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妖精の住処  作者: 速水零
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夢の終わり

あらすじ

柚目線で涼が小さくなった物語全編

「なんで僕が色々な危険に晒されながら浮波の学校に行かなきゃいけないんだ?」


 あのまま部屋で議論を白熱させると家族にバレそうだからさっさと登校する事にした。もう学校が近いって言うのにまだ文句があるの? そりゃ悪いことしたと思ってるけどさ。


「いろいろあるのよ、いろいろ」


「それじゃわからん」


 なんで伝わらないのよ!と言いたいところだが、察せられたら察せられたでちょっと気まずいから複雑な気分ね。


「私が外に出るときは必ず木下を連れて行くという条件で、私はあんたを家まで帰らしてあげるわ」


 ちょっと横暴かもしれないが、もう止まれない。


 木下は私の話を聞いてからしばらく考え込み、「仕方がない」と了承した。


 私の高校の制服であるブレザーのポケットに木下を入れて運ぶことになった。ブレザー色々ポケットがあるけど、どれがなんていう名前のポケットかよくわからない。脇腹のあたりにある大きめのやつだ。


 ハンカチとか花を入れるような胸ポケットが一番ぴったりで普段全く使わないからそこにしようと思ったけど、すぐさまこれは小人サイズの人間、オスだった。


 グラビアアイドルだとかいろんなスタイルのいいモデルと比べられると貧相だがこれでも私は自分のスタイルに自信がある。それにまだまだ成長期! ……のはず。


 だからこそ胸ポケットになんて入れられないわ。


「このポケットかなり居心地悪い。深いから座ってると外が見えないし」


「諦めなさい。てか、そんな風に顔出されるとバレるわよ!」


「バレても浮波がアニメフィギュアをポケットに忍ばせて学校にいくオタクにしか思われないさ。面白いキャラ付けだろ?」


「そんなキャラ設定いらないわよっ!」


 お姉ちゃんが色々酷いオタクだけどあんまり一緒にしないでほしい。別にそのアニメとかオタクの人たちをどうこう言うつもりはないんだけど、女子界隈では立場が低くなりがちだ。


 新入生の段階で後ろ指さされるような事態になってら私はもう高校に行けなくなってしまう。


「お願いだから余計なことしないでじっとしててちょうだい」


「せっかく知らない街にきたんだから色々見て回りたいんだが」


「却下」


 なんだか生意気な弟を連れている気分だ。いや、弟いないんだけどさ。


 でも、状況に悲観していないだけ全然マシだ。私だったらもう心が折れてる。


 目の前にある電柱が木下にとっては高層ビルのように大きく見えるんでしょうね。考えただけでも恐ろしい。色々文句を言ってくるやつだけどもしかしたらただの強がりなのかも。


 しばらくしてまだ見慣れない高校に到着した。自分の教室と食堂くらいはわかるがまだまだ学校で迷子になりそうだ。高校って中学校よりも大きいわね。当たり前のことかもしれないが、思わずにはいられない。


 教室に入るとまだ早い時間だというのに何人か登校していた。まだあんまり関わったことのない人だからおはようとだけ言っておいた。流石にこのタイミングで距離を詰めに行けないわね。少し木下についても考えたいし。


「そういえば、木下は何年生なの?」


「高2」


「あ、一個上だったんだ。確かにその制服新品って感じしないもんね」


 同学年かなって最初思ってたけど木下の言動を聞くと年上にしか見えない。外見で判断できればいいんだけど見れば見るほど存在が不思議すぎてわからない。判断する前に感嘆の声が漏れる。


「だからって敬語とかに直さなくていいからな」


「わかったわ。その方が私も楽だから助かる」


 バレないように会話するというのは難しい。今はまだ全然人が来てないからいいけど友達とか来たらもうずっと話せないわね。


「そろそろ話しかけるのやめるわね」


「ああ、そうだな。暇だし僕は寝てるよ」


「了解」


 木下がポケットの中で丸くなって数十秒後、小さな小さな寝息がポケットから聞こえてきた。寝るのはやっ!それにほんとどこでも寝れるのね。


 丸まっているとはいえ木下の身長は20センチを超えている。ポケットは結構膨らんだおり、何人か新しい友達に何が入っているのか聞かれた。プリント丸めたやつって咄嗟に答えちゃったけど女子力低すぎな回答ね。しくった。


