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妖精の住処  作者: 速水零
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【if】ガラスの拘束具が解ける時

あらすじ

涼(小さい)と暮らし慣れてきた

「フランス語を勉強していたんじゃないの?」


 私が合唱部の練習を終えて帰宅すると、涼は地べたでドイツ語の勉強をしていた。


 たしかにドイツ語の本も買ってあげたけど、普通先に覚え始めた言語をある程度習得してからじゃない?


 頭パンクしないのかしら。


「もちろん、フランス語はこれからも勉強するけど、ちょっとドイツ語がどんなものか気になったんだよ。これはほとんど趣味でやっているようなものだから習得しようと必死にやっているわけじゃないし、脇見してもいいだろ。そういえば中間テストどうだったんだ?」


「まあ一年生の初めの中間テストだし、そんな範囲が広くないから凄くできたわ。涼が教えてくれたのも大きいしね。学年で8位になっちゃった」


 涼は私が中間テストの勉強をしている時、教科書の隣に立ってわかりやすく解説してくれた。


 教科書の章末問題や先生独自の難しい問題を解く時なんか特にありがたかったわ。あの数学の先生意地悪問題ばっか作るし、ほんと涼さまさまね。


「それはよかった。柚にはとても世話になっているから役に立てて嬉しいよ。これで学年10位以内に入った報酬が得られるな」


 私はこの中間テスト前に涼に提案された小遣いアップ要請をお母さんに訴えた。


 内容は中間テストで学年10位以内に入ったら月初めにもらえるお小遣いが五千円から一万円にアップすること。そして、定期テストのたびに期間が更新されるというもの。


 これで6月と7月の小遣いは一万円になるけど、涼がわざわざこの案を出したのは自分が使えるお金を増やすことだった。増えた五千円のうち涼のものになるのはその半分の二千五百円。


 お試しってことで涼の指導を受けて中間テストに臨んだけど、かなりギリギリだったわね。


 涼がいなければ絶対に無理だった。んー、でもなんか半分お金をあげるのは癪ね。


 これで涼は月に二千五百円得られるようになるわけだけど、何に使うんだろう?


「いや、特に今買いたいものはないよ。月に二千五百円じゃ本を買っても次回潰しには足りないし、食事は今ので一応満足している。とりあえずお金を貯めていって、いつか中古で電子機器を買いたいな」


 涼に尋ねてみると玉虫色の返事が返ってきた。


「本かぁ。……今思ったんだけどさ、私が学校の図書館で色々借りればわざわざ参考書を買わずに済んだんじゃない?」


「いや、それはそうだけど、図書館で借りたら2週間で返さないといけないだろ。文庫本は借りるとして、参考書はやっぱり買いたいな」


「あー、なるほどなるほど。その話は置いておいて涼、せっかくだしちょっと散歩しない? この前行った展望台にさ。ずっと部屋にいたんじゃ心悪くするでしょ?」


「いいなそれ。たしかにずっと小部屋――僕にとってはかなり広すぎるが――に閉じこもってると気分悪くなる。今は夜で少し街を外れれば誰にも会わないから出かけようか。先に夜ご飯食べてきたら? 僕の分は後で出かけている時でいいからさ」


「りょーかい。20分くらい待ってて」


 私は勉強に戻った涼を尻目にリビングへと向かった。


 お姉ちゃんはもう食べ終わったんだ。大学の授業にサークルもあるはずなのに私よりも早く帰ってきてるなんて、案外暇なのかな?


 お母さんの用意してくれた夕飯をテレビを観ながら食べ進め、こっそり一部アルミホイルに入れて持ち出した。


 ポケットにアルミホイルの破片を入れてあるから簡単にできる。


「じゃあ行きましょうか」


「よろしく」


「はいはい」


 涼の歩くペースは赤ちゃんのハイハイくらいに遅い。


 身体が軽く、筋力が高くて持久力もある涼なら私の早歩き以上のペースで一時間以上走れるみたいだけど、そもそも涼が大手を振って出歩けないので、私が持ち運ぶしかない。


 涼のお腹を摘みあげてパーカーのポケットに入れる。


 ほんとがっしりしていてすごいなぁ。私と違って横腹に脂肪が溜まってないし、うぅー、やっぱり筋トレしたほうがいいのかな。


「柚、どこ行くの?」


「ちょっと展望台に行ってくる」


「こんな時間に? んー、まあ高校生だし、そこならいいかな。私はもう寝るけど早く帰ってくるのよ」


 涼と雑談したりのんびり食事をしていたせいかすでに十一時近くになっていた。


 これから出掛ける私が言えることじゃないけど、うら若き乙女が一人で外に出るっていうのにそれでいいのお母さん。


 涼を連れて私は夜の街を静かに歩く。


 この街は駅や国道沿いが少し栄えているだけで、少し離れたらすぐに田んぼや畑が続く田舎道が広がる。


 私がこれから向かう先の展望台にはまだ住宅地があるが、人気は少ない。誰もパーカーの中にフィギュアみたいな人間があるとは思わないでしょうね。すれ違う人少なすぎるから特に、ね。


「どう、外の空気は?」


「心地良いよ。引きこもりってなんで生まれるんだろうなって心の底から疑問に思うくらいには晴れやかだ。この辺りは空気も綺麗で星も見えていいな」


 薄い街灯すら無い公園の隙間から続いている獣道をスマホのライトを頼りに進む。


「あー最近運動してないからキツ」


「僕みたいに朝からランニングでもしたらどうだ? この道をダッシュするのもアリだぞ」


「いーやーだー。私文化系乙女だもん、獣道を駆け回るなんておかしいわ。もっとお淑やかに小鳥の囀りに合わせてららら〜ってするのよ」

 

 私が深窓の令嬢をイメージして優雅に歩いていると、涼が顔を出して「似合わないからやめとけ」と言ってきた。


 ムカつくが、歩きにくすぎるから言い返せない。ランウェイを歩くモデルすごいなぁ。


「とーちゃく!! いやー、やっぱりここからの景色は最高ね」


「そうだな。缶コーヒーが美味しい」


 私と涼はベンチに腰掛けてのんびり夜景を堪能しながら談笑する。


 涼がどうしてもって言うから缶コーヒーを途中で買ったけど、良いものね。


「涼ってこのままさ、ずっと小さいままなのかな?」


「それは僕が知りたいよ。小さいままなのが怖いってのもあるけどさ、柚に迷惑をかけ続けるっていうのが一番嫌だな」


「私は迷惑ってそんな思わないよ。勉強教えてもらっているし」


 本当に私は涼がいて面倒だなって思っていない。そりゃたまに嫌に思うこともあるけど総じてプラスよプラス。


「そうか。まあ、今後何があるかわからないし、いずれ独り立ちできるかどうかってことも考えておくよ」


 涼は一人で生活できるようにするって言ってるけど、無理だと思う。


 だってそこら辺の仔犬よりも小さいし、缶コーラよりも軽い涼が後何十年も生き延びるって相当大変でしょ。狸とかに食べられちゃいそうだし。


 そう思っていた私だが、涼に合わせてさまざまな妄想話をしていると、涼の体が光り出した。


 何かが涼を照らしているわけではない。涼自身が発光している。


 今までこんなことは一度もなかった。


 しばらくして光の光量が安定した。


 そうして少しして、涼の体に異変が起きる。

すみません、書き忘れましたが、前回で章が終わりまして、今回はイフストーリーです。

この章は涼が母親と再会し恋を意識する話でした。重く重くしようと思いましたが、涼の性格を考えるとそんな展開はなしかなぁと断念。

160話超えてようやく恋愛を前に押し出せそうです笑笑。



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