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妖精の住処  作者: 速水零
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椿の目的

あらすじ

見守り隊の会議が行われた

 コーヒーの立ちのぼる煙を目で追いつつ、涼の瞳は薄っすらと自身の母親、黒瀬椿を捕らえていた。


「それで、母さんは今さらどうしてここに?」


「今さらって……まあ、さっき言ったことと被るけど、涼のネット記事を読んだから、かな」


「確かにあの記事にはいろんなことが書いてあったけど、母さんがここに来たくなることなんてあった?」


 椿の要望通り、涼はなるべくフランクに話すようにした。


「まあ、そう思って当然よね。今まで一度として連絡を取ったことないし。恨まれても仕方ないと覚悟してる」


「ああ、勘違いして欲しくないんだけど、別に僕は母さんのことを恨んでないよ。あの時の母さんはいつ居なくなってもおかしくなかったし、悪いのは父さんだ。それで、理由を教えてくれない?」


 椿のはぐらかす態度に涼は少し怒りを覚える。


 用件があるのならサッと話して終わらせるべきだ。


「だからネット記事を見たからって言ってるでしょ。ネット記事で涼が一人暮らしをしているって読んで、()()()がいないことを知ったからここに来たのよ」


「……なるほど、確かに僕が一人暮らしだってことは書いてあったね。ここに来れば父さんと顔を合わせずに会いに来れると思ったから来たんだ」


「ええ、そういうこと。他にも理由はあるけどね」


「……他?」


「その話はあとで。とりあえず、涼、本当に大きくなったね。もう17歳でしょ。起業までして立派だわ」


 椿は話を区切り、慈愛の笑みを浮かべて涼の頭を撫で回す。


 涼と同じ黒曜石のような美しい漆黒の瞳には僅かに涙が浮かんでいる。


 涼は恥ずかしさに耐えながら椿の手を受け入れた。


「僕は母さんの想像通りずっとこの家に住んでいたけど……母さんは今までどうしていたんだ? もしかして、再婚でもしたのか?」


「いいえ、ずっと独り身よ。あの人の内面性はそれはそれは酷いもので破綻していたけど、あの人ほど完璧な人はいないわ。……少なくとも私にとって。だから、他の人に染まるってことに違和感が生まれちゃうのよ。嫌で、好きでもないのに、あの人以外考えられないって感じだわ」


「……そうか」


 涼はなぜだか椿が再婚していないことを聞いて安心した。本心では椿がどうなろうと関係ない、興味を失っているはずと思っていたが、そうドライには成りきれないものらしい。


「今は一人暮らしの独身貴族ね。涼みたいに好きなことばっかりやっているわ」


「それでも仕事は真面目にやっているんでしょ? 良いことだと思う。独身貴族、案外僕の理想像かもしれない」


「そういうと思った。……でも、親っていうのは子どもの夢をなんでも素直に応援できないもので、涼には素敵な家庭を得て欲しいわ。あの人のことを知っている涼なら家庭を蔑ろにすることもないだろうし」


「あんまりそんな未来が想像できないんだけど」


 涼は将来のことを考えた時、ふと柚と2人で過ごしている姿が思い浮かんだ。


 確かに、このままずっと柚が小さい姿のままならそうなるのだろうが、未来の二人の関係は今と異なっていた。


(柚が元に戻らない中で結婚はないよな)


「……あら? そう言いながらも何か心当たりがありそうな顔ね? 好きな子でもいるの?」


「いーや、そんな相手一度としてできたことないよ」


「残念。息子や娘と色恋談議をするの憧れだったのに。やっぱり私達が原因なのかなぁ。すごく罪悪感感じるわ」


 ネット記事では夢溢れる青少年といった姿が全面に押し出されていたが、現実の涼を見ていると自分が涼を傷つけていたのだと椿は申し訳なさに押しつぶされそうになる。


 離婚自体には後悔はないが、子どもを巻き込んだことは今でも心にしこりを残していた。


「別にそのことに関しても気にする必要はないよ。そういう好きになる人ってのは作るものじゃないんだろ? 母さんは今なんの仕事をしているの?」


「あー、そういえば涼は私が何やっているかを知らないんだっけ? 何年か前に転職したし」


「へぇ転職したんだ」


 退職まで同じ仕事を続けている方が珍しいこの時代転職していたところで驚きはない。

 

 涼は冷め始めたコーヒーを飲んで椿の言葉を待つ。


「まあね。職場の関係が荒れててさ、仕事の魅力も薄れてたから、全く別のジャンルだけど、面白そうって思って転職したのよ」


「僕の母さんらしいな。それで、今はどんなことをやっているの?」


「それがこの家に来たもうひとつの理由。涼、あなた私の事務所でモデルをやらない?」


 椿が何をしていようとも涼には関係ないと思って興味本位で聞いてみたが、驚くべき答えが返ってくる。


 ソーサーに置いたコーヒーカップがカチャリと音を立てた。


 椿から漂う雰囲気からして嘘ということはなさそうだ。涼の椿への警戒心が一気に跳ね上がる。


 もう大切な肉親というフィルターだけでは見られない。自宅まで押し寄せてきた敵という印象が椿に纏わり付く。


「……それが一番な目的なんじゃないですか?」


 涼は永久凍土を彷彿させるほど冷酷な声色で椿に問いかけた。

何度目かのラブライブ!熱が再燃しました。

新型コロナウイルスの影響で暇が続く中、無闇に外にも出られないので僕はDアニメばかり観ています。不思議と小説を書く時間は増えないものですね。


次回

元王女の真意

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