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妖精の住処  作者: 速水零
164/312

恋とは何か

あらすじ

母親に人形の家を持っていることがバレた。

「いただきます」


「いただきます」


 涼は上品な所作で夕食のメインを掬い上げ口に運ぶ。


 椿も溢さないよう左手を下に添えてゆっくり口に入れ、刺激を愉しむ。


「ねえ」


「なに?」


「どうして今夜はカレーなの?」


「んー、豪勢なのも良いんだけど、やっぱり母の味って言ったらカレーじゃない? 久しぶりに作りたくなっちゃって。……別に嫌いじゃないでしょ?」


 椿はオシャレが大好きで優美なものをこよなく愛する。


 見た目に拘ったイタリアンやフレンチを出してくるのだろうなと、僅かに興味を抱いていた涼にはカレーという選択肢は想定外だ。


「そりゃ嫌いじゃないけど、もっと違うものを想像していたからさ。……一人暮らししているならたまに作らない? 僕は作り置きしやすいからよく作るけど」


 柚の食べやすい料理は水分を多く含んだものだ。口が小さいので、頬張って食べる料理よりも液状の物の方が人間の感じる味に近くなりやすい。


 作り置きしやすいからという理由ももちろんだが、柚が食べやすい料理で真っ先に挙げられるカレーはよく作る。


 涼がスパイスを調合して遊ぶのが大好きだからという理由もある。もちろん毎回スパイスから作るわけではない。


 椿が作ったカレーは市販されているカレールーの中でも高価な代物で、味の深みが段違いだ。


 使い切れないほどの生活費をもらっている涼だが、普段使うっているのはメジャーでそこそこコスパの良いカレールー。


 涼は味の違いに少し震えていた。


(でも、これって母の味って言うよりも高級品の味だよなぁ。たしかにルーの値段以外に母さんの技術力もあるんだろうけど、母さんが今好きそうな母の味に感動して涙が出るとかいう展開にはなりそうもない。まだ卵焼きとかの方が良かったんじゃないか?)


「んーさっき言ったように、モデル関連の仕事をやっているとストレスが溜まってくるから外食ばかりしているのよ。自分で作ろうって気分が失せる。もちろんみんながみんなキツいわけじゃないんだけど、こっちはハードなサービス業みたいなものだからね。立場が偉くなろうと関係ない」


「ネットニュースでも度々酷いタレントが話題に出るからね。イメージはつくよ。話題性のためにマイナスイメージの着きやすいことばかり表に出すから僕も良い印象持てない。華やかって思われがちなんだろうけど、僕はごめんだな。実情に興味はないし、仕事も楽しそうだとは思わない。まあ、テレビで世界中旅しているような番組は好みだけど、そういうのは一人でやるし」


「そうよね。涼がモデルになりたいって思うとは考えられないわ。一応勧誘の仕事もやってるし、涼のことは知り尽くしているからチャンスと思ったけど、私の方がどうかしていたみたい。ごめんね、こんな再開させちゃって」


「いいよ、別に。……もう気にしてないから。それより気になってたんだけど、母さんはなんで再婚しないんだ?」


 先ほど話していた時は気にならなかったが、柚と話している時に【最愛の恋人】というのを意識させられて疑問を抱いた。


 椿は「嫌で、好きでもない」と司への心象を話していたが、それでも再婚をしないということは何か心の奥底に未練があるからなのだと、涼は考える。


 恋愛に興味はないと公言する涼だが、ちょっと気になり出していた。


「それは、これもさっき言ったけどあの人より良い人ってのがいなかったから……かな。どんな男に会ってもこれじゃないって感じが強いわけ。全く、依存とか中毒とか禍根とかそういうの大っ嫌いなんだけど、抗えないものね。いつまでもあの人が私の心に居続けるのよ。表向き人の理想像を水とタンパク質に少量の脂肪を原料に3Dプリンターで合成したような人だもの。もしかしたら、こんなモデル事務所の仕事に転職したのもあの人を超える人間を探索するためなのかもね」


「父さんが人の理想像か。内面ばかり見ている僕にはよくわからないな。悪口を言うのは趣味じゃないけど、僕は父さんをハイスペックなロボットだと思っているよ。精神疾患には同情するけど、人として尊敬できない」


「それであの人を反面教師に育ってきたわけか。でも、父さんのことを悪く言っても憎んでいるわけじゃないんでしょ。尊敬していないって言っても軽蔑しているわけじゃないんでしょ。ビジネスライクな関係だけどさ、うまくいっているのなら良いわ。あの人相手に仲良し家族を形成しろだなんて無理な話だし」


 司がいないからとボロクソに言う二人だが、互いに司を全否定することはない。


 やはり椿は司を憎からず思っていた。未だに椿の中に愛が残っているのだと涼は確信する。司と再婚してほしいとは思わないが、いつかまた3人で食卓を囲みたいと思った。


「でも、涼が私の再婚に関して興味を持つなんて珍しい。やっぱり最近何かあったんじゃない?」


「いいや、そういうことじゃないよ。ただ、最近周りが恋愛関係にうつつを抜かしているというか、そういった話題ばかり出てくるから、ちょっと意識しただけだよ。僕だって人並みに恋愛を味わってみたい欲求があるわけだし、その時期がやってきたんだろうな」


 光たちとサバゲーをした時も希は女絡みで悩みを抱えていた。光も彼女ができたと言っている。ファミレスのバイト仲間たちと話す時もたまにそういった話題が出てくる。


 涼は周りが恋愛にはしゃぎ回っている時や、恋愛小説を読んだ時に彼氏彼女の関係に憧れを抱くことがある。


 周期的に起こることではないが、前の彼女と別れてからだいぶ時間が経ち、柚との生活も安定を迎え始めたことで心に余裕ができたのだろう。


「なんか涼こそロボットみたい。あの人とは全く異なるベクトルを歩んでいるけど両者共に行き過ぎてておかしくなってる。ねえ、気になる子とか、好きな子とか言わないからさ、この人なら振り回されても文句は言わないって相手はいないの? あなたが興味ゼロなことでも動かせるような、そんな子」


「…………………いる」


 椿の言った条件で涼が思い浮かんだ相手は何人かいる。


 幼馴染で以前付き合っていた葵。


 光の妹で涼からしても妹のように可愛らしい空と海。


 涼に初めてできたまともな後輩で、最近親密になってきた目に入れても痛くないほど密かに溺愛している冴。


 そして――

物語がちょっとずつ動いている感触があって楽しいですね。

僕も理系の端くれなので人体が水、タンパク質、脂肪、ミネラル、糖質などからできているのは知っていますけど全部語るのはごろ悪いのであそこで止めました笑。


次回

ロボット

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