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妖精の住処  作者: 速水零
165/312

元王女の気持ち

短め


あらすじ

椿に恋を教わった(?)

「へぇ、だれだれ? 私の知っている子かしら……葵ちゃん? あの子よく涼と遊んでいたものね。他には…………思いつかない。まぁ、涼の人生の半分くらいしか知らないわけだし、しょうがないか。何にせよ、そういう子がいるのは良いことよ。いずれ、涼も誰かを本気で好きになる時が来る。必ずね」


「そうかな。でも、必ず来るって母さんが断言するなら、大人しく落とされるのを待つとするよ」


「それはダメ。その歳にもなると受け身でいて恋に落ちることなんて少ないもの。よく考えて頭の片隅にずっと置いておきなさい。次第に意識するようになるから」


 高校生にもなると、恋愛を意識していないで相手に惚れることはあまりない。


 相手との壁を作っているのだからフィルターに通されたように相手への想いが純化され、透明になってしまう。


 普通の人ならば壁が目が粗いから濾し取り切れずに桃色の感情が姿をあらわすが、涼ならば完全に相手を単なる()()と断定する。


 現に昔の葵が良いところまでいっていたが、結局涼から恋愛感情を引き出すまでには至らなかった。


 たまに訪れる恋に恋をしている時でさえ、恋人関係が気になるだけで意味が違う。


「わかったわかった。この話はもうやめよう。……それで、今日はもう帰るの?」


「んー、もう少しゆっくりしていくけど、10時には帰るわ。明日は朝から会議があるから泊まりたいけど無理そう。自宅で資料の確認もあるし」


「そうか。カレーを食べたばかりであれだけど紅茶淹れるね。ダージリンのオータムナルでいい?」


 ダージリンは旬が年に3回訪れる。春摘みのファーストフラッシュ(愛と初めて会った時に涼が出したものだ)、夏摘みのセカンドフラッシュと秋摘みのオータムナル。


 季節によって抽出した時の色や味が異なり、季節折々様々な紅茶を堪能できる。


「ええ。……涼って紅茶を嗜むようになったのね。ますます良い男になってまあ」


「紅茶は新しい趣味の一つで、まだまだ下手の横好きだよ。農園とかまだ全然詳しくないし、淹れ方も甘いから期待しないで」


 こうして、二人は涼の淹れたダージリンを堪能しながら昔の思い出に花を咲かせた。物心つく前の涼の話に小学校の頃の涼の失敗談と話題は尽きない。


 いつの間にか時計の短針は十を指していた。


「もう帰るわね。……紅茶ご馳走様。美味しかったわ」


「それはよかった。母さんのカレーもすごく美味しかったよ」


「そう、ならまた作りに来るわ。やっぱり可愛い我が子にはすぐに会いたくなるものね。あの人も定期的に帰って来ればいいのに」


「それじゃあいつか鉢合わせしちゃうよ。父さんがいないから会いに来てくれたんでしょ?」


「その時はその時よ。涼と話したおかげか、()に対する(わだかま)りも少しは解けたしね。あの人のことだから再会しても喧嘩になったり仲がこじれることはないわ。むしろ今は司の顔もまた見たいくらいかも」


「それはよかった。……じゃあ、またね」


 初めは椿と顔を合わせだけで動悸が激しくなっていた涼だが、また会いたいと思うようになっていた。


 家族とはこういうものなんだなと、柚が故郷で菫の顔を見て綻んでいた姿を思い出す。


「うん、またね。あの時と違って涼に別れの挨拶が言えて嬉しいわ。近いうちにまた来るけど、やっぱりその時は涼の手料理を振る舞ってもらうことにする。……じゃあね」


 そう言って椿はモデルのように芯の通った確かな足取りで自宅に帰っていった。


 涼も胸が空いて晴々しい気分だ。


「……久しぶりに軽く走ろうかな」


 時刻は十時を過ぎており、今からバイクで出掛けると日付を跨ぐだろう。明日は学校があり、日課のサイクリングのために早起きをする。


 あまり疲れは残すべきではないが、先程の昼寝のせいか目が冴えている。


 風呂に入っても寝付けそうにない。


 一人になって考えたいことが沢山あるので、涼はバイクで夜の街を駆けることにした。


 涼は椿の影が見えなくなり、玄関に戻るとバイクの鍵を取り出し、プロテクター入りのジャケットを着込んだ。


 柚にはringで「バイク走らせてくる」と伝えておいたので心配はない。涼の自室生活に慣れきった柚なら一人でも大丈夫だ。


 キーをオンにするとYZF-R25の鋭い二眼LEDライトが夜闇を照らし、「乗れよ、相棒」という幻聴が聞こえてきた。


 エンジンを掛けると木下塾の初給料で買い変えたアクラポビッチ社のマフラーがけたたましい唸り声を上げる。


「さて、どこに行こうかな。……せっかくだし、海でも見に行くかな」


 涼はバイクに跨り、エンジンを吹かす。


「ま、水温計も上がってないし、久しぶりに乗るんだから最初は優しく行こうか」


 クラッチを切って一速に落とし緩く加速する。


 高級住宅街の街並みを駆け抜けながら、涼はバイクと一身一体なって海へと向かっていった。

また予告詐欺ですね、思ったよりも帰るまでのシーンが長くなったのでちょっとここで足踏みしました。

孤独にバイクで無人の地へと走るのは新型コロナにかからないので良いと思います。


次回

ロボット

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