 授業が始まると木下は時々目を覚ましては寝てを繰り返していた。二度寝したいけどあんまり眠れない、みたいなやつなのかしら。よくわかる。


「別に無理して寝ている必要はないからね」


「わかっているが、割と暇なんだよ。考え事してて時間潰したっていいんだけどさ」


「私スマホなしで待ち続けるなんて無理。木下すごいわね」


 スマホは女子高生必須アイテム。画面が割れて使い物にならなかった日には絶望しかないと言っていいわ。


「確かにスマホあると時間つぶしやすいもんな」


「あ、木下もそう思うわよね! ないとほんと生きていけない。昔の人すごすぎ」


「浮波が軟弱なだけだと思うが、そんな話は置いておいて、プリントやらなくていいのか?」


 今は数学のプリント問題を解く時間。あの先生自己満足で難しい問題たくさん出してきて解説できる自分すごい、ってのに酔ったウザイやつだから最初から手を出す必要はないのよね。てか、ほとんどわかんないし。二、三年の先輩ですらほとんど解けないような物を応用プリントとして出すなんてほんと頭いかれてる。

 

 本人は結構すごい私立大出てるからって他の先生もあんまし強く出てこないし、ほんと一部の頭いいのになんでうちに来たのかわからない天才集団からは解説わかりやすくてためになるなぁと言っていたから付け上がる。


「どうせできないからいいわよ。これ三年の先輩だって解けない問題だもん。そりゃ一年の知識で解けることらしいけど変に捻り過ぎ」


「まあそういう先生はどこにでもいるもんだよな。どんな問題なんだ?」


「えっと、確率のどっかすごい大学の入試問題をいじったやつ」


「あぁ確率なら色々面倒な問題作れるもんな。で、具体的にどんな問題なの?」


 どうせ解けないだろうけど、暇だろうから問題を教えてあげた。三年の先輩も今やったって解けないだろうって言ってたし、まともに書く道具がないんだから二年生の木下じゃ無理だと思う。


「…………」


「やっぱり難しいみたいね」


「……いや、わかった。答えは8分の5だな」


「え、なんでわかったの?」


 声をあげそうになったが、そんなことすると変に注目されるからなんとか抑える。


「とりあえず途中式書いてみな。しっかり教えるから」


 言われるがままにプリントに書いていったが途中途中で解説までしてくれた。わかりやすい。もう一回プリント渡されたらスラスラ解けそう。


「木下ほんとに頭いいのね、天才。書くもの何もなかったでしょ。なんでわかったのよ?」


「似た問題を解いたことがあるからな」


「それでもすごい!」


「サンキュー」


 少しして先生の目に私のプリントが映った。


「う、浮波くん、これが解けたのかね!?」


 あんまし誇れないがクラスメイトたちにドヤってやった。先生の顔色が悪い。解かれるとは思っていなかったようね。いい気味。もっとやってやりたいわ。


 木下に言われた解説をほとんどそのまま発表するとクラスメイトたちは私に尊敬の目を向けてきた。


 クラスでもカッコいいとよく言われている男子も私のこと見てきたけどほとんど意識しなかった。前の私ならちょっと舞い上がっていたんだろうけどなぜ?


 先生は感心した、なんてことはなく、私の説明(木下の説明)にほとんど付け加えることがなかったのか少し悔しそうな顔をしていた。


 てか、先生なら普通生徒を褒めたり喜んだりするでしょ。


 そして、やんやかんやあって帰宅!


