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妖精の住処  作者: 速水零
152/312

scout

あらすじ

記事を巡った話をした

「……つまり、かなりの大手たちがこの社名一覧の中にいるってことか?」


「そうっちゃそうだけどさ……これ、相当凄いわよ!」


「普通こういうのって自分からオーディションを受けて、何倍、何十倍って倍率を超えてようやく入れるって聞くけど……いきなり所属を持ちかけるなんて、それほどの魅力が僕にあるかな?」


「そういうことでしょ。確かにいつか涼は芸能関係の道に進んでもおかしくはないと思ってたけど……ここまで評価高いだなんて」


 小学生の時から涼は周りとは別世界の住人のように異質を放っていた。


 顔、頭脳、身体能力どれをとっても超高水準で、種族が違うのではと本気で思ったこともあった。お金持ちが周りに住んでいる地区なだけあって各分野涼よりもできる子はどこかしらにいたが、総合的に涼よりも優れていると思わせる子どもはどこにもいない。


 そもそも涼の纏っている雰囲気が異常だった。高校生となった今では、涼の凄さがハッキリとわかる。


 まるでテレビ越しで見れるどこかの国の王子さまだ。


「ずっと一緒にいたから僕の輝きに慣れたんじゃないのか?」


「そう言う涼は自分のスペックも把握してない超鈍感な石っころじゃない?」


 王子さまが自分を平民だと勘違いしているくらい――人類皆平等といった話は抜きにして――阿呆らしい。


「まあ、仮に僕が世界でトップに立てる才能を持っていたとしても、芸能関係はお断りだな。興味ない上にとても面倒そうだ」


「えー、なんでよー、私涼が載った雑誌読みたい〜……って言いたいけど、あんたはそうだよね」


「さすが幼馴染、よくわかってる。どんな大手やトッププロが出てこようと関係ない。はぁ、断るの面倒だな」


 涼は深い溜息を漏らしてファミレスを出る。


 葵があそこまで大きく動揺する以上、かなり大きな事務所で、断るのに苦労するのは目に見えている。


 足取りが重い。


 ついでに夕飯の買い出しをしたが、バイトの疲れもあり、料理を作る気が起きず、手早く済ませられるパスタにした。


 茹でた麺に湯煎したソースをかけるだけ、なんて簡素で美味しく食べられる料理なのだろう。


 柚が文句を言わないように甘いものも買い、帰路を辿った。




「ね、ねぇ涼、あんたのアカウント、今すごいことになっているんだけど」


 柚は涼が帰ってくると、ピョンピョン階段を降りてダイニングテーブルの定位置につき、涼を見上げる。


「んー、アカウント? あぁ、SNSのね。炎上とは無縁の投稿しかしてないはずだけど、何があったんだ?」


 かなり疲労が溜まっていたのか、思考がうまく加速していかない。


 朝ボケのような状態で、涼は生返事をし、お湯を沸かす。


「いや、炎上じゃなくて、フォロワー数が半端ないの!!」


 パスタを茹でるための湯を沸かす間は暇なので柚のスマホを覗き込む。


「ネット記事の影響か…………はあぁっ?!」


 どうせ数百人程度がフォローしてくれたくらいだろうと思っていたら、その新規フォロワー数は数千人増えていた。


 ネット記事を出す前と比べて3、4倍は増えている。そして、その勢いはまだまだ止まっていない。


 ネット記事が上がったのは2日3日前。涼は記事を読むだけして、自身のアカウントを確認したりはしなかった。そもそもそこまでSNSはしないのだから、投稿するネタができるまではアプリを開きもしない。たまに情報集めにタイムラインを見るだけだ。


「なぁ柚」


「なによ」


「僕がSNSをやっている理由、いや、あんな投稿たちをしている理由覚えているか?」


「……まあね」


「同じ趣味を持った人と色々語りたいからだ。実際梅雨の時期の新作発表に関しての投稿で何人かと色んな話ができたから、成功しているっちゃいるが、正直な話こんなことする必要はなかったと思っている」


 涼はSNSでフォローしてくれた人とガジェットの話や、キャンプの話などをすることができていた。


 空や海の勧めと柚の後押しで始めた垢抜けた投稿シリーズが身を結んだのだ。


 だからといって素直に喜べるかといえばそうでもない。同じ結果を得るだけならもっともっとずっと効率の良い方法がある。興味のないことを続ける意味なんてなかった。


 涼はSNSをやっていくことでそれを知ったが、ちゃんと柚に言ったことはない。


「あ、バレた?」


「やっぱりわかってやらせてたな?」


「ま、まあね」


「はぁ、別に騙された僕が悪いし、楽しいことややっていて興味が湧いたものがあるから後悔はないけどね。……なんか1万人いきそうじゃないか?」


「……ほんとだ。もうこれ芸能人に一歩踏み込んでるんじゃないの?」


 フォロワー数は現在八千人を超えているが、ネット記事に関する投稿がかなり伸びている。


 涼は記事がアップされたのとほぼ同時に読んでいたので知らなかったが、予想外の伸び方だ。前回の弾とは比べ物にならない。


「このアカウント消そうかな……」


「えー、もったいないわよ。このまま続けようよ」


「でもだいぶ面倒になってきているぞ。これからいろんな事務所からのスカウトを断ら……あ、またスカウトだ」


「どこどこ、どこから?」


「知らない」


 柚は涼の側まで回り込み、涼のスマホを覗き込む。


「……うーん、私も知らない。でも、結構涼のこと分析しているわね。誘い文句が涼のOKしそうな感じだし」


 涼のアカウントを隅々まで読ん()()()誘い方をしてくる事務所まで現れた。


 ウチでやれば絶対成功する!みたいな言い方ばかりがかけられるわけではない。半ば宗教勧誘みたいなスカウトも混じっていた。


「そうだな。たくさんの事務所が声をかけているってなると、変化球や心理学的アプローチをしたりとかするんだろうな。僕のこと相当調べている会社があるとか気分悪い」


「まあ、こういう流行とか流行り物ってのはすぐ取って代わられるもんなんだから、気長に待てばそのうち忘れられるんじゃないの? ……フォロワーは減らないかもだけど」


「それが一番厄介かもな。とりあえずまず先にやるのは次も特集を組みたいって言っているWEBメディアからだな。この件でだいぶ名前を広められたんだから十分だろ、手を引いてもらう」


「うちの王子さまはカッコいいこと言うわ〜……パスタ美味しい」


 柚は人形用のフォークでパスタを突き刺し口を大きく開けて頬張る。なるべく細麺を茹でてはいるが、柚にとってパスタの太さは生地をこねる麺棒ほど太い。


 ジェノベーゼソースを口にべったりとつけながら、一口、二口と手を進めていった。


「……チッ、他人事みたいに言ってぇ。柚のアカウントの正体バラしたくなったわ」


 そんなことは絶対にできないとわかっていながら、涼は柚を脅すが、柚にはお見通しでニヤニヤと笑いながら涼へのコメントを漁る。


 その後も幾たびのスカウトが涼のアカウントに押し寄せてきたが、全て断った。


 邪な気持ちで有名になりたいと思った末路がこれか、と涼は反省しながらカタカタとダイレクトメールで返事を送り続けた。

ああいう投稿を完璧なイケメンがやっちゃうと面倒なことになるってわかりきっているのにまぁ可哀想だこと(筆者にとってはマジで他人事。おもしろーい)。


次回

直談判

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