表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
妖精の住処  作者: 速水零
141/312

【if】俺は普通の男子高校生なんだよ

「こんなことを望んでいたわけじゃないんだよ」


 何年も使い古された普通の学習机に頬杖をつきながら、教室の外の空を仰ぎ見る。あーあ、こんなに晴れちゃ今日も暑くなるな。怠い。


 そして隣の女の視線を躱していくのも面倒だなぁ。


 俺は田中希、特出するところのない普通の男子高校生だ。


 通っている高校はザ・一般的公立中学で偏差値は50前後、すごい部活もなければ進学実績も偏差値相応。


 勉強をサボって中学生活送っていたら内心が酷く、上を目指すなんてできそうもなかった。


 俺の同中の友達に全国模試で優秀者に名前が載るほど頭いい奴がいたんだから、そいつに教えて貰えばよかったのか? 


 いや、ゲームや漫画には変えられない。目先の欲に流されやすく、すごい友達が周りにいても上昇志向の薄い凡人、それが俺だ。


 そして僕の平凡さは学力や性格に留まらない。


 運動神経、顔、スタイル、コミュ力、何をとっても優れた点がない。


 自分を卑下するのは良くないといつも2歳下の妹にガミガミ言われるが、それはあいつが可愛いからそんなこと言えるんだ。


 ともかく、そんな路傍の石のような俺に一目惚れだとか、ライバル認定だとか、汚物扱いなどは一切ないことなのだ。そのはずだ。


 それなのに、なぜ俺の隣の転校生は無遠慮に視線を飛ばしてくるのだろう。


「なあ、何か俺の顔に付いているのか? ジロジロ見られるのは得意じゃないんだが」


 本来美少女に話しかけるなんて小学生時代ならいざ知らず、今となっては勇気が試される。


 無言の圧力に負けた俺は勇気を振り絞らざるを得なかった。俺の勇気なんて雑巾に染み込んだ汚水ほどしかない。すぐ絞り切れるだろう。


「え、なに? 私が、いつ、アンタの顔を見つめたって? そんなことあるわけないじゃない。バッカじゃないの!?」

 

 何故かキレられた。意味わからん。俺の妹もたまに訳のわかんないところで沸騰するから女って生き物は理解に苦しむ。


 チャラいリア充な光ならこんな美少女の転校生相手にでも卒なく会話を保たせられるんだろうが、俺には無理だ。


 美少女に敵意を向けられたら、小市民な俺は縮こまってしまう。


「……そ、そうか……悪い」


 なんとか喉から言葉を引き絞って、再び目を背けた。美少女相手との会話は精神衛生上よろしくないな。早く席替えしてほしい。


 やる気があまり感じられない世界史教師がオスマン帝国の動揺について話している。ノートを取らずともあの先生は教科書の内容しか書かないし言わないのでこうして外を眺めてぼーっとしているのが一番良い時間の使い方だ。


 またか。


 釘を刺したはずなのに隣の美少女は俺を見ている。窓の外を見ていれば彼女のことは視界に入らないが、もうこのやりとりを1週間近くやっているのだ。気配でわかる。


 もう一回話しかけるか?


 それでももし、「だが、自意識過剰じゃないの!?バーカッ」などと言い返されたら俺はもう不登校になるかもしれない。


「なあ、あいつまた永瀬さんといい雰囲気になってないか?」

「なんであいつだけあんないい思いしているんだ」

「おい、そこの席変われ」

「永瀬さん羨ましいなぁ」


 安パイな先生が授業しているから私語が多めだが、今会話の内容は俺に集中している。


 そう、別にこの女さえ無視していれば問題はないのだが、このイベントの厄介なところは周りが囃立てることだ。


 美少女に見つめられるというのは端から見れば羨ましい限りなのだろうが、俺はこいつから殺気すら感じている。


 何故だ。


「はあ、ほんと、こんな生活を望んでいたわけじゃないんだけどな」


 退屈な世界史が終わると昼休みに入った。


 うちの学校では学食派と弁当派、そして購買派に分かれている。


 俺の家は両親共働きで妹が家事のほとんどを任されており、昼ご飯の弁当を作ってくれる。


 普段は高校に入ってできた光みたいな悪友と俺の机で昼ご飯を食べるのだが、あいつは今日学校を休んだ。久しぶりのボッチ飯か。


 黄昏ながら妹弁当を開けると中には桜でんぶでハートマークの書かれたヤバい弁当が広がっていた。


「あら? 誰かの愛妻弁当? 妬けるわねぇ。まさか田中君に彼女がいたなんて」


 ぶっ飛んだ妹弁当に固まっていると、隣から涼しげを通り越して凍りつくような冷たい美声が俺の鼓膜を震わせた。


「か、彼女じゃなくて妹だよ。それより、永瀬は今日一人で食べるのか?」


「あら、私が誰と食べようが私の勝手でしょ? 妹にそんな可愛いお弁当を作ってもらえるなんて、田中君一生の幸運を使い果たしたんじゃないかしら」


「相変わらず永瀬は毒舌だな。お、俺が何か悪いことでもしたか?」


 あまり長時間話したい相手じゃないが、囃し立ててきたり恨んでくるクラスメイトが少ないいま、この女に目の敵にされている理由を聞くチャンス。


「ええ、私の初めてを奪ったんだから、それは睨まれて当然じゃない」


「…………………は?」


 クラスに残っている弁当派、購買派は希達の会話に耳を澄ませていたらしく、希の怒号と大量の殺意が突き刺さったのは言うまでもない。

イフの短い話じゃ物足りない感ありますが、新型コロナの中でも忙しいので本編を進めていきたいと思います。

他の作品を作り始める余裕がほしい。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