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妖精の住処  作者: 速水零
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頭のいいフィギュア

あらすじ

涼がフィギュアになった世界(涼視点)

 これは柚の見ている夢だ。


 この世界で柚と涼は昨日の記憶を全て無くしており、柚はこれを夢だとは気がつかない。


 柚の見ている夢は涼と同じで前提が少し異なるだけだ。


 場面は柚が涼を投げ飛ばしたところから記すとしよう。



 思わず投げ飛ばしてしちゃった。


 まさかアニメのフィギュアが喋り出すなんて誰が想像できるの?


 あ、このままじゃあの子死んじゃう。


 投げ飛ばしてから少し冷静になった。フィギュア(仮)があんな高いところから落ちて無事で済むとは思えず、衝動的に動いてしまった事とはいえまずいことをしてしまったと自覚した。


 でも、もう遅い。


 フィギュアは深い草むらに落ちていった。草たちがクッションになって生きていることを願う。これで小人の死体が出来上がったら寝覚めが悪いどころの話ではない。


 言葉を発していた生物を殺したのだからそこら辺の虫を踏みつけた何百倍もの罪悪感が襲ってくる。


 大丈夫よね。……大丈夫なはず。


 本当は逃げ出してしまいたかったが、安否確認をしないことには悶々としてこれからの新生活がエンジョイできない。膝丈ほどある雑草を踏み越え、ポイ捨てされた様々なゴミ達を避けながら恐る恐る私はフィギュアに近づいた。


「うっ、ぅぅん……」


 魘されているような声を上げているが、特に命に別状はなさそうだ。遠目で見ても大きな傷は見当たらないし、そこまでフィギュアの着ている制服が汚れた訳でもない。ホッとした〜。


 でも、改めて驚かされた。


 あれは私の聞き間違いなんかじゃなくて、本当にこのフィギュアは言葉を話す。機械のようにどこかスピーカーから声が出るのではなくて、口を動かし、その状況に適した言葉を話した。


 そこまで頭が良く回る訳ではないため、私がこのフィギュアがAIを搭載した新しい製品だとか、定型文のみ話せる人形だとか、茂みに隠れた誰かの巧みな腹話術だとか他の可能性を考えることができなかった。一番最後の選択が今の現実にはあり得る話だがそんな滑稽な真似をする変人がいてたまるか。


 初めてネコに触る子供のように私はそーっとフィギュアの顔をつっついた。


「あ、柔らかい。それにあったかいわね」


 私の中ではもうこのフィギュアは小人だと認識を改めていた。


 でもなんか恐い。


 別に恐ろしいものでもないんだけど、私と同じ言葉を話すフィギュアあらため小人がこんな恐いものだなんて考えたこともなかった。


 幼稚園児とかに渡すとむちゃくちゃはしゃいで喜ぶんだろうなぁ。「カッコいい妖精さんだ〜!」とか無邪気に笑ってさ。そんな無邪気な心が今は切実に欲しい。


 生きていそうで何より、ではさよなら。と言いたかったが、インパクトが強すぎて私にはこの小人から離れることができない。どうしたらいいの?


 とりあえず私はこの小人さんが目を覚ますまでじっと抱きかかえておくことにした。ハムスターを両掌で抱えるようにして持ち上げる。


 軽い。私のスマホよりも軽いんじゃないかしら。よくこれで生きていられるわね。


 だいぶ私も落ち着いてきた気がする。少しこの小人さんに興味が湧いてきた。他にもこんな小人さんがいるのかしら? 小人をテーマに扱っていた有名なアニメ映画を思い浮かべるがイマイチ内容を思い出せないわ。この制服はどこかの人形やフィギュアから借りてきたものなのかしら? でもお姉ちゃんの持っているフィギュアは服が布で作られているわけじゃないし、子供の人形かしら?


 木下は私を見つけた時なんか難しいことを考えていたとしばらくして聞くことになるんだけど、今の私はそもそもこれが夢で私の方こそ小さくなった小人の存在だったとは記憶もしていない。考えることはもっぱら服や木下の容姿だったり、今まで見たことのある小人が出てくるアニメ映画達だった。


 ムッチャかっこいい!! 


 じっくりと小人さんを見た私はその容姿端麗さにテンションが上がっていた。どの角度で見ても惚れ惚れする。それに小人サイズだからわかりにくいけどスタイルが良くて結構小顔だ。ほんとわかりにくいけど。


 少しして小人は目を覚ました。


「え……なんで僕、生きてるんだ? あんな何十メートルも高いところから落ちたら死ぬだろ」


「あ、ようやく目が覚めたのね。大丈夫? どこか痛くない?」


「いや、なぜかそこまで痛いところはn……っっッ!?」


 小人さんは驚き目を見開いたまま硬直していた。


 自分の体が小さいことを知らないのかしら? それとも私のような人間に会うのが初めてなのかな?


「大丈夫だよ、何もしないから。食べたりしないって」


 掌に乗せて顔を覗き込んでいたのだから捕食されると思ったのかもしれない。そんなことしないのに。


「……はぁ」


 小人さんは私の両掌で胡座をかき深呼吸をしていた。それで落ち着いてくれるといいけど。


「落ち着いた?」


「まだ混乱状態だが会話くらいはできそうだ」


 どこか不遜な態度だ。私も敬語なんて使っていないけど、こんなちっちゃい子(物理)にそんな口調で言われると少しイラっとくる。


 私の小人さんのイメージが優しい心を持った礼儀正しい人っていうのがいけないのかしら。


 小人さん、ではなく小人ね。


「ならよかったわ」


 もちろんそんな考えていることを口には出さない。私は優しいのだから。


「いくつか質問をしたい」


「いいわよ」


「まず一つ目、ここはどこだ?」


「栃木県のーーよ」


 日本語が通じてアジア人顔なのだからここが日本であることは言わなくていいでしょ。ちょっと冴えてる。


「栃木? なんでそんなとこに。そもそもここは地球だったのか?」


 そんなとこという言葉には田舎自覚者として怒りが湧いてくるが、同じ地球出身ということに気を取られていた。


 そうか、別の世界からやってきたってこともあり得るのね。全く考えてなかった。この人こんな状況でよく頭が回るわね。頭いい〜。


「多分一緒の地球で、ここは日本。あなたはどこ出身なの?」


「神奈川県のーーだ」


「えっ! それマ?」


 今日二番目に驚いた。当然ね。随分と遠いところから来たのね。どうして? てか、この段ボール何?