「結構大変な1日だったわね。って、これから帰るんだっけ?」


「ああ、そのつもりだ。いつまでも迷惑はかけられない」


 そんなこと気にしなくていいのに。いや、きつい1日だったんだけどね。


「では行きましょうか」


 そこまで準備に時間はかからなかった。


 普段ならば30分以上かけて色々準備するんだけど、終電のことだったり補導させることだったり考えると早くしないと間に合わない。明日は午前中合唱部の練習があるのよね。


 まだ肌寒い季節だけど、朝の経験からして木下を運ぶにはパーカーが一番良さそう。ということでパーカーにジーンズとむちゃくちゃラフな格好になってしまった。色々考えるの面倒だったし知らないとこで誰も見てないんだからいいわよね。コンビニ行くみたいなものでしょ。


 ……そういうところから真面目にしないといけないのはわかってるんだけどね。


 私の家から最寄り駅まではそんなに距離があるわけではないので歩いて行った。もう木下はポケットの中が揺れるのに慣れたらしい。確かに歩くだけでたくさん揺れて酔いそう。…ブレザーの胸ポケットならそこまで揺れないだろうけど言わないようにしよ。ごめんね。


「じゃあ電車に乗って涼の家を目指しますか」


「おう!」


 二人ともちょっと楽しくなってきた。


 呼び方はいつの間にか涼、柚になって、ちょっと親友みたいになった。そこまで性格とかが合うわけじゃないんだけど一緒にいて楽しい。


 涼が今の現実に絶望していなかったのも大きいかもしれない。いや、いろいろ思うところはあるんでしょう。それをバレないよう隠してくれているのがありがたかった。言われなきゃ気がつかないレベル。


「乗り換え少ないの楽でいいわ。案外近いのかもね」


「金がかかるけどな。三時間くらいあればつくんじゃないか?」


「でも往復で映画三本観れるわね」


「観ながら来ればいいじゃないか」


「そういう問題じゃないっ!」


「わかってるって。……おいそれとは来れないよな」


「……そうね」


 しんみりとしてきた。三時間って短くないかしら。


 本当にあっという間についてしまいそうだ。


「次の駅で降りるぞ」


「ええ、わかったわ。そこからどう帰るの?」


「歩いていけるよ。色々と助かった」


「いいわよ、別に」


 そうして、すぐに涼が住んでいる家に着いてしまった。


 恥ずかしいけど今はポーチに入れておりそこから涼は顔を出している。


「ああ、この家だ。なんだかなつか……っっっっっッ!?」


 涼が言った通りの家についたけどなんだが様子がおかしい。こんな涼会った時以来じゃないかしら?


「ねえ、どうしたの?」


「……まさか、な…………いや、そういうこともあるのかもしれない。だってもし……ならこうなってても不思議じゃない」


 何かボソボソと呟いている。ただでさえ声小さいんだから聞こえるわけないでしょ!慣れてきたから一部分だけわかったけど!


 何も反応を示さない涼は放っておいて、私はインターホンを押そうとして、気がついた。



 表札が中田と書かれている。



 ここは涼の家のはずよね。どうして? だから涼は驚いていたのね。私はそこまで驚きはしなかったけど疑問は残る。


 私は涼に尋ねずにはいられなかった。


「これは、あくまで仮説だけどな。僕という存在はこの世界に存在しないのだと思う。それ以外にここが僕の家でない理由が見えない。ほとんど僕の記憶通りの家だ、何か細工がある程度じゃなく、根本的に僕がいない世界なんだよ。多分」


 意味がわからなかったが、なんとなく理解した。涼が言うならそうなのね。涼の家の事情を知らない私にはなんで涼がそう判断したかわからないんでしょう。


 目の前が真っ暗になった。


 何故だか急に倒れそうになる。


 何か私は重要なことを忘れているようで仕方がない。


 その事実が私を闇に引きずり降ろそうとしている。


 涼はこんなにも理性を保っているのに情けない。


 でも、心はどうしようもなく叫びたがっていた。音を上げていた。何かを訴えてきた。

 

 ごめん、そう私は呟いて意識を手放した。


 

 そうして柚は夢から醒め、本当の現実を思い出した。


後半ぶっ飛ばしました。

色々親密になる過程をここで書いてしまうと今後つまらなくなりそうなのでご勘弁を。


次回

二人が見た夢



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