フィギュアの過酷さ
あらすじ
柚について考察し情報収集を行ったが成果なし
夢を見ている。
涼は辺りを見渡して結論づけた。
涼の瞳に映る世界は全て大きかった。
そして、涼はダンボールの中に眠らされていた。
どこだ、ここは?
外にいる? 漫画喫茶で寝たばかりだったはずだが。そしてなんで僕は制服を着ているんだ?私服に着替えたはずだろ?
辺りを見渡すと見知らぬ土地にいるのがすぐにわかった。
……柚が置かれていた状況と酷似している。僕は昨日の柚のように巨大なダンボールの中にいた。
そして川の音や、草が擦り合う音、人の足音が明瞭に聞こえる。しかし僕の家の近くにある河原ではない。
やはりこれは明晰夢だ。
だからと言って気持ちが楽になるわけじゃない。
巨大な世界は恐怖の塊だと実感した。
サイクリングしている人の姿を見ていると、自分をカエルでも踏むかのように軽くペシャンコに轢いてしまいそうに思える。
リードに繋がれている柴犬でさえ、僕よりもずっと大きく、生命の危機を感じた。
恐い。
普段意識する事もない、名も知らない小さな虫でさえ大きく写り、恐怖を与えてきた。
恐い。恐い。恐い。
そんな中、僕のところにアリがやって来た。
僕に駆け寄って来るアリはテニスボール並みに大きく、一匹二匹じゃ済まないほどの群れで迫って来た。
「何故僕の方に向かってくる!?何も甘味料は持っていないぞ!アリが何を好んでいるかなんてわからないが、興味を引く対象ではないはずだ!!」
思わず叫び出してしまった。
触覚が揺れるたびに自分が噛み殺される恐怖を覚える。自分よりも小さな、ハムスター程度の大きさしかない生き物相手にここまで死を刷り込まれるとは考えたこともなかった。
ネズミに群がられるのとは訳が違う!普段目にする昆虫がありえないほど巨大で異様な動きをしていることが未知の恐怖を植え付けてきた。
これが夢だということはわかっている。
それでも僕は声を上げて逃げ出した。
アリから逃げとすぐに段ボールの壁にぶつかった。紙製のため全く痛くないが、恐怖が増大した。
もう逃げる場所がない。どうすればいい。
ダンボールを超えようとして飛び上がったが、僕の体よりも二倍近くもダンボールは高く、同じ位置に着地する。
これが現実で本当に僕が人形サイズになったのなら二倍高くとも飛び越えることができるはずだ。しかし、普通の人間サイズの常識しか知らない僕の夢ではうまく反映されない。
アリはより直線的に迫ってきた。
また僕は飛び上がる。
そして手を伸ばしても全く届く気配がないまま落ちる。
それから何度飛んでも僕はダンボールから出られない。
アリの行進は止まらない。
もう目の前にまで来たというときに、救いの手は差し伸べられた。
「あ、フィギュアにアリが……。よいしょっと。誰だろこんなフィギュアをダンボールに捨てたの。まだ綺麗だし、こんなに格好いいのに。なんかのアイドルアニメのフィギュアかな? 作り込みがすごいわね。やっぱこういうのってすごく高いのかしら? お姉ちゃんに聞いてみたらわかるかも。こういうの好きだし」
サイクリングロードを歩いていた柚が僕の腹を握り、持ち上げた。
浮波が…助けてくれたのか。
でも痛い!強く握りすぎだ!僕は一度もそんな乱暴に浮波を扱ったことないだろ!!
……いや、何回かやったな。
まったく、夢ってのは本当に面白いことをしてくれる。これじゃあ立ち場が真逆じゃないか。これなら浮波が僕のことを恐がったのは不思議じゃないな。なぜ浮波が朝こんなところを歩いているのかは不思議だが。
それにしても巨人、本当に恐い。軽く捻り潰されそうだ。浮波の人となりを知っているからこそ僕もなんとか冷静に対応できる。
ん? そう言えば、浮波の本来の姿……いや、本当実在してるか確定したわけではないが、人間大の姿を見るのは初めてだな。
けど……せめて同じ目線で見てみたいな。
「どうしてダンボールなんかに捨てられてたのかしら。そこら辺のゴミ捨てにでも捨てればいいのに。ご丁寧に拾って下さいなんてどこの捨て犬よ。貰い手いらないわよね」
「ああ、それは僕も不思議に思ってたんだ。でも理由が全く思いつかなくてな。割とどうでもよかったのかもしれない。それか、あのダンボールに何か秘密が−−−−−」
「ふ、フィギュアが喋った!!」
思わず口に出してしまった。最初の態度から浮波には昨日の記憶が全くないことは推測できたはずなのに!
柚は危険物を遠くに投げ飛ばすように僕を高く投げつけた。
高い高い高い高い高い高い高いたかいたかいたかいたかいっっっっっ!!!!
バンジージャンプをやった時以上に高く放り投げられたように感じる。
実際は数メートル程度なのだと頭ではわかっても身体が強張る。
周囲には当然のように桜が舞い散っており、美しい景色を鑑賞する暇なく身体は天へと上昇していく。
アリに襲われかけた比にならないほどの恐怖を感じたが、一周回って冷静になれた。
人間何度もパニックに陥入れば慣れていくものなのかもしれない。
体が物理的に軽い僕は、放物線を描いて飛んでいった。
空が青い。
桜の花びらは景色に彩りを与える。
風は清涼感を生み出す。
川は命の流れを魅せた。
僕の目には自然の美が映り−−−−ゴミで汚れた深い草むらが映った。落下地点はとても汚く少しは柔らかそうだ。
柚にはもう少しだけ優しくしてあげよう。
何か恐いものがあったら守ってやろう。
夢が覚める直前にそんなことを僕は考えていた。
夢なので一人称視点で書きました。
涼の独り言、皮肉とか変な言い回し多過ぎ。
この夢ifストーリー感満載ですね。
次回
柚視点の夢(涼も柚も今日の記憶なし状態)前編