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妖精の住処  作者: 速水零
148/312

大切な後輩

いつもと違う時間の投稿恐縮です。


あらすじ

体験授業が終わった

「最近木下さんバイト減らしました? やっぱり名門校ともなるともう受験の準備なんですね」


「あー、いや、別に受験のためじゃないよ。新しい仕事増やしてダブルワークになったから減らしたんだ。たしかにもう受験シーズンって感じが漂っているけどね」


 涼のファミレスのアルバイトの後輩、佐伯冴と休憩が被り、今休憩スペースは涼と彼女しかいない。


 週二回平日にしかバイトは入らないとマネージャーに伝えている涼だが、緊急の土日出勤には未だ参加していた。


 今日は土曜日、朝の8時から4時までのシフトで、1時間の休憩がある。


 タイミングがランチ真っ只中なのは気が引けるが、涼はモーニングの忙しさを味わったのだから許されてもいいだろう。


「ダブルワークだなんてすごいですね! あっ、もしかして最近SNSで言っている起業したって話ですか?」


「そうそう、色々あって個人事業をやることになったんだ」


「すごーいッ!! どんな会社を作ったんですか!?」


 冴はガタンッと立ち上がり、涼の顔数十センチまで顔を寄せた。


 ドアップの涼を見て「す、すみません」と顔を真っ赤にして引っ込めた冴はそれでも興奮が収まらず、涼から目を離さない。


 チラチラッと涼を伺う姿に庇護欲を刺激されるが、涼は平然と木下塾についていつもの説明をする。


「まあ、そんな感じで、今は小学生の塾講師をやっている。教材精査や授業計画もやっているから結構忙しいんだ。結構儲かりそうだからやりがいはあるけどね」


「木下さんすごく頭が良いですもんね。私も勉強教わりたいです」


「佐伯さんは真面目だから僕が教えることなんて何もないと思うよ。覚えもいいし、頭の回転も早いから勉強方法さえしっかりしていれば好成績がでるでしょ」


「いえいえ、私なんてほんとダメダメですよ。この前も期末テストの成績が悪くてお母さんに怒られちゃいました」


 冴の通う高校はこの近くにある女子校でそこそこ偏差値が高い。県内の女子校の中でもトップクラスだろう。


 冴自身はかなり勉強ができるが、両親が教育熱心なのでハードルが高い。それを冴が当然と思っているあたり冴は良家の娘といった風格がある。


 司の仕事仲間の子供たちとある程度交流のあった涼は、彼らと似た雰囲気を冴から感じていた。


 父親のこともあってあまりそう言った性質の子は好きになれない涼だが、冴は特別だ。


 アルバイトで教えたことを素直に吸収し、先輩と慕ってくれる後輩の存在に、涼はかつてない感情を抱いていた。


(こういう子を清涼剤とか言うんだろうな。ほんと、可愛い後輩だよ、佐伯さんは。困っていたら何か手伝ってあげたいけど、僕の出る幕はないだろう)


「まだ高校一年生なんだからいくらでも伸びるさ。佐伯さんは理系? 文系?」


「多分文系の道に進むと思います。ちょっと数学や物理が苦手で……涼さんは理系なんですよね。憧れます!」


「そんな凄いものじゃないさ。人には得手不得手があるんだから。ちなみに、物理の何が苦手なの?」


 物理現象の理解が大好きな涼は純粋に物理が嫌いな人の思考に興味がある。


 レールガンの仕組み、虹の発生、波の性質など様々なことが原理から学べ、まるで自分がこの世の真理に触れているような感覚を味わえる学問。小さな力学的運動にすら涼は好奇心を駆り立てられる。


「んー、何が起こっているか想像できてもそれでどんな式を使えばいいのか、目に見えない分野は想像もできなかったり、国語や歴史が好きな私にはハードルが高いです……」


「そういう人結構いるよね。まあ、最初は作業みたいに公式を当てはめる学問だとか思ったりするかもしれないけど、いろんな現象を解析するのはとても面白いよ。語れって言われたらディナーまで続きそう」


「はははっ、木下さんだからそんなこと言えるんですよ。葵さんなら「それは涼だから言えるんだし。頭のネジが飛んでないと物理なんてできないって! 一度文学に入り込んでみなよ。もうそんなこと言えなくなるから!」とか言いそうですね」


 かなり上手い葵の真似をする冴。ホールで働いている葵に聞こえていたら飛んできて同意しそうだ。


「それは佐伯さんが僕に言いたいことを葵の名で語っているだけじゃないのか?」


 葵なら言いそうだと思いながら揶揄うように言いつつ、涼は冴の額をデコピンの要領で軽く弾いた。


 つい冴と同い年の柚と同じような反応をしてしまった涼だが、悪くない気分だ。壁のないスキンシップに涼は心が温まる。


 しかし、冴が温まったのは顔の温度で、再度真っ赤に頬を染めた。


「……涼さんってそんな人でしたっけ?」


 全く嫌じゃない、むしろ嬉しかった冴は拗ねるように涼を上目遣いでジトーッと覗き込む。


 可愛い後輩の可愛らしい仕草に、涼は充実感を味わっていた。


 同じ年下の柚相手でこんな気分を味わったことは一度もない。


「悪い悪い。してやったり、みたいな顔する佐伯さんを見たら思わず手がでちゃったよ。そんな佐伯さんを見るのは初めてだなぁ。……佐伯さんってそんな人だったっけ?」


 持ち前の演技力で涼は先程の冴の真似をする。ジト目までそっくりだ。


「……木下さんってやっぱりいじめっ子なんですね」


「やっぱりって、僕はみんなに優しい紳士なつもりだけど? 根拠は?」


「葵さんと話している姿を見ればわかります!」


「あいつは特別だよ。昔っからの付き合いだし、一応元カノだしな」


「ええッ!! 木下さんと葵さんって昔付き合ってたんですか!?」


 気を許してついポロっと余計なことを話してしまった。


 冴の似つかわしくない叫びは幸か不幸かランチの喧騒に掻き消された。

僕が物理大好きなタイプなので、涼もそれにつられています。ちなみに世界史と公民が嫌いで地理はかなり好きです。

こんな可愛い後輩欲しかったなぁ。


次回

後輩と親密に

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