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妖精の住処  作者: 速水零
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親密度アップ?

あらすじ

バイト先の後輩に葵と付き合ってたことを漏らしてしまう。

「あいつは特別だよ。昔っからの付き合いだし、一応元カノだしな」


「ええッ!! 木下さんと葵さんって昔付き合ってたんですか!?」


 冴の似つかわしくない叫びは幸か不幸かランチの喧騒に掻き消された。


 隠そうと思っていたわけではないが、涼でもこういった恋愛関係は黙っているのが吉だと知っているので、冴に話すつもりはなかった。


 冴が心底驚いているところから、冴と仲の良い葵も話したことはなかったとわかる。


 後で葵に詰問されそうだとため息を漏らしたい涼だが、そう暢気でいられる状況ではない。


「ま、まぁな。といっても付き合ってたのは中一の頃だから4年も前のことだよ。今じゃ普通の友達だし」


「へぇ、すごく仲が良いなぁって思っていたらそんな関係だったんですか。ちなみにどちらから告白したんですか?」


「んー、そういう話は葵から直接聞いてくれ。僕が全て話すわけにはいかないしね。葵が何を言おうと僕は構わないからさ」


「えぇー、なんか生殺しの気分です。じゃあ今は誰かと付き合ってたりするんですか?」


 真面目で誠実な冴は執拗に踏み込んでは来ない。葵なら色々話してくれそうだと思い、残念だが、一歩引いて別の聞きたかった質問に切り替えた。


「いいや、ここしばらくないな。そういう佐伯さんは彼氏がいそう。どうなの?」


「えっ……い、いませんよ。私も女子校なんで出会いないですし……」


 冴は嘘を隠すように戸惑い、明後日の方向を向いた。女子校で出会いはなかったが、アルバイトを始めて涼という王子さまに出逢えた。


 冴は好きとまではいかないが、涼のことがとても気になっている。こんな感情を抱くのは生まれて初めてだ。


 これは何か面白いことがあるんじゃないか、面倒な葵との関係の詮索から逃れられるんじゃないかと思い、涼は攻めることにする。


「動揺したな? もしかして隠しているのかなぁ? ほら、教えてみなよ。僕だって葵のこと話したんだし、ここは秘密の共有といこうぜ」


「い、いませんって! ほんとです!!」


「そう、じゃあ、そういうことにしておこうかな」


「うぅー、やっぱり木下さんはいじめっ子です」


 真っ赤な顔をリンゴのように膨らませて涼に静かに抗議する冴。そんな仕草も愛らしく、涼は思わず頬を緩ませた。


 可愛さにニヤけただけなのだが、冴は涼に揶揄われているのだと勘違いする。


「そういう木下さんは今気になる人はいないんですか?」


 思わず柚の顔が思い浮かんだ。


(いやいや、気になるっていっても同居人として、だろ。手が掛かる小さな妖精みたいな奴だ。好きってわけじゃない。……否定するのもいいけど、反撃しようとする佐伯さんに追い討ちをかけたいな)


「うーん、どうかなぁ。いるかもしれないし、いないかもしれない。案外佐伯さんのことが気になって仕方ないかもよ?」


「ふぇっ、えっ……えーっと…………」


「ははは、冗談冗談。今誰かを好きになるつもりも恋人を作るつもりもないよ。そもそも初恋だって経験したことないしな」


「えー、それはウソですよ。今時初恋もまだなんてあり得ないです」


 冴は自分のことを棚に上げて、涼を攻める。


「ということは佐伯さんには初恋エピソードがあるってことだな? まだ時間あるし、聞かせてよ」


「わ、私だって初恋はまだです! 一般論の話ですよ! あー、何か良い出会いがありませんかねー」


 冴はたじろいでワタワタと手を振って誤魔化そうとしている。可愛い。


 冴も初恋はまだ迎えていないが、涼に初恋エピソードと言われた時に涼の顔が浮かんだ。


 涼は冴の普段の理知的な姿とのギャップに見惚れる。


(佐伯さん、こんな顔もするだな。中学校の頃はさぞかしモテたことだろう)


「あ、木下さんは葵さんと付き合ってたとおっしゃっていましたけど、葵さんのこと好きじゃなかったんですか?」


「んー、好きだったけど、昔から仲のいい悪友みたいな感じだったからな。恋愛感情とは違うよ」


「じゃあ葵さんから木下さんに告白したんですね」


「まあ、そういうことになるな。でも本人が僕のことをどう思ってたかとか、どうして別れたとかは聞かれても答えられないよ」


「それはわかってます。では次の質問です。木下さんは今まで何人の女の子と付き合っていたんですか?」


「葵含めて3人かな。ねえ、それよりもこういう深い話をし合うようになったし、葵みたいに名前で呼んでよ。僕は佐伯さんのこと冴って呼ぶからさ」


 いきなり「次の質問」と言ってきたあたり逆転を狙っているのだと予測した涼は、冴の想定を上回る一手を放つ。


 冴を攻め続けたいということ以前に、涼は大切な後輩の冴ともっと仲良くなりたいと思っていたので、ファーストネームで呼び合おうと提案した。


 涼は柚や葵、空に海と同年代以下の女子を名前呼ぶすることに慣れている。


 しかし、冴は幼稚園を卒業してからこれまで男子を名前呼びしたことはなかった。


「りょ…………涼……さん。こ、こう呼べばいいですか?」


 いつまでも動揺して涼に揶揄われるのは嫌だった冴は、勇気を振り絞って木下さんと呼ぶのをやめる。


「あー、それでいいよ冴。……なんか新鮮だな。でも、冴って響き好きだよ。ずっと呼んでいたいくらいだ」


 素直な感想が涼の口から漏れた。


「……りょ、涼さんっていつも猫被ってたんですね。すっかり騙されてました」


「冴だってそんな僕にいじめっ子だの騙してただのと言うような子だったっけ? みんな外行きの性格を持っているものさ。自分の領域に入れていいと思ったから、部屋着になっているんだろ。普段着飾ってあるやつだって内じゃあ酷い姿になっていたりするものだよ」


「じゃあ、今まで私は涼さんの領域には入れてもらえなかったってことなんですね。あんなに親身になって仕事を教えてくれたのに」


 それは冴が涼の過去に相手してきた司の仕事仲間の子ども達と同じ気配を感じていたからだよ、とは言えない。


 なんとも言えない涼を見て、冴はついに勝ったとしたり顔をしてみせる。


 負けたと思っていない涼だが、年齢に合わず幼い表情をしている冴を見て、ここは勝ちを譲ろうかと苦笑いを浮かべた。


 その後しばらく他愛もない話をして、涼たちは再びアルバイトに戻った。

名前呼びは今後のためにもここで仲良くさせたいという僕の構想と、木下さんって書く違和感を拭うためのものですね。

空たちの時ずっと「涼さん」って書いていたので結構気を使いました笑。


次回

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