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妖精の住処  作者: 速水零
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柚の知らない王子さま

あらすじ

夜ラーメンは罪の味


(涼って友達といる時こんな感じなんだ)


 涼の乗るバイクのマフラーが奏でる心地良いサウンドに癒されながら、柚は今日見た涼の新たな一面を想起していた。

  

 キーボードでも入っているような大きなライフルバッグバッグの中で揺られている。シフトダウンやシフトアップ時のノッキングには慣れてきたが、涼が激しい運転をすると洗濯機に洗われている服のようにゴロゴロ転がってしまう。


 どこを走っているのか全くわからないまま、柚は自然体になって一緒に入れられた小型モバイルバッテリーにしがみついた。


(そういえば、初めて会った時はすごい硬くてザ・マジメ!って感じだったけど、最近は馴染やすくなったわね。親しい友達と話す時の涼って案外普通なんだ……。いいなぁ。……私も友達欲しいなぁー)


 涼が友達と遊んでいる姿に柚は憧れた。自分だって同じ中学だった友達と一緒に出かけたり、ご飯を食べたい。涼と光の妹の双子達がデートに出かけた時も同じようなことを思った。


 羨ましい。


(涼とはもう少ししたら半年の付き合いになるのに、まだまだ知らないことがたくさんあるのかも。そういえば、涼のお父さんとかお母さんの話も詳しく聞いたことなかったわね)


 しかし、柚はそこで不満を募らせる時期から卒業している。


 柚の考えることはもっぱら涼の新たな一面だった。


 涼が粗野な言葉を吐いている姿を柚は見たことがない。よくからかってくるし、イジメのような言葉を使ってくることもあるが、言葉遣いは結局丁寧なことばかりだ。「お前らがたかってくるからだろーが」こんな風に話す涼は初めて見る。


 そして、王子さまのような涼もカッコよくて好きだが、粗暴さを秘めた黒王子みたいな涼もアリだと思う。


 周りには優しく丁寧に振る舞いつつ、自分にだけはちょっと乱暴な姿を見せつつ、本当に大切にしてくれる……最高。


 まさに涼と柚の関係だ。


「私っていつになったら涼と親密な関係になれるのかなぁ。このままじゃダメだよね」


 柚の小さな呟きがライフルバッグのポケットの中で響き、マフラーの音に掻き消された。


 心臓の鼓動に合わせるようにバイクは加速し、マフラーから唸り声が上がる。


 頭の煩悩が身体全体を支配しているのではないかと錯覚するほど振動し、ふらふら揺れる。


 涼がサバゲーをしていた時の高揚感を思い出し、バイクをカチ回していた。スピードメーターの見えない柚はまるでジェットコースターに乗っている気分だ。


 少年のようにエアガンを持ってはしゃいぎ遊んでいた涼を思い出し、柚は微笑んでいた。




「ラーメン美味しそうだったぁ。私もたべーたーいー!」


「カップ麺買ってきてやろうか?」


「えー、そんなんじゃヤダ! ラーメン屋で食べたい!」


「そんなこと言ってもなぁ。結構キツイぞ」


 ラーメン屋での一人客はカウンターに案内されがちで、柚に隠れて食べさせるのは厳しい。テイクアウトもできない店がほとんどだ。


 涼はなんとか叶えてあげたいが現実的でないと柚をなだめる。


「でも、最近話題の配達サービスを使えばいけるでしょ。ここムッチャ都会だからサービス範囲内だろうし」


「配達サービス? そんなのあるのか。……あ、そういえば新しくフォロバしたなんかの有名人?が利用しているストーリーを上げてた気がする。確か牛丼屋やファミレスとかいろんな店のメニューを配達してくれるサービスだっけ。歩合制で稼げるらしいけど」


「そうそうそれそれ。それなら私でも家で店のラーメンが食べられるじゃない!」


「まあ、そんなサービスがあるなら今度利用するか。今日はもう眠いから寝る」


「えぇー! ヤダヤダヤダ! ラーメンたべーたーいぃぃぃ!!」


 柚は駄々っ子のようにジタバタとフローリングの上で暴れ出した。先ほど涼を少年のようだと思っていた女子高生の姿ではない。

  

 しかし、涼は柚の辛い気持ちがよくわかっており、同情の視線を向けた。


 運動し、疲れ果てた深夜帯、美味しそうな匂いが漂う中、目の前でラーメンを頬張られる。まるで拷問だ。


「………………はぁ。…わかったよ、そこまでいうなら頼んでやるから。大人しくテーブルの上に乗っていてくれ」


「やったーーっっ!!! ありがとう!!!」


「えーっと、登録の仕方は………あ、クレジットカードが必要なのか。まあ、いろんな店が利用できる以上キャッシュ払いは非効率過ぎるもんな。えーっと、確かこの辺に父さんクレジットカードがあったはずだけど……」


 涼の父親は涼の生活費用の口座で落ちるクレジットカードを家に残していた。もし仮に涼が使い過ぎたりクレジットカードがないといけない状況になった時のための保険だ。


 涼の父親は生活費用の口座の残高を気にしないし、クレジットカードでいくら使われても気にしない。


 よって涼は躊躇いなく父親のクレジットカードを配達サービスアプリに登録し、涼が先ほど食べたのと同じ横浜家系ラーメンを注文した。


「涼ってクレカ持ってたっけ? あー、お父さんのか。よっぽど信頼されているのね。……そういえば今まで聞いたことなかったけど、涼のお父さんってなにしている人なの?」


 柚が食べられない分(実質全て)は明日の夕飯かなぁと思っていると、柚がおずおずと質問してきた。


「あぁ……そういえば、説明したことなかったな。いや、したくなかったって方が正しいか………ま、柚とはこれからずっと一緒に暮らすんだし、話した方がベターか」


「ず、ずっとってッッ!! ……ばか!はそういうことサラッと言うのやめてよ。心臓に悪い。……フンッ」


 柚は頬を真っ赤に染めてそっぽを向いた。


 涼は柚の様子を気にもせずキッチンに向かい、カフェインレスコーヒーを淹れる。


 涼の面持ちは暗く、お湯を入れる手は少し震えている。冷房がしっかり聞いているのに、涼の身体にはうっすらと汗が噴き出ていた。

 

「じゃあ父さんの話の前に、この木下家、僕の父さん母さんのことから話し始めよう」


 柚用のカップにも注ぎ終え、涼は柚の目をしっかり覗いて語り始めた。

ここで第7章は終幕です。

この章は柚のこれから先の生活、バイトについて話を進めるのと同時に、涼の友達の話をしましたね。

これから起こる第8章前の息抜きみたいな回でした。

今までの妖精が荒れる話ではなく、王子さまが荒れる話が始まります。その前にイフで予定変更の希回を挟みますね。


次回(第8章1話)

木下家

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