねぇ、私はパンフレット見えないからよくわからないんだけど、何か面白そうなところある?」
現在時刻は丁度9時。冴の教室に行ってみたいところだが、シフトに入っていないと意味がない。
大体10時半ごろに訪れれば確実に冴の働きぶりが見れると涼は予測している。
ならば今すぐ向かっても仕方ないので他のところをじっくり見学しようと思っていたのだが、涼は紫苑女学院自体の興味が薄いのでやる気が出ない。
(柚の希望で早く来たが、やっぱり10時くらいからでよかった気がする。まあ、確かに柚にしては珍しい外出だから、柚の好きそうなところにでも連れて行こうかな。……となると一般的なとこよりもレアな方向性で……ああ、ここがいいか)
涼はパンフレットをじっくり眺め、3年の出し物に目をつけた。
「どこ向かってるの?」
「3年生の教室。うちと違ってこの学校は3年も文化祭に参加するみたいだな。でもあまり大々的にはできないみたいだからインパクトが薄い。今向かっているクラスも紫苑女学院の展示だ」
「えぇ、てんじぃ〜。そういうの人少なさそうだから顔出して見れそうだけど、絶対つまんないじゃん! ヤダヤダ! もっと楽しい楽しいきゃぴきゃぴしたとこ見たい! やっぱり美術館に来たのかな?って錯覚するでしょ!」
出し物が展示というのはどの分野にしても興味がなければ一概につまらないと断定されるものだ。
涼自身紫苑女学院の歴史の年表などが展示されても興味なく立ち入ることすらしないだろう。
だが、この展示のテーマは柚が好きそうなことで、時間を潰すにはうってつけだ。
「このクラスは紫苑生がどんな生活を送っているか、どんなことを学ぶかなどが書かれている展示で、のちに学校説明会でも使われる資料がたくさんあるそうだ。この学校に憧れている柚にはピッタリじゃないか? 2年以上過ごしてきた紫苑生のコメントや魅力の解説もあって学園生活ってのを少し体験できるかもしれない」
「ふ、ふぅん。ま、いいんじゃない? 色々見て回るんだからまずはそういう地味な展示から行きましょうか」
「あれだけ文句言ったから発言の撤回が恥ずかしいだろ。素直になれよ。おまえの好きな青春が詰まった展示様だろ」
「そんなんじゃないって! もう、早く行くわよ」
「はいはい」
涼たちは十五夜祭でまず先に学校生活の展示を見ることにした。
涼からすれば所々イベントがうちの学校と違うんだなぁと思うくらいで、別に面白いとはかんじなかった。「女子校ってこんな感じなのかぁ」という凡庸な感想しか出てこない。
一方、柚からすれば一度は受験も考えたほどの憧れの高校で、どのイベントも自分がこの学校の生徒だったならという妄想と絡めて楽しめるのでいつまで見ても飽きない。「やっぱり女子校っていいなぁ。なんかとても煌びやかで……華の女子高生ってこういうことを言うのかしら」などと自分の世界に入り込んでいた。
一般的なサイズの教室一面に展示されているため情報量はかなり多い。涼は柚に「もうちょっと見せて」と十回以上言われじっくりと展示を眺めることになる。
熱心な紫苑女学院ファンのような姿を周囲に晒してしまった。普通ならどこかの筋で招待状を手に入れた異常者みたいに見えてしまうが、涼の卓越した容姿の美しさに周りは黙って見惚れてしまう。
この空間で何が展示品となっているのか受付をしている紫苑生ですらわからない状況となっていた。
結局30分以上展示を見学し、涼たちはやっぱり一般的な出店をしているところに行こうということになった。
そうして冴のクラスに向かうまでは暇なので、とりあえず涼のクラスと同じクレープを出している店の視察に行くことにした。
「ほう、これはなかなかイケるな。うちで作るよりも具材の配列や味付けに工夫がされている。頼み込んでレシピを教えてもらうべきだったかもな」
「やめときなさいよ。そうしたら相手の子がどうなるか火を見るより明らかだわ。余計な悩みの種を増やさないでよね。前にうちの学校に来た時だったちゃっかり合唱部の子たちと連絡先交換してたし……」
「懐かしい話するなぁ。別にあの時は柚の情報がいずれ出るかもと思って渡しただけだ。誰から構わずばら撒くほど僕は軟派じゃない。……ああ、展示になるかもしれないが見てみたいところがあったんだった」
「珍しいわね。涼がこういうところで興味あるとこがあるなんて。どこそこ?」
「パソコン部に登山部に自転車部、後は将棋部で一局指してみたい」
涼は高校受験のために他の高校の文化祭を見て回ったことがほとんどない。せいぜい友達に誘われて遊びに行ったくらいだ。
女子校の登山部や自転車部がどんな活動をしているのか興味がある。良いところに行ってたり、ハードな活動をしていたのならとても面白いし、今後のアウトドア活動にも精が出るものだ。
「あぁ〜……なるほどね。涼らしいわ。いいわよ」
柚からの了承も得たので、涼は興味のある部活の展示や出店を見て回ることにした。
流石にどの部活も成果の展示をしているわけではないので、出店で料理を出している部活は空いていそうな部員に話しかけ、普段どんな活動をしているか聞いてみた。
「なるほどなぁ。女子校ということで甘くみていたが、部活動をしているだけあって色々ハードなこともやるんだな。色々面白い話も聞けたし、将棋部に関しては手ほどきまでしてくれて中々有意義だった」
涼はチェスや将棋といったボードゲームが好きでよくコンピューター対戦をやったり、たまにオンライン対戦もやるが誰かに誰かの指南を受けたことはない。
独学でネット記事などで覚えた戦型や指し回しを研究しているのでそこそこやれる自信があったが、善戦はしたものの敗北を重ねた。
「一局しかやらないとか言ってたくせに三局もやって……行きたいって言ってたカフェに行く時間過ぎたじゃない」
「悪い悪い。つい熱が入った。ほんと、一つのことを極めようとしている連中は強いな」
「涼は勉強が最強じゃん。でも、こんな頭良い涼があんな子たちに負けるなんて、世界は広いわね」
「そうだな。……お、ついたついた。この教室で間違いなさそうだ」
涼は柚を再びポケットの中に隠れさせ、この文化祭で一番の目的である冴の出店を訪れた。
来ないでくださいと言われたが、否定が弱かった以上、それは来てくださいという意志の裏返しだと涼は曲解する。
そして、冴の予想通り涼が現れた。
新人賞に出すような文庫形式で書き進めると、1日二千文字前後じゃこのくらいしか進みません。
なるほど、みんな4,000文字くらい1話に使うのがよくわかります。僕は無理そうですが……
次回
冴のカフェ姿