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妖精の住処  作者: 速水零
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妖精と文化祭

あらすじ

葵と冴が文化祭を満喫した

「はぁーっ待ちに待った紫苑女学院の文化祭! ついに行けるのね!」


「招待制とはいえ人が沢山いるんだから、ハイになるのはわかるけどちゃんと自制してくれよ」


「わかってるわかってるって。ちゃんと涼のポケットに包まってるから安心しなさい。最近勉強に塾の教材作りとデスクワークだらけだったから外で遊びたかったのよ! 涼に遊びに行こうって言うとバイクか自転車で遠出になるじゃない? こういう普通の高校生がやるイベントに飢えてたって実感するわぁ」


 涼が都会に出掛けるのが好きではないので、外に出るとすれば江ノ島や城ヶ島、宮ヶ瀬湖のようなおしゃれを置き去りにしたようなところばかりとなる。


 江ノ島はともかく、ひとっ子一人いない峠道を走ることに柚は魅力を感じない。


「普通の高校生……か。なら――」


「どうせここで二学期の中間テストをやるってのはどうだって言うんでしょ? 涼の言いたいことなんてお見通しなんだから。違うの! もっとキャッキャうふふの甘酸っぱい青春を謳歌したいのよ!!」


「……それは諦めたんじゃないのか?」


 図星だったことは口に出さず、涼は負け惜しみに小さなトゲをばら撒く。


「そりゃ諦めるしかないことだって納得したけど……けどさぁ、もっと遊びたい!」


「じゃあこの文化祭で少しはストレス発散できるよな」


「もちのろんよ! お嬢様学校の文化祭! ああ、この体になって一番楽しいひと時かもしれないわ」


「そんなに嬉しそうなら連れて行くかいがあるってもんだ。……出店の食べ物とかを食べさせる余裕はないだろうから、今回は全て持ち帰って家で食べような」


「はーい」


 柚を持ち運ぶにはテーラードジャケットのようなポケットが複数付いており、かつ少し膨らみがあっても気にしない上着がベスト。


 11月に入り季節は晩秋へと進み始める。気温は日を追うごとに低くなっていき、肌寒さを感じる。


 涼はお嬢様学校に行くということもあってチェスターコートに身を包み、いつも通り柚を胸ポケットにしまう。


 以前は持っていなかったのだが、この前8年ぶりに涼を訪れた母親の椿が「モデルにならずとも身嗜みはキチンとすること」という手紙とともに様々な洋服を送ってきた。


 涼と体格の近いモデルが使った衣装を横流ししているようだ。知らない人が身に纏った服を着るのに抵抗を覚える人も多いが、わざわざ季節に合わせて服を買いに行く必要がなくなったので、ありがたく使わせてもらっている。


 もちろん、中には椿が買った新品も混ざっている。どれも名の知れたブランドのもので、ファミレスのバイトを一日中やってようやくシャツが1着買えるほどの代物たちだ。


 柚は羨ましそうに涼を見て文句を垂れていたが、その中に包まれてみるとあまりに素材が柔らかく、居心地がよかったのか何も言わなくなった。


「ほんと、オシャレにしてればモデルや俳優みたいよね、涼って」


「褒めても何も出ないぞ」


「別におべっかじゃないって。いつもそうして欲しいの、私は」


「僕がオシャレにしていて何か得があるのか? 普段みすぼらしい格好をしているとは思わないけどな」


 涼はファッションに関心がないとはいえ、人との付き合いで身嗜みが重要なのは知っている。たまに光に連れられて私服を買いに行くこともあるので、ダサいと思われるのは心外だ。


「これは涼に説明するだけ時間の無駄だからやめとくわ。安心しなさい。普段の格好が悪いわけじゃないから。んー、中の上くらい? 素材がいいから凄く着飾った時に光るのよ。これからはお母さんに渡されたコーデ集を参考にするといいわ」


「面倒だなぁ。…………あ、ここだ。確か高校は1学年8クラスで中等部も合わせて1500人くらいだったはずだ。となると招待状は7500枚……風紀委員大変だな」


「ほんとすごい人だかり。安全のための招待状なんだろうけど盛況ね。流石紫苑女学院ってところかしら。あー、テンション上がるわ」


「それだけバレるリスクは上がるんだからな」


 豪華な装飾の施されたゲートを潜り抜け、涼たちは入場待ちの列に並ぶ。


 開催されてすぐの時間にやってきたため昨日の葵ほどすんなり入ることはできない。


 涼と柚はすでにringの通話で会話しているので、周りからは紫苑生と会話しているように見えるだろう。


「なんかやけに周りの生徒たちからジロジロ見られている気がするだが」


「そりゃそうでしょ。こんなところに男子一人で来たら誰かの彼氏じゃないのって思われるって」


「なるほどな。害意はなさそうだから放っておくか」


「むしろ逆だと思うけどね」


 柚ははぁっと深いため息を吐く。


 連れの男が色気付いた視線に晒されるのは誇らしいが、同時にちょっとやきもちがこみ上げてくる。


「招待状を見せてください」


「はい、これでいい?」


「……あ、はい。だ、大丈夫です。裏をめくるとシールになっていますので、手首につけて外さないようにしてください。耐水の和紙でできているので手を洗われる際も着用したままでお願い致します。こちらパンフレットになりますので、注意事項を必ず目を通してくださいね。……それでは十五夜祭を楽しんで下さい」


 一瞬涼の顔を見てたじろいだ受付の風紀委員だが、2日目ということで手馴れた様子で受付処理をつつがなく進めてくれた。


「わかった。ありがとう」


 涼は短く礼を言い、瀟洒な歴史ある校舎へと足を運んだ。

土曜のせいかこの非常事態宣言中でもそこらを走り回る子どもたちが多数いますね。

遊びたい盛りなのは痛いほどわかりますが、オンラインで遊んで欲しいです。

妖精という題名を付けたのは随分久しぶりですね。


次回

案の定の訪問

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