大きな味方
ちょい短め
あらすじ
実の母親がやってきた
「ひ、久しぶりね、涼。8年ぶりかしら。……大きくなったわね。…………中に入ってもいい?」
涼が一目見ただけで酷く追い詰められた相手。
それは涼の実の母親――黒瀬椿だった。
「お……お久しぶりです、お母さん。どっ……どうしてここに来られたのですか?」
「色々理由はあるのだけど、一番の理由はネット記事で涼のことを見て、かしら」
涼が載っているネット記事、それはこの前投稿許可を出した『超絶イケメン一般高校生集第八弾!!』しかない。
椿がそんな記事を読むと思わなかった涼は疑問を抱くが、それ以上に涼の頭を支配していたのはネット記事の影響力だった。
「よ、読まれたのですね。ですが、それがどうしてこの家に来ることに繋がるのでしょう?」
「やっぱり他人行儀な話し方をするのね。そう躾けたのは私とあの人だけど、息子にそんな言い方をされると傷つくわ。フランクに話してくれない?」
息子を捨てた女の言うセリフではないが、涼は気にしていない。
涼は未だ混乱の渦に呑まれている。
「え……はい。わかりました」
「わかってないわ……まあ、どうやら混乱しているみたいだし、今はいいわよ。それより上がってもいい?」
「い、いえ、今はネット記事に書かれていたように小学生の塾をやっている時間なので、また時間を改めていただけると助かります」
「あー、起業したんだっけ? 流石私の息子ね。ここまで大きくなるとは思わなかった。別に邪魔しにきたわけじゃないから2階の客間にいるわね」
「……わかりました。授業が終わりましたら声かけますね」
「ええ、そうしてちょうだい」
いつの間にか涼は椿の来訪目的を聞き出すことができず、家の中に上げてしまった。
椿は若くして涼を産んだので、今は四十代前半。しかし椿は相変わらず肌や身体のケアを怠らず、抜群に良い容姿からまだ三十代前半くらいに見える。
涼が今相手している保護者の中に椿よりも歳上の方はほんの数人しかいないが、逆に椿ほど若く見える母親もほんの数人しかいない。
絶世の美女という評価は未だ続いている。
「あれ? おばさん、だれのおかあさんなの?」
椿が「一体何人通っているのかしら」と呟きながら靴を並べ、階段を登ろうとした時、玄関に出て以来戻ってこない涼を心配した姫がやってきた。
「ん? あなた、涼の生徒さんなの?」
見た目的にはまだまだ姫の母親世代だが、小さな子供からすれば立派なおばさんだ。
姫のおばさん発言に一切目くじらを立てず、椿は興味深く姫を観察した。
「うん! 涼お兄ちゃんは先生でもあるの!!」
「涼お兄ちゃん? ふーん、そう。木下塾、楽しい?」
「たのしいよ!! あたらしいともだちみんなとあそべるし、がんばったら涼お兄ちゃんがおかしくれたりするの!」
「姫、何してるの? そろそろ帰るわ――あら?誰のお母さんかしら? ……初めまして、私そこの娘の母親の小桜愛です」
涼は椿と姫の会話を中断させるか判断に迷っていると、援軍?がやってきた。
「ご丁寧にどうも、私木下涼の母親、黒瀬椿です」
「えッ!! りょ、涼くんのお母さんでしたか。いつも涼くんには娘共々お世話になっております」
愛は涼に「父親の友達の妻に近い雰囲気を感じる」と思わせるほどやり手だ。涼の両親がだいぶ前に離婚しており、母親とはもう会っていないことを知っているが、動揺をすぐさま押さえ込んだ。
「ええ、息子の塾に通って下さりありがとうございます。つかぬ事をお聞きしますが、小桜さんは最近隣に住んでいる方ですか?」
椿は涼の家に来る途中隣の家が前に住んでいた家とは違うのに気がつき、表札を確認していた。
もしかしたら隣人に挨拶をしなければならないと小桜という姓を覚えている。
「はい、今年の春に引っ越して来ました。涼くんにはこの塾を立ち上げるずっと前から姫と仲良くしてとても助かっています」
「この子が……」
椿は涼のネット記事からSNSを全てチェックしている。そして、今まで涼がどう過ごしてきたか少しはわかっているつもりでいた。
しかし、最近の垢抜けた投稿や、絶対に興味を抱かないであろう歳の離れた子どもと親密になった事実を聞いて椿は涼が今どうなっているか確信が持てなくなった。
何か涼を変える良いことがあったのだろうか。それを確かめたいのも今回涼の元を訪ねた理由の一つだ。
涼はようやく状況を飲み込むことができてきた。
良き隣人という味方のおかげで考えを整理する時間があった。
涼は相手のペースに呑まれてなあなあにここまで展開されるが、流れは断ち切られる。
どうして椿が今更やってきたのか、なぜ涼の元を訪ねたのか、色々とはぐらかされてしまったが、涼は椿と真正面から向き合う覚悟を決めた。
長くなりそうだったので一度ここで区切ります。
展開の仕方がどんどん変わっているのでどうなるか自分でもわかりません笑。
次回
椿の目的