チケット
あらすじ
冴から文化祭に誘われた。
冴の通う高校、紫苑女学院は涼の通う翔央高校よりも歴史が古く、神奈川県でも名門の女子校と位置付けられている。
昨今の少子化による影響で共学化する女子校も多い中、紫苑女学院は県外からの人気もあり、毎年一定以上の入学志願者が訪れる。
この女子校出身という事がアナウンサー業やモデルと言った顔や学歴を売り込む業界でも大きなステータスとなるほどだ。
そんな学校の文化祭がオープンに開かれるわけがない。外来者が文化祭に行くためには、学校に通う生徒の学生番号の印字されたチケットが必要になる。
何か問題が起きた際、誰が招待したかがすぐに特定されてしまうので、生徒もおいそれと友達を呼ぶことはしない。
受験してくる中学生が見に来れないがこれまでこのシステムを貫いている中不動の人気を得ているので問題ないと思っているのだろう。
涼は紫苑女学院の近所に住んでいるので文化祭に行くにはチケットが必要なのは知っている。
地元の中学から紫苑女学院に行った同級生は数人いるが、中学時代の涼は殆ど親しい友達を作らなかったので誘ってくる女(涼から頼めばくれる子はいるだろうが)はいない。
これまでもこれからも涼は紫苑女学院の文化祭に行くことはないと思っていた。
『ところで涼さん、私チケット余りそうなので文化祭来てくれませんか?』
どうやら今回冴が誘ってくれたお陰でプレミアが付く花園への乱入チケットが手に入りそうだ。
『僕なんかを誘って大丈夫なのか? 確かそんなに枚数貰えないとか聞いたことあるけど』
『大丈夫です! チケットは1人5枚もらえるんですけど、私はお母さんと中学から仲の良い友達2人と葵さんに渡すつもりなので1人分余るんです!』
本当は真っ先に涼を招待しているのだが、それを伝えるわけにはいかないので冴は可愛い嘘をついた。
涼も余っているというのなら冴の出店を見てみたい欲求があるので、遠慮なく受け取ろうと思う。
『そう、なら文化祭見に行こうかな。今日バイト被っているよね? チケットその時もらっていい?』
『わかりました! また後で会いましょう!』
涼が家に帰ると柚がのんびりごろ寝しながらスマホを弄っていた。
どうやら英語の勉強をしているらしい。涼も制服から一時部屋着に着替えベッドで横になる。
英会話教室の内容は語学力のある涼が半分以上担当しているので、柚ももっと力になりたいと励んでいる。
普段の学習が少し疎かになっているが、それでも涼の指導のもと成績は上がっているので、木下塾の教材作りバイトに勤しんでいても文句はない。
「ただいま」
「おかえり。また体験授業の希望が来てたわよ。それも3人、初めての男の子ね」
小学一年生の女の子が友達を連れてくるとなると必然的に女の子となるだろう。またクラスで談笑してて興味を惹くのも同じ女の子。
そのため、会員16人全員女の子で構成されている。
「へぇ、ようやくか。なんでか今までずっと女の子しか入らない塾だったけど、ようやく男子の希望者が来たか。でも女子が多過ぎてすぐ辞めちゃうかもな」
「あーありそう。男子3人入っても全体の8割は女子なんだから小学一年生には雰囲気良くないかも。特に涼の授業って涼の人気でキャピキャピしてるから。幼女を落としまくっている授業じゃ満足しないわぁ」
「誰が幼女を落としまくってるって? 誤解だ。真面目に楽しくやっているだけなのに酷い言い草だなぁ。まあ新しい子たちが入ろうと入らなかろうとやることは一緒だから関係ないな。ただ女の子同性オンリーで進める方が楽だから大変そうだ」
「ね。でもこれでだいぶ収入増えたわね。今月はいくらになるのかしら?」
「16人中英会話もやっている子が10人いて、途中入会者のことも考慮すると……35万円弱」
「うわー、当初の予定の倍近く稼いでいるじゃない。税金である程度引かれるとはいえ凄すぎ。でも涼のいう通りこれ以上増えるのは厳しいわね。一人で回すのも20人が限界じゃない?」
わからない子にはできる子が教えたり班を作って机間巡視を効率化させたりとさまざまな工夫を施しているが、本格的に木下塾の今後を考えなくてはならないだろう。
リビングの家具の配置を変えれば小学生30人くらい入りそうだが、狭い中で動き回ることになるので更に効率が悪くなる。
「その少年たちがもし入ることになったら考えなくちゃな。……そうだ、うちの近所の女子校、紫苑女学院の文化祭チケットもらえることになったんだけど、柚も見に行くか? 柚ならチケット要らずだろ?」
「えっ、紫苑女学院って、あの紫苑女学院!? いくいくっ!! 絶対行く!! へぇ、神奈川県にあるとは知ってたけど、この近くにあったんだぁ」
柚は犬用ベッドから飛び起き、涼のベッドに乗り込んできた。
「なに、柚紫苑女学院知ってるの?」
「そりゃ有名よ! 紫苑出の有名人たくさんいるんだから! なんで今まで教えてくれなかったの!? 私紫苑女学院に通うの憧れてたのよ! そりゃ遠すぎるし私の学力だと厳しかったから諦めたけどさ、せめて見学はしたかった! これだから涼は人の心を失くしてるって言われるのよ!」
ペチペチペチペチペチペチペチペチと猫パンチよりも軽いパンチの連打が涼の頬を襲うが、涼は歯牙にもかけずタブレットでネットニュースをチェックする。
涼が態度を改めないのを見てボルテージがマックスを超えた柚はかまってかまってと耳を引っ張り出した。
「ぅわっ! や、やめなさいよ! 下ろしてっ!!」
パンチは痛くないが耳元でキャンキャン騒がれるのは鬱陶しいので、涼は柚を摘み、起き上がってベッドの上であぐらをかく。柚は正面に下ろし対面する。
「ったく、流石に人の心を失くしてるだなんて言われたことないよ……確か。……それに、わざわざ近所高校紹介なんてしないだろ普通。その上教えたって中に入れるわけじゃないんだから意味ないし。そんなに憧れているなら簡単に見学できるようなところじゃないことは知ってるだろ?」
「……それもそうだけどさ…………それで、誰が涼を誘ってくれたの? 空と海?」
憧れの紫苑女学院に行けると思って舞い上がった柚だが、ふと我に帰ると、涼はその憧れの女子校に通う乙女の誘いを受けたということを思い出し、ふつふつと嫉妬と怒りが込み上げてきた。
「いーや、あの2人は違う学校。うちのバイト先の後輩だよ。今日チケットもらう約束しているんだ」
「ふーん、そうなんだ。……流石涼ね」
「なんだよ、その含みのある言い方は」
「べーっつに! なんでもないわよ! ほら、さっさとバイト行きなさいよ!」
まだまだバイトまで時間があったが、涼は突沸した柚の怒りから逃げるために家を出た。
この作品はフィクションなので神奈川県に涼の住んでいるような場所や高校などはありません。
所々似たところはあるかもしれませんが、合致したモデル地は決めてません。
でも城ヶ島や真鶴半島はありますよ笑
次回
後輩とデート?