「ここがどこかはまだよくわからないが、知っている世界でそれほど離れているわけじゃないってのはありがたい。じゃあ次の質問だ」


「ええ」


「僕と同じような存在を他に見たり聞いたりしたことがあるか?」


「そんなことあるわけないでしょ!」


「それもそうか。僕以外が大きくなったとか、そんな世界に連れてこられたとか考えたいが、その可能性はなさそうだな。あんな高さから落ちてほとんど傷が残っていないしな。草がクッションになってたとはいえどこかしらの骨は折れてるだろ」


 ああ、なるほど。確かにこの人以外が大きくなったってこともなくはないわね。そう信じたいだろうし……って今更だけどこの人小人族とかそういうんじゃないんだ!?


 今日三番目くらいの驚きだった。


 本当に賢い。何者?


「そ、それで他に質問あるかしら?」


 内心荒れていることがバレない取り繕うように私は問いかけた。小さくなった人がこんな冷静なのに普通の人間のままの私が取り乱すなんて恥ずかしい。


「いや、今のところない。自分の中で整理したい」


「そ。わかったわ。……で、これからどうするの?」


「このまま過ごすのも危険だ。どうにかして僕を家まで返してくれないか? 事情があって親に迎えに来てくれもらうことができないんだ」


「しょうがないわね。何かの縁だし、今度の休みにでも連れて行ってあげるわよ。お金持ってる?」


 悲しい話だが私はお金を持っていない。入学祝いに手をつけるのはお母さんが怖いしお年玉は正月に遊びに行った原宿でパーっと使ってしまった。今でも後悔。お小遣いがアップしたけど流石に半分以上使ってまで送ってあげられない。


 なんか侘しいというか心が狭いというか…こういうのなんて言うのかわかんないけどモヤモヤする。


「お金なんて一緒に小さくなったに決まってるだろ。いや、そもそも財布がないか。家に帰れれば交通費とか礼金はちゃんと払う」


 大人! そんな感想しか出てこない。自分が恥ずかしい。


「ならいいわ。とりあえず私の家に行きましょう。今日は学校があるもの」



 家に連れ帰ったがなんかイケないことをしている気分。こんな風に男子を部屋にあげたことがないからドキドキする。


 木下涼という名前の小人を私はパーカーのポケットに押し込んで隠すように自室まで移動した。両手を入れて歩いていたせいか木下からは暑いと抗議され続けたが、無視した。これ以上良い運び方は思いつかない。


 登校時間まで余裕があったが私は部屋に戻ってからすぐに制服に着替えた。もちろん木下には見られないよう、音が聞こえないようパーカーのベッドの中に突っ込んでいた。


「お腹減ってる?」


「いや、そこまで減ってはいない」


「そう。じゃあ食べに行ってくるわ。私、お姉ちゃんがいるんだけど、お姉ちゃん木下みたいなの大好きだから机の引き出しにでも隠れてて」


「僕みたいな大きさの人形が好きってことか?」


「そゆこと。見つかると騒がれて煩いのよね。色々弄られるの嫌でしょ」


「絶対嫌だ」


「ならまた我慢してね」


 しぶしぶ木下は首を縦に振った。ちょっと我慢させすぎな気がするけど、今後は改善していくから許して。


 私が朝食を食べ終わり机の引き出しを開けると木下は横になって寝ていた。引き出しの中には普段全く使わない小物類が詰め込まれていてとても寝られるような環境ではなかったはず。どんなとこでも寝れるとはこのことね。


 起こす気は無かったが物にあふれた引き出しを引っ張り出すとどこかで物がぶつかる音が発生する。木下の眠りが浅かったのかパッと目を覚ました。


 流石にずっと引き出しの中は可哀想なので机の上に置いてやる。木下は机の上で胡座をかいた。


「ああ、夢ってことはなかったか」


「残念ながらね」


「しょうがない。それで、これから学校に行くのか?」


「ええ、もう少し時間が経ったら家を出るわ。木下はどうするの?」


「この部屋には誰か勝手に入ってくる人はいるのか?」


 質問に質問で返された。部屋で過ごしたいのかしら?


「いやそんなことはないと思うわ」


「なら僕はこの部屋のどこかで過ごすよ」


「わかっ……いえ、ちょっと待って」


 木下が一日中私の部屋で過ごしている姿を想像した。ちょっとまずい。信用してないわけではないがあったばかりで私はまだ木下の人となりを知らない。流石に色々漁ったりはしないと思うが女として木下を置いていくという選択はなしなのではないだろうか?


「木下には私と学校に行ってもらうわ!」


「はぁ!?」

なぜいつもより長めなのか。

これはストックからではなく直接書いたものかつ構想が甘くて前後編にするにはちょっと文字数が足りなかったからです。夢にそんな長い時間使えません。本当は20,000文字くらいは書きたいんですけど……

元々は三人称視点で涼がフィギュアになった夢を千文字程度で進めていたのを面白がって書き足しました。

頑張って明日までにこの後編を書きます。


次回

登校と夢の終わり(予定)

